税理士の独占業務とは~税理士以外の税務相談は違法?~

更新日:2023年04月13日

税理士の独占業務

税理士の独占業務は、税務の代理・税務書類の作成・税務相談の3つです。無資格者が独占業務を行うとペナルティを課せられます。 本記事で、税理士の独占業務の内容や、依頼する際の注意点を理解しておきましょう。

そもそも税理士とは

そもそも税理士とは、国が認める税の専門家です。原則として、税理士試験に合格して日本税理士会連合会の「税理士名簿」に登録しなければ税理士を名乗れません。試験科目は、会計学に属する科目のうち2科目(必修)と、税法に属する科目のうち3科目です。ただし、税理士法に定める一定要件を満たす場合は、例外的に一部あるいはすべての税理士試験が免除されます。2023年2月末日現在、税理士の登録者数は80,634人です。ここから、税理士の役割や公認会計士の違いについて、確認していきましょう。参考:日本税理士連合会「税理士登録者数」

税理士の役割

個人や企業の円滑な納税をサポートすることが、税理士の役割です。以下が、税理士の主な業務として挙げられます。

  • 税務代理
  • 税務書類の作成
  • 税務相談
  • e-taxの代理送信
  • 会計業務
  • 補佐人・会計参与として勤務
  • 租税教育や行政・司法支援などの社会貢献

なお、税理士は顧客からの税務相談に乗る役割がありますが、脱税などに関する相談は当然禁止されています(税理士法第36条)。

税理士と公認会計士の違い

税理士と混同しやすい職業が、公認会計士です。どちらも会計の専門家である点は同じですが、専門分野や独占業務が異なります。

公認会計士とは、監査・会計の専門家です。短答式と論文式の公認会計士試験に合格し、2年以上の業務補助等の期間を経たのち、実務補習を受けて日本公認会計士協会による修了考査に合格し、内閣総理大臣の確認を受ければ公認会計士になる資格が与えられます。公認会計士として開業するには、公認会計士名簿に登録して日本公認会計士協会に入会しなければなりません。2023年2月末日現在、会員数は34,712人です。

公認会計士の主な仕事内容として、監査・税務・コンサルティングが挙げられます。また、公認会計士法第2条第1項によると、公認会計士の独占業務は「財務書類の監査」や「財務書類の内容の証明」です。

参考:日本公認会計士協会「会員数等調」

参考:e-Gov「公認会計士法第二条」

税理士の独占業務とは

税理士の独占業務とは、税理士の資格を持つ人しかできない業務のことです。税理士の独占業務は、税理士法第二条第一項から第三項で規定されています。

具体的な独占業務は、以下の3つです。

  • 税務の代理
  • 税務書類の作成
  • 税務相談

各独占業務の内容を詳しく解説します。

参考:e-Gov「税理士法第二条」

1. 税務の代理

税務の代理は、税理士法第2条第1項第1号で規定されています。税務の代理とは、本来納税者自身で進めるべき税務手続きを代理することや代行することです。税務とは、税務署に税金を申告することや、税務署から調査や処分を受けたときに主張や陳述をすることを指します。インターネットで国税に関する手続き(e-tax)を代わりに申告することも、税務の代理のひとつです。そのため、税理士の資格を持たない人が知人の代わりにe-taxで申告することはできません。

2. 税務書類の作成

税務書類の作成は、税理士法第2条第1項第2号で規定されています。税務書類の作成とは、納税者に代わって税務官公署に税金を申告する際の書類を作成することです。税務書類の例として、以下の書類が挙げられます。

  • 所得税・消費税の確定申告書
  • 法人の決算書
  • 法人税・消費税・地方税の確定申告書
  • 所得税または法人税・地方税の中間申告書
  • 法人税・消費税・地方税の予定申告書
  • 法定調書
  • 源泉徴収票
  • 償却資産税申告書

確定申告する場合、確定申告書が税務書類です。たとえ自分が確定申告書の作成方法を知っていても、知人の代わりに作成することはできません。

3. 税務相談

税務相談は、税理士法第2条第1項第3号で規定されています。税務相談とは、納税者から税務署への税金申告や、税務署から調査や処分を受けたときの主張や陳述方法の相談を受けることです。「税金の還付請求をしたい」「自分が納めるべき税金の計算方法がわからない」「税負担を軽減するため、節税対策を検討したい」など、税務相談の内容は多岐にわたります。

近年、SNS・ブログなどで税務相談に気軽に答えているケースがありますが、本来税理士以外の人が対応してはいけない行為です。具体的な税務について、知人に相談することもできないため注意しましょう。

税理士に独占業務を依頼するタイミング

税理士に独占業務を依頼する主なタイミングは、以下のとおりです。

  • 節税対策を検討中の時
  • 税務調査が入る時
  • 創業・起業した時

各タイミングを解説します。

節税対策を検討中の時

法人税を下げるための節税対策を検討中の時に、税理士に独占業務の依頼をすることがあります。節税対策とは、法律の範囲内で税負担を軽くするための対策のことです。節税対策は、専門家への相談なしに簡単にできるものではありません。

たとえば、役員報酬を上げて利益を0円に近づければ法人税の負担を軽減できますが、よく計算せずに決めると法人税を上げすぎて赤字になったり、下げすぎて想定したほど利益を下げられなかったりすることがあります。

また、そもそも役員報酬は事業年度開始日3ヶ月以内の変更、かつ定期同額給与など要件を満たさなければ損金算入ができません。損金算入とは、法人税の計算をする際に益金から損金(費用)として控除することを指します。

このように節税対策には色々と考慮しなければならない点があるため、専門家である税理士への税務相談が大切です。決算のタイミングで相談すると、十分な節税対策ができないため、早めに相談するようにしましょう。

参考:国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」

税務調査が入る時

税務調査が入ることになった時に、税理士に独占業務を依頼することもあります。税務調査とは、国税庁が管轄する税務署が納税者が正しく納税しているか調べることです。税務調査で誤って過少申告していることが発覚すれば、修正申告して不足分の税額を納付しなければなりません。

税務調査への立ち会いは、税理士の独占業務である「税務の代理」に該当します。税務調査が入る際に税理士に依頼すれば、事前に必要な書類や応対方法についてアドバイスをもらえる点、調査官からの質問や追求に対して代わりに説明してもらえる点、調査がスムーズに進む点などがメリットです。

国税庁の発表によると、2017年度時点で法人税の実調率は3.2%、申告所得税の実調率は1.1%と高くはありません。しかし、税務調査が入りやすい業種もあるため、いざという時に依頼することを検討しておきましょう。

参考:国税庁「税務行政の現状と課題」

創業・起業した時

創業・起業した時や法人成りした時に税理士に独占業務を依頼します。たとえば、決算書の作成や税務申告は税理士の独占業務です。

また、創業・起業した時に税理士に依頼すれば、資金繰りや創業融資計画の作成をサポートしてくれます。資金繰りや創業融資計画の作成自体は独占業務に該当しませんが、関連する税金面の計算・相談は税理士の独占業務です。さらに、依頼する税理士法人が国の認定支援機関であれば、助成金・補助金申請の支援も受けられます。

なお、法人設立する際の定款作成・認証は司法書士と行政書士、設立登記申請は司法書士の業務です。創業・起業した時に税理士以外の専門家にも依頼が必要な点に注意しましょう。

税理士の独占業務を依頼する際の注意点

税理士に独占業務を依頼する際、以下の点に注意しなければなりません。

  • 無資格者が独占業務を実施するとペナルティ
  • 顧問料が発生

各注意点を解説します。

無資格者が独占業務を行うとペナルティ

たとえ無報酬であっても、無資格者が独占業務を行うと、ペナルティを課される点に注意しましょう。税理士法第59条第1項第4号によると、税理士でない人(無資格者)が独占業務に違反すると「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処せられることがあります。

税務計算や書類作成は複雑で、知識や経験がなければ誤った方法・金額で納税することに成りかねません。それゆえ、税理士だけが税に関する独占業務を行えるよう法律で定められています。法律違反にならないように、税務関連の悩みがある場合は必ず税理士に相談するようにしましょう。

参考:国税庁「税理士制度 2 非税理士により行うことが禁止される税理士業務」

顧問料が発生

税理士に独占業務を依頼すると、当然顧問料が発生する点にも注意しましょう。専門的な知識を要しない手続きであれば、自分で対応することでコストを削減できます。

また、どうしても依頼しなければならない場合は、顧問料を抑えるために自社にあった規模の税理士・税理士法人を選ぶことが大切です。無駄な顧問料支払いを防ぐため、専門外の税理士に依頼せず、依頼内容に沿った分野を専門とする税理士に依頼することも心がけましょう。

税理士以外でも一部「税理士業務」可能なケース

実は、税理士以外でも一部「税理士業務」が可能です。税理士法第52条では、「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない」と規定されています。

別段の定めとは、以下の人たちが一定の条件下で独占業務を進められることです。

  • 地方公共団体の職員や公益社団法人・公益財団法人などの団体の役員・職員
  • 弁護士または弁護士法人
  • 行政書士または行政書士法人

たとえば、地方公共団体の長が必要と判断すれば、職員が税理士の独占業務である申告書の作成や税金に関する相談に応じられることがあります。

続いて、弁護士や行政書士と税理士業務の関係を確認していきましょう。

参考:国税庁「税理士制度 2 非税理士により行うことが禁止される税理士業務」

弁護士

弁護士は、法律の専門家として法廷活動・紛争予防活動・人権擁護活動や、立法・制度の運用改善に関与する活動などをする人を指します。所属弁護士会経由で国税局長に通知することで、その国税局の管轄区域内で税理士業務が可能です(通知弁護士制度)。なお、弁護士であっても、税理士業務に関する部分には税理士法の規定が適用されます。

行政書士

行政書士は、法律の専門家として「官公署に提出する書類」「権利義務に関する書類」「事実証明に関する書類」の作成と、その代理・相談を業とする人を指します。行政書士は、他人の求めに応じて以下の租税に関する一部税務書類の作成が可能です。

  • ゴルフ場利用税
  • 自動車税
  • 軽自動車税
  • 自動車取得税
  • 事業所税
  • その他政令で定めるもの

ただし、行政書士は税金の申告に関する具体的なアドバイスができません。

独占業務以外にも税理士の仕事がある

独占業務以外でも、税理士に相談することがあります。独占業務以外の税理士の主な業務は、以下の3つです。

  • M&A支援
  • 国際税務
  • コンサルティング業務

それぞれの仕事内容を解説します。

1. M&A支援

M&A支援とは、M&Aを達成するために必要なサポートのことです。税理士にM&A支援を依頼すれば、中小企業M&Aに伴う複雑な税務処理についてアドバイスを受けられます。税理士がM&A支援で果たす主な役割は以下のとおりです。

  • 税務・会計全般のサポート・助言
  • 税務デューデリジェンス
  • 企業価値算定
  • M&Aアドバイザリー業務

税務デューデリジェンスとは、M&A対象企業の税務面の問題点やリスクなどを洗い出しすることです。また、企業価値算定は対象企業の価値を客観的な数字で表すことを指します。

2. 国際税務

国際税務とは、個人や法人が海外進出する際や、海外から日本に進出する際の課税に関する取り決めのことです。グローバル化が進む現代では、複数国間で税務手続きを進めることもあります。

海外進出する際は、日本と進出先で二重に課税されることを防ぐために、国際税務を理解しておかなければなりません。税理士に国際税務について相談すれば、進出時の税務リスクや手続き方法などに関するアドバイスを得られるでしょう。

3. コンサルティング業務

コンサルティング業務とは、課題を抱えている個人や法人からの依頼に対し、解決に向けた支援活動をすることです。税理士にコンサルティング業務を依頼し、自社の決算書に基づき解決策を提示してもらうこともあります。

なお、紹介した3つの業務はいずれも専門性を問われるもののため、たとえ税理士であっても携わった経験や実績がなければ、有意義なアドバイスやサポートはできないでしょう。正式に依頼する前に、経験・実績を踏まえた慎重な税理士選びが必要です。

税理士の独占業務のまとめ

税理士の独占業務は、税務の代理・税務書類の作成・税務相談の3つです。原則として、税理士の資格を持たない人は独占業務ができません。税務面で疑問があれば、無資格者ではなく、必ず税理士に確認するようにしましょう。また、M&A支援や国際税務などについて税理士に確認する際は、該当業務に関する経験・実績を確認することが大切です。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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