利益とは?売上や粗利との違い、種類や計算方法について解説
更新日:2025年06月05日

事業活動において、「利益」はよく耳にする言葉ですが、その意味や種類、計算方法を正確に理解している人は意外と少ないかもしれません。利益は企業の存続と成長に欠かせない要素であり、事業にかかわるすべての人にとって、その仕組みを知ることは重要です。本記事では、利益の基本的な概念や損益計算書における種類、計算方法、さらに利益向上のための施策について解説します。
目次
利益とは
利益とは、企業の経営状態を示す基本的な指標です。収益から費用を引いた、「儲け」の部分を指します。経営の目的のひとつは、利益を上げることです。利益が出ていることは、企業が健全に運営されていることを示す一つの目安となります。
利益の内容は、損益計算書に明示されており、経営状況の把握や業績評価に欠かせません。また、利益は投資家や金融機関にとっても、投資判断や融資の可否を見極めるうえでの重要な材料となります。利益は、事業運営に携わる人にとって、常に注視すべき重要な指標です。
利益と売上や粗利との違い
「利益」「売上」「粗利」は、混同されがちですが、それぞれ意味や役割の異なる指標です。企業の経営状況を正しく把握し、的確な経営判断や財務分析をするためには、これらの違いを正しく理解する必要があります。ここでは、それぞれの概念と役割について解説します。
利益と売上の違い
利益と売上の違いは、事業活動にかかった費用を差し引いているかどうかという点にあります。売上(売上高)とは、企業が商品やサービスを顧客へ提供し、その対価として受け取った金額の総額を指すものです。これは、事業の規模を示す基本的な指標となります。
例えば、1つ500円の商品が200個売れた場合、売上は10万円です。しかし、この金額がすべて利益になるわけではありません。商品の販売には仕入や販売活動などの費用が発生しており、それらを差し引いて初めて利益が算出されます。仮に仕入コストが1個あたり400円であれば、利益は1個あたり100円となり、200個売ると2万円の利益です。
売上は、どれだけ売れたかを示す金額であり、利益は、そこから費用を引いた「実際に得た儲け」を指します。たとえ売上が多い場合であっても、費用が増加すれば利益は少なくなります。
利益と粗利(売上総利益)の違い
粗利(売上総利益)は、企業が商品やサービスを販売して得た売上高から、その提供に直接かかる費用である売上原価を差し引いて算出される利益を指します。利益の中でも基本的なものであり、企業がどれだけ付加価値を生み出しているか、また原価が適切かを判断するための指標です。
利益にはいくつかの段階があり、粗利のほかにも営業利益、経常利益、当期純利益などが存在します。これらは、粗利から人件費や広告宣伝費、家賃などの販売費及び一般管理費、さらには営業外損益や税金などを順に差し引いて算出されます。つまり、粗利は利益計算の出発点であり、企業の基礎的な収益性を把握するための利益です。
利益の種類と計算方法
企業の収益性や経営状況を正しく把握するには、各種利益の特徴や計算方法への理解が必要です。損益計算書には、売上総利益・営業利益・経常利益など、段階に応じた複数の利益指標があります。
これらの利益が、それぞれの企業活動における、どの段階の成果を反映しているのかを知ることで、より的確な分析が可能です。ここでは、それぞれの利益の意味と算出方法を解説します。
売上総利益
売上総利益は「粗利」とも呼ばれ、企業の本業による収益力を示す基本的な利益です。売上高から売上原価を差し引いて算出され、商品やサービスの収益性を示します。
売上原価は、販売された商品にかかる原価のみが対象となる点が特徴です。売上総利益は、以下の計算式で求められます。
売上総利益 = 売上高 - 売上原価
売上原価は、次の式で求められます。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期仕入高 - 期末商品棚卸高
求められた売上総利益を売上高で割ることで、売上総利益率を算出できます。
売上総利益率 = (売上総利益 ÷ 売上高) × 100
売上総利益を分析することで、原価管理の適正性や価格設定の妥当性を判断できます。売上総利益率が高い場合は、自社の商品やサービスには十分な付加価値があると評価されます。ただし、この数値は業種によって基準が異なるため、同業他社との比較が必要です。
限界利益
限界利益は、売上高から変動費を差し引いた利益であり、企業が商品やサービスを販売した際に得られる直接的な利益です。収益性を測定するうえで重要な指標であり、損益分岐点の算出にも活用されます。
限界利益を用いることで、売上がどの程度利益に結びついているのかの把握が可能です。限界利益が高いほど、売上増加に伴う利益の伸びも大きくなります。そのため、価格戦略や販売数の増減が経営に与える影響を把握するうえで役立ちます。
計算方法は以下のとおりです。
限界利益 = 売上高 - 変動費
一方、貢献利益という考え方もあります。限界利益が会社全体の利益構造を把握するための指標であるのに対し、貢献利益は商品や事業単位で収益性を判断するために用いられます。
計算式は、以下のとおりです。
貢献利益 = 売上高 - 変動費 - 直接固定費
【例】
売上高800万円・変動費400万円・直接固定費200万円の場合、限界利益は400万円、貢献利益は200万円です。これらの数字から、その事業が企業の収益にどの程度貢献しているかが明確になります。
限界利益が主に全体的な経営の健全性を測るために使われる一方で、貢献利益は事業ごとの見極めに活用されます。どちらも経営判断に欠かせない重要な指標といえるでしょう。
営業利益
営業利益は、本業の収益力を示す指標です。売上総利益から販管費(販売費および一般管理費)を差し引いて算出され、企業の本業による利益を表します。
計算式は、以下のとおりです。
営業利益 = 売上総利益 - 販売費および一般管理費
販管費には、広告宣伝費や営業・管理部門の人件費、家賃などが含まれます。
また、売上高営業利益率を分析することで、本業の収益効率を評価できます。
計算式は、以下のとおりです。
売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
売上高営業利益率が高いほど、企業の本業における収益力が優れていると判断できます。業種によって、適正水準が異なる点には注意が必要です。
営業利益の把握によって、企業のコアビジネスの収益性を正しく評価できます。そのため、本業の強化や経費削減など、経営改善に役立つ重要な指標として活用されます。
経常利益
経常利益は企業の継続的な収益力を示す利益です。営業利益に営業外損益を加減して算出され、本業と財務活動の総合的な利益を表します。
計算式は、以下のとおりです。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用
営業外収益には受取利息や配当金、営業外費用には支払利息などが含まれます。
また、売上高経常利益率を分析することで、企業全体の収益効率を評価できます。
計算式は、以下のとおりです。
売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高 × 100
売上高経常利益率が高いほど、経営状態が良好であると判断できます。ただし、適正とされる水準は業種によって大きく異なるため、自社の業種平均などと比較して評価することが重要です。
税引前当期純利益
税引前当期純利益は、法人税や住民税などを差し引く前の利益を指します。経常利益に特別利益を加え、そこから特別損失を差し引くことで算出されます。税引前当期純利益は、経常利益に加えて臨時的・例外的な損益も反映されている点が特徴です。
計算方法は、以下のとおりです。
税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 - 特別損失
特別利益には、固定資産売却益や有価証券評価益が含まれます。一方の特別損失には、災害による損害や資産売却損が該当します。
売上高に対する割合(税引前当期純利益率)を計算することで、突発的要因を含めた収益性の評価が可能です。
計算方法は、以下のとおりです。
税引前当期純利益率 = 税引前当期純利益 ÷ 売上高 × 100
税引前当期純利益率が高いほど、売上高に対して多くの利益が上がっていることを示します。ただし、特別損益の影響を受けやすいため、経常利益率とあわせて比較することで、本業の収益力をより的確に把握できます。
税引前当期純利益は、企業の利益構造を総合的にとらえるための指標のひとつです。一時的な要因によって数値が大きく変動する可能性もあるため、経常利益とのバランスを見ながら、複数の会計期間による比較が重要です。
当期純利益(純利益)
当期純利益は、1年間の企業活動によって得られた最終的な利益です。税引前当期純利益から法人税、住民税、事業税などの法人税等を差し引いて算出され、企業が実際に手元に残した利益を表します。
計算方法は、以下のとおりです。
当期純利益 = 税引前当期純利益 - 法人税等 ± 法人税等調整額
当期純利益が、プラスであれば黒字、マイナスであれば赤字と判断されます。
また、売上高に対する当期純利益の割合を計算することで、企業の経営効率を評価できます。
計算方法は、以下のとおりです。
売上高当期純利益率 = 当期純利益 ÷ 売上高 × 100
売上高当期純利益率が高いほど、売上を利益へと効率的に結びつけていることを意味します。同業他社や自社の過去データと比較することで、より実態に即した分析が可能です。
利益を正確に把握するメリット
企業経営において、利益を正確に把握することは極めて重要です。利益は単なる数値ではなく、企業の経営状況や事業の健全性を示す重要な指標です。現状を正しく分析することで、経営課題の発見や戦略の見直しにつながり、組織の改善や成長を促進できます。
さらに、利益は社内の意思決定だけでなく、株主や投資家などの社外ステークホルダーに対しても、企業の価値や信頼性を示す重要な情報となります。利益の正確な把握は、経営の透明性を高め、関係者からの信頼を得るうえでも欠かせません。
以下では、利益を正確に把握することで得られる具体的なメリットについて解説します。
経営状況の見直しに役立つ
利益の正確な把握は、経営状況の課題や収益構造の問題点を明確にするうえで不可欠です。例えば、売上総利益率の低下は原価管理に問題がある可能性を、営業利益率の悪化は販管費の見直しが必要であることを示しています。
また、利益の推移を時系列で比較することで、経営戦略の妥当性の検証が可能です。その結果、資源配分の最適化や、戦略の修正など具体的な経営判断の精度向上にもつながります。
社外に業績をアピールできる
株主や投資家に企業の経営状態を適切に伝えるには、利益の正確な把握が求められます。損益計算書に記載された利益は、経営の透明性や信頼性を裏付ける重要な指標です。
株主、投資家、金融機関などのステークホルダーは、この利益情報を基に投資継続や取引の判断をします。明確な利益情報の提示は、企業価値への理解と信頼を深め、安定した資金調達やステークホルダーとの良好な関係構築につながります。
企業の利益を上げる方法
企業が持続的に成長するには、利益の最大化が不可欠です。利益は売上から費用を差し引いた金額であるため、売上を伸ばすことと費用を抑えることの両面に取り組む必要があります。
コストダウンや販売単価の見直し、顧客層の拡大などの取り組みが利益向上に役立ちます。さらに、営業外費用を抑えることで収益性が高まり、財務面の安定にもつながるでしょう。ここでは、企業の利益を上げるための方法を解説します。
コストダウンを図る
利益を高めるうえで、コストダウンは効果的な手段です。利益は収益から費用を差し引いた金額のため、コストを減らすことで利益が増加します。
なかでも、売上にかかわらず発生する固定費の見直しが重要です。人件費や賃料、リース料、広告費などを精査し、不要な支出を抑えるようにします。
変動費は売上と連動して増減するため、安易な削減は業績の悪化を招くおそれがあります。業務プロセスの効率化や在庫管理の見直しなど、品質や生産性を損なわない工夫により、バランスの取れたコストダウンを心がけましょう。
販売単価を見直す
販売単価の引き上げは、利益を増加させる直接的な手段です。ただし、同時に顧客離れを招くリスクもあります。こうしたリスクを回避する手段として有効なのが、クロスセルやアップセルといった販売手法です。
クロスセルとは、顧客が購入しようとしている商品に関連する別の商品を提案し、追加購入を促す販売手法です。アップセルは、より高価格帯の上位モデルなどを提案し、購入単価の向上を図ります。
これらの方法を適切に活用することで、顧客単価を高められます。ただし、これらの施策を実施するには、満足度を損なわない配慮が不可欠です。
顧客層を広げる
顧客層の拡大は、企業の利益を高めるうえで欠かせない施策です。新規顧客の獲得により、市場での認知度が上がり、売上基盤の強化にもつながります。
具体的な方法は、SNSやウェブサイトを通じた情報発信、特典付きキャンペーンの展開、展示会への出展などです。こうした活動を通じて新規顧客との接点を創出し、購買へとつなげることが、企業の利益を押し上げる力となります。
営業外費用を抑える
営業外費用を抑えることで、企業の経常利益が安定しやすくなります。支払利息や為替差損といった営業外費用の見直しにより、本業以外のコスト削減が可能です。
また、有利子負債の返済や為替差損のリスクヘッジを図ることにより、外部要因による損失を回避できます。借入に関連する金融取引や融資条件を見直すことも、費用削減に有効です。これらの施策により、キャッシュ・フローの改善や財務基盤の強化も期待できます。
利益まとめ
利益は企業の経営状態を示す重要な指標であり、各種利益の種類や計算方法を正しく理解することは、適切な経営判断を下すための基本です。売上総利益から当期純利益まで、各段階の利益を把握・分析することで、自社の強みや弱み、改善すべき点が明確になります。
コスト削減や販売戦略の見直し、新規顧客の開拓、そして財務体質の強化など利益を向上させる方法は多岐にわたります。自社の状況を的確に分析し、継続的な利益向上に向けた具体的な行動計画を立て、実行していきましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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