株主資本等変動計算書とは何か~特徴、作成目的、記載方法について解説~

2023.04.20

株主資本等変動計算書

株主資本等変動計算書とは決算書の1つで、貸借対照表の「純資産の部」の一会計期間の変動額を表す書類です。この記事では、株主資本等変動計算書の特徴、記載方法、読み方などについて解説します。

株主資本等変動計算書の3つの特徴

株主資本等変動計算書とは、貸借対照表の「純資産の部」において、一会計期間の変動額を表す決算書に含まれる書類のひとつです。ここでは、株主資本等変動計算書を理解するための3つの特徴について解説します。

純資産の変動を記載する

株主資本等変動計算書は、株主資本の変動を一覧にしたものです。株主資本の増減を項目ごとに仕分けして、純資産の変動理由などを記載します。
損益計算書のように、利益の額を計算する構造ではなく、純利益(株主資本)の変動のみを確認できることが特徴です。書類に対して国が定めている形式はありませんが、多くの会社では、「横列に純資産部の項目」「縦列に変動事由の項目」を並べて作成されています。

株主資本の流れを把握できる

平成18年(2006年)に新会社法が施行されたことで、株主資本等変動計算書が導入されました。新会社法では、株式会社は、株主総会や取締役会の決議を経る前提こそあるものの、剰余金の配当をいつでも実施できるようになりました。

その決断をいつでもできるようにするには、常に資本金の流れを把握する必要があります。貸借対照表や損益計算書では、株主資本の流れを把握しにくいため、この株主資本等変動計算書が活用されるようになりました。

全ての会社に作成義務がある

株主資本等変動計算書は、他の決算書類と同じように、全ての会社に作成義務があります。また、いつでも株主総会や取締役会が開催できるように、情報を更新する必要があります。なお、合資会社や合同会社がこの書類を作成する場合には、「社員資本等変動計算書」に名称が変わります。

株主資本等変動計算書の記載方法

株主資本等変動計算書の記載方法や各項目の意味について解説します。株主資本等変動計算書には、主に以下の項目が記載されており、これらの情報から資本変動を把握できます。

①当期首残高

当期首残高とは、期が始まる時点の残高です。前期に記載されている株主資本等変動計算書の「当期末残高」から移動させます。「当期末残高」の金額が、前期の貸借対照表「純資産の部」に記載されている金額と同じになっていることを確認しましょう。この項目をもっとも上の横列に記載することで、その期が始まるときにあった残高を把握しやすくなります。

②当期変動額

当期変動額とは、変動した項目ごとの金額を表します。

当期変動額に記載する項目としては、以下が挙げられます。

  • 新株の発行
  • 剰余金の配当
  • 当期純利益
  • 自己株式の処分
  • その他の項目における当期変動額

これらを合計した金額が、当期変動額です。

例えば、新株を発行して1,000万円増資した場合、「新株の発行」の横列にその数値を記載します。500万円を資本金、500万円を資本準備金として扱う場合には、それぞれ分けて記載する必要があり、「株主資本の当期変動額の合」欄には合計の1000万円を記載します。なお、当期変動額に記載する項目には決まりはなく、会社の事業に合わせて設定できます。

③当期末残高

当期末残高とは、当期首残高と当期変動額を合計した金額です。株主資本等変動計算書では、もっとも下の横列に記載されます。

当期末残高では、株式資本の各項目における変動の合計を把握できます。ここに記載される金額は、「貸借対照表」に記入される「純資産の部」の各項目と金額が一致するため、間違いがないかどうかチェックしましょう。

④株主資本(10項目)

株主資本等変動計算書には、株式資本の項目ごとに、当期増減高の理由について記載する必要があります。株主資本として扱われる項目は、主に10項目あります。

資本金 株主が会社に対して支払っている金額。
資本準備金 株主が会社に対して支払っている金額のうち、資本金とされなかった部分の金額。
その他資本剰余金 資本準備金以外の資本剰余金や、資本金及び準備金減少差益などが含まれる。
利益準備金 剰余金の配当時に積み立てをする場合に処理する項目。
○○積立金 利益準備金のほかに、積み立てるときに使用する項目。
繰越利益剰余金 過去の利益の累積のうち、利益準備金や積立金に計上されていなもの。
自己株式 自己株式を得たときに、代金を処理する項目。
その他の有価証券評価差額金 売買目的有価証券や満期保有目的債券以外の出資・持株に評価差額が出たとき、使用する項目。
繰延ヘッジ損益 ヘッジ会計の方法で処理したときに出る評価差額。
土地再評価差額金 事業用土地の再評価をしている場合に、再評価額-取得価額+繰延税金資産(または負債)を計算した項目。

それぞれの項目に当てはまる増減を記載することで、その期の資産の動きが分かります。

⑤その他の項目

株主資本等変動計算書の横列には、株主資本の合計金額記載欄と、評価・換算差額等の合計金額記載欄を設けます。

また、「新株予約権」についても記載します。新株予約権とは、株主が申請することで、その会社の株式を取得できる権利です。この権利を使うことで、株主は市場価格よりも安く株を購入できます。ただし、新株予約権にも「ストックオプション」や「無償割当」などの種類があるため、確認しておく必要があります。

株主資本等変動計算書を作成する目的

株主資本等変動計算書を作成することで、会社の保有する純資産の動きを可視化できます。株主総会での報告や、税務署への報告、金融機関への提出などをするために作成します。

役員や株主からも確認できる書類となるため、今後の業績について予測を立てる資料としても扱われます。なお、株主資本等変動計算書のみを作成・提出する場面はなく、他の決算書も合わせて作成することが一般的です。

株主資本等変動計算書を作成するタイミング

株主資本等変動計算書は、前期の決算日から株主総会までの間に作成します。株主総会は、決算日から2~3ヶ月以内に開催されることが多いため、事前に準備しておく必要があります。

また、株主資本等変動計算書を手書きで作成する企業もありますが、手書きの書類はミスや計算間違いの可能性もあるため、念入りなチェックが欠かせません。決算書の項目によっては、金額が同じ部分もあるため、それらを照らし合わせて確認をしましょう。

株主資本等変動計算書を見て読み取れる内容

株主資本等変動計算書を見ると、会社の利益・損益に関する情報を読み取れます。また、キャッシュフロー計算書から生み出される収支金額と比較・分析することも可能です。

そのほかにも、貸借対照表に記載されている借入金残高・純資産額と株主資本等変動計算書を照らし合わせて見ることで、収益の過不足状況を確認して、今後の利益計画を立てられます。決算書から読み取れる情報を精査して、今後の経営判断に生かしましょう。

その他の決算書について

株主資本等変動計算書以外にも、提出する決算書があります。決算時に用意する書類として、主に5つが挙げられます。

貸借対照表 資産、負債、純資産の状態を記載する書類
損益計算書 企業の収益・損失状況が分かる書類。事業の収益から諸々の費用を差し引いた金額を記載する。
キャッシュフロー計算書 企業内のお金に関する流れを記載した書類
個別注記表 決算書を作成する上での会計方針等を確認する書類

それぞれの決算書は、バラバラに存在しているわけではありません。各項目の意味が重複することも多いため、全てつながっていると考えるとよいでしょう。

例えば、株主資本等変動計算書に記載する「当期首残高」の金額は、貸借対照表の「総資産の部」に記載する金額と同じです。

また、損益計算書で算出された「当期純利益」は株主資本等変動計算書に計上されます。それぞれの書類に記入した金額が合っていることを確かめながら作成しましょう。

決算書を分析して今後の経営に役立てることが重要

決算書は、ただ結果を報告するための書類ではありません。数値を分析することで、今後の経営に役立てられます。また、企業の実績について、外部に発表するための書類としても役立ちます。資金調達の実績や今後の展望など、長期的な企業分析のためにも、決算書を計画的に準備することをおすすめします。

株主資本等変動計算書まとめ

株主資本等変動計算書の目的や記載方法、他の決算書などについて解説しました。株主資本等変動計算書は、会社の実績を残すだけではなく、今後の展望や企業方針を決める参考資料としても役立つ書類です。また、株主にとっては、純資産の変動が一目で分かるため、非常に重要な決算書となります。

【記事の執筆と監修について】

この記事は、株式会社フリーウェイジャパンが執筆および監修をしています。当社は1991年に創業し、税理士事務所向けの会計ソフトの販売からスタートした会社です。2009年から中小企業・個人事業主の方向けにクラウド型の業務系システムの開発・販売を開始しました。当メディアは2012年から運営しており、会計や金融など経営に関する幅広い情報を発信しています。また、当社は本当に無料で使える会計ソフト「フリーウェイ経理Lite」を提供しており、ご利用いただければ費用をかけずに業務効率化が可能です。詳しくは、こちら↓↓

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