新収益認識基準(収益認識に関する会計基準)とは?ポイントを説明

更新日:2023年05月24日

新収益認識基準

新収益認識基準(収益認識に関する会計基準)とは、2021年4月より対象企業が適用しなければならない収益認識基準のことです。適用すると、5つのステップを経て収益を計上しなければなりません。本記事で、新収益認識基準導入の流れや、ポイントを説明します。

目次

新収益認識基準(収益認識に関する会計基準)をわかりやすく説明

新収益認識基準(新収益計上基準)とは、2021年4月から対象企業が強制で適用しなければならない収益認識基準です。ここから、収益基準の概要や従来の収益認識の違いなどを通して、新収益認識基準がどのような制度なのか理解していきましょう。

そもそも収益認識基準とは

そもそも収益認識基準とは、収益を「どのように認識し、財務諸表上にどのように反映するのか」を決めた基準です。収益を認識するタイミングには、以下3つの考え方があります。

  1. 発生主義
  2. 実現主義
  3. 現金主義

家具製造業者が卸売業者から家具の発注を受ける例を想定し、違いを考えてみましょう。

発生主義とは、取引が発生した時点で計上する考え方です。発生主義の考え方では、家具製造業者が卸売業者から注文を受けた段階で収益を計上します。

実現主義とは、取引が実現して代金を受け取る権利を得た時点で計上する考え方です。実現主義の考え方では、家具製造業者が卸売業者に家具を提供し、現金や受取手形などを受け取った段階で収益を計上します。

現金主義とは、取引が実現して現金を受け取った時点で計上する考え方です。現金主義の考え方では、家具製造業者が卸売業者に家具を提供し、現金を受け取った段階で収益を計上します。商品代金が売掛金や受取手形になっている場合、現金化するまで収益として計上しません。

新収益認識基準の適用指針が公表された背景

従来、日本企業は、旧大蔵省が定めた「企業会計原則」に基づき、財務諸表を作成していました。

しかし、企業会計原則は実現主義に基づくルールがあるものの、包括的な会計基準ではないため、収益をいつ認識すべきか判断が難しいことが課題です。そのため、企業会計原則では、企業によって売上計上のタイミングが異なることがあります。

また、国内企業の多様化・グローバル化などが進むにつれて、従来のやり方では対応しきれなくなっていました。

そこで、収益認識基準を取り巻く課題に対応すべく、2018年に公表されたのが「収益認識に関する会計基準(新収益認識基準)」です。新収益認識基準は、国際的な企業比較ができるように、IFRS(国際会計基準)第15号に沿って定められています。

なお、新収益認識基準は、企業会計原則に優先して適用される会計基準です。

新収益認識基準と従来の収益認識の違い

従来の収益認識基準の場合、「出荷基準」「引渡基準」「検収基準」のいずれかで収益を計上するかを企業が選択できました。出荷基準は商品・製品を出荷したタイミング、引渡基準は相手に商品・製品を引き渡したタイミング、検収基準は商品・製品の検品が終了したタイミングです。

それに対し、新収益認識基準は収益計上の基準が厳格で、「履行義務を充足する」まで収益を認識できません。また、収益を認識するまでに、5つのステップを踏むこととされています。

新収益認識基準に関係する会社や取引

新収益認識基準は、全ての会社に強制で適用されるわけではありません。ここから、新収益認識基準が適用される会社や、導入に伴い影響を受ける主な取引を解説します。

新収益認識基準が適用される会社

新収益認識基準が強制適用される主な会社は、以下のとおりです。

  • 有価証券報告書の提出が必要な上場会社
  • 会社法監査対象法人(会社法上の大会社)
  • 大会社などの連結子会社・関連会社、上場準備会社

監査対象法人以外の中小企業については、引き続き企業会計原則に則った会計処理でも対応可能です。中小企業の定義は、中小企業基本法第2条第1項で定められています。

たとえば、サービス業の場合、資本金・出資総額が5,000万円以下、もしくは常時使用する従業員が100人以下であれば中小企業です。小売業であれば、資本金・出資総額が5,000万円以下、もしくは常時使用する従業員が50人以下が該当します。

なお、中小企業でも、希望すれば新収益認識基準を適用できます。

新収益認識基準導入で影響を受ける主な取引3つ

新収益認識基準を導入することで、影響を受ける可能性がある主な取引は以下のとおりです。

  1. 返品権付きの販売
  2. ポイント引当金
  3. 代理人取引

一方、以下の取引には新収益認識基準が適用されません。

  • 「金融商品会計基準」の範囲に含まれる金融商品に係る取引
  • 「リース会計基準」の範囲に含まれるリース取引
  • 保険法における定義を満たす保険契約
  • 同業他社との交換取引
  • 金融商品の組成または取得において受け取る手数料
  • 「不動産流動化実務指針」の対象となる不動産の譲渡

ここから、新収益認識基準導入で影響を受ける取引の内容をそれぞれ解説します。

1. 返品権付きの販売

返品権付きの販売とは、顧客の一方的な意思表示により、購入した商品を売り手に返却して対価の全額、もしくは一部の返金を求められる契約のことです。新収益認識基準導入前は、所定の要件に該当する場合に返品調整引当金を売上総利益相当額に基づき計上することになっていました。

新収益認識基準導入後に返品権付きの商品・製品を販売した場合は、返品されると見込まれる商品・製品の対価を除いて収益を認識することとされています。また、顧客への返金見込額を返金負債として認識し、返金負債の原価分を返品資産として認識する点もポイントです。

2. ポイント引当金

ポイント引当金とは、各会社が発行しているポイントのうち、費用処理していない期末ポイントの発行残高に対して将来利用する見込の金額分を引当処理したものです。一般的に、新収益認識基準導入前は、一定の要件を満たす場合に期末時点の未使用ポイント残高をポイント等引当金として費用処理していました。

新収益認識基準導入後は、商品販売で顧客にポイントを付与した際、ポイント相当分を収益として計上しません。その代わり、顧客のポイントが失効した場合や、次回以降商品購入時にポイントを使用した際に、収益として計上します。

3. 代理人取引

代理人取引とは、百貨店のように、代理人が商品販売やサービス提供することです。新収益認識基準導入前は、代理人が総額表示で計上することがありました。

しかし、新収益認識基準導入後は、代理人は純額で計上しなければなりません。総額とは、顧客対価そのもので、純額は顧客対価のうち供給者(品物を提供している側)に対して払う金額を控除した金額のことです。

総額表示から純額表示に変更することで、大幅に売上高が減少することもあります。

新収益認識の流れ

新収益認識の流れは、以下の5ステップに分けられます。

  1. 契約の識別
  2. 履行義務の識別
  3. 取引価格の算定
  4. 取引価格の配分
  5. 収益の認識

各ステップを確認していきましょう。

1. 契約の識別

顧客との取引をどのように契約するか把握します。「契約」は、契約書締結に限らず、口約束や注文書発行などの商慣行も対象です。

今回は、契約書上の対価額が1,000万円で、取引先の企業に商品(パソコン)と保守サービスを提供する契約を考えてみましょう。保守サービスとは、システム障害発生時に復旧支援やシステム改善などをサポートすることです。

2. 履行義務の識別

顧客との契約に、どのような約束(履行義務)が含まれているかを把握します。「履行義務」は、新収益認識基準導入とともに取り入れられた、会計の新しい概念です。

今回のケースでは、「商品の提供」と「2年間の保守サービス提供」が履行義務に該当します。同じ契約書に記載されていても、別の履行義務として識別する点に注意しましょう。

3. 取引価格の算定

取引で買い手から受け取る対価(取引価格)を算定します。ただし、取引価格は、必ずしも契約書上の金額とは限りません。

たとえば、販売時に顧客にポイントを付与する場合は、付与したポイント分を差し引いた金額で取引価格を算定します。今回のケースはポイント付与や返品権付きの販売などではないため、取引価格は契約書に記載された1,000万円です。

4. 取引価格の配分

履行義務ごとに、取引価格を配分します。履行義務がひとつの場合は、配分の作業は不要です。

今回のケースで「パソコン自体は800万円」「保守管理サービスは200万円」としていれば、契約書上の対価額をそのとおりに配分しましょう。商品・サービスごとに明確な料金を定めていない場合は、新収益認識基準を導入するにあたって、料金設定を検討する必要があります。

5. 収益の認識

履行義務が充足されれば、収益を認識できます。履行義務が充足するのは、商品販売のように「一時点」のタイミングと、サービスのように「一定期間」経てからのタイミングの2種類です。

今回のケースでパソコンの提供は「一時点」、保守管理サービスの提供は「一定期間」に分類できます。パソコンは当期800万円で収益計上できる一方、2年間にわたる保守管理サービスは当期100万円、翌期100万円と分けて計上しなければなりません。

新収益認識基準に対応するためのポイント

新収益認識基準は、今までと異なる概念のため、現場が混乱しないように慎重に対応しなければなりません。新収益認識基準に対応するためのポイントは、以下のとおりです。

  • 自社の現状を把握する
  • 導入対象となる取引を絞り込む
  • スケジュールを立てて実行する
  • 運用を定着させる

各ポイントを解説します。

自社の現状を把握する

契約やシステム、業務フローなど自社の現状を把握しましょう。

まず、既存の契約を確認し、その中にどのような履行義務が存在するかを整理します。次に、全体の業務フローを考慮し、新収益認識基準を導入するとどのような混乱が生じるか検討しましょう。

自社だけで対応できないシステム上の問題は、ベンダーに確認してください。

導入対象となる取引を絞り込む

既存取引のうち、導入対象となる取引からとくに重要度の高いものを絞り込みましょう。取引回数が多いものや金額が大きいものから優先的に導入を検討します。

絞り込んだら、各方面への影響を検討しておくことも大切です。たとえば、契約が代理人取引の場合、総額から純額に変更することで数字上大幅な売上減少となることがあります。

スケジュールを立てて実行する

突然導入すると現場が混乱し、他業務に支障をきたすおそれがあるため、スケジュールを立てて計画的に実行しましょう。スケジュールに応じて、対応する人員を調整することも大切です。

人員確保・スケジュール策定したら、具体的な対策を実行します。システム導入が必要な場合は、社内だけでなくベンダーとの打ち合わせが必要です。

運用を定着させる

新収益認識基準を社内に導入した後も、運用の定着を心がけることがポイントです。現場で問題は生じていないか、担当者に過度な負担を負わせていないか、などを確認します。必要に応じて改善策も検討しましょう。

また、月ごと・四半期ごと・決算期ごとに、収益の計上額やタイミングは正しくなされているかをチェックすることも大切です。

新収益認識基準のまとめ

2021年4月より、大会社や上場企業は強制的に新収益認識基準を適用しなければならなくなりました。導入に伴い、返品権付きの販売や代理人取引などで収益計上に影響が出ます。

新収益認識の流れは、契約の識別・履行義務の識別・取引価格の策定・取引価格の配分・収益の認識の5ステップです。これから導入する場合は、スケジュールを立てて計画的に実行しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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