引当金とは?種類・要件・経理処理方法についてわかりやすく解説
更新日:2025年05月20日

引当金とは、将来に備えてあらかじめ計上する金額のことです。計上するためには、要件を満たさなければなりません。本記事では、引当金とは何かを説明したうえで、計上するための要件や経費処理方法について詳しく解説します。
目次
引当金とは
引当金とは、将来の費用や損失に備えて計上する、見積額です。何を目的に計上するかによって、評価性引当金と負債性引当金(債務性引当金・非債務性引当金)に分けられます。
評価性引当金は、資産の価値が減少することを考慮して資産からあらかじめ控除するものです。それに対し、負債性引当金は発生しうる費用に対して計上するものを指します。
引当金を計上する具体例は、取引先への売掛金500万円の回収が困難になるケース、当期に予定していた機械の修繕を来期に実施するケースなどです。
引当金計上にあたって理解すべき会計の概念
引当金を計上する際は、発生主義と保守主義を意識しておくことが大切です。会計上のそれぞれの概念について、引当金との関係に触れつつ解説します。
発生主義
発生主義とは、費用や収益が発生した時点で会計帳簿に記録する方法のことです。それに対して、実際に現金の支出や収入があった時点で会計帳簿に記録する方法を現金主義と呼びます。小売店が、ボールペン5万円分を翌月末に支払う約束で支払うケースで、発生主義と現金主義の違いを比較しましょう。
発生主義を採用する場合、仕入の時点で5万円分を費用(仕入高)、同額を負債として計上します。一方、現金主義を採用する場合は、実際に支払う翌月末が費用を計上するタイミングです。
現金主義の立場をとると、費用は実際に現金が動いたときに計上するため、引当金のことを考える必要性は少ないでしょう。しかし、企業会計原則では発生主義を採用することが決められているため、将来の支出でも今期の活動に起因するものについては、会計上は引当金を計上しなければなりません。
たとえば、来期に賞与を支払う場合、発生主義でも費用を計上するのは来期です。ただし、支払う賞与の一部が従業員の今期の働きに寄与するものであれば、実態を反映するためにその分を引当金として計上します。
保守主義
保守主義とは、企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合に、あらかじめ正しく適当な会計処理をしなければならないことです。保守主義の考え方に基づくと、プラスの項目は過大に見積もらないよう慎重に、マイナスの項目は漏れなく計上しなければなりません。
そこで、不利な状況に備えるために必要なのが、引当金を計上することです。たとえば、販売先の経営状況が悪化して売掛金の回収が困難な場合に、貸倒引当金を計上することがあります。
なお、企業会計原則では保守主義の立場をとっている一方で、過度に保守的な会計処理をして企業の財政状態や経営成績の真実を歪めてはならないことも記載されている点に注意しましょう。
引当金を計上する要件
企業会計原則によると、引当金を計上するには以下の要件をすべて満たさなければなりません。
- 将来の特定の費用または損失である
- 発生が当期以前の事象に起因している
- 発生の可能性が高い
- 金額を合理的に見積もれる
また、該当する引当金の種類として、以下を列挙しています。
- 製品保証引当金
- 売上割戻引当金
- 返品調整引当金
- 賞与引当金
- 工事補償引当金
- 退職給付引当金
- 修繕引当金
- 特別修繕引当金
- 債務保証損失引当金
- 損害補償損失引当金
- 貸倒引当金
発生する可能性が低い偶発事象に関する費用や損失は引当金計上の対象外です。
たとえば、数年後に営業所周辺で地震が起こることに備えた引当金の計上はできません。なぜなら、地震の予見は現時点で困難なためです。金額を合理的に見積もることも難しいでしょう。
評価性引当金の種類
評価性引当金の主な種類は、貸倒引当金や投資損失引当金です。それぞれの概要を解説します。
貸倒引当金
貸倒引当金とは、取引先への販売代金として計上している売掛金・受取手形や、貸付金の回収が困難になる場合に備えて計上する引当金のことです。金額の計算方法によって、個別貸倒引当金と一般貸倒引当金に分類できます。
個別貸倒引当金とは、特定の相手に対する債権に回収不能の懸念がある場合に、不能となる見込みの額を計上する引当金のことです。たとえば、売掛先が更生手続きを進めている際に、対象債権について計上することがあります。
一般貸倒引当金とは、全債権や種類ごとに分類した債権ごとに過去の実績から算出した貸倒実績率を使って計算した額を計上する引当金のことです。たとえば、業界全体で不安を抱えている場合に、全体の債権のうち一定額を計上することがあります。
また、実際に回収不能となった場合は、債権額を貸倒損失として計上して貸倒引当金と相殺する作業が必要です。
投資損失引当金
投資損失引当金とは、子会社などに対する投資で損失を抱える可能性を考慮して計上する引当金のことです。
企業会計原則によると、非上場の子会社株式の実質価額が著しく低下した場合に、相当の減額をすることが定められています。ただし、減損処理の対象でない場合でも、実質価額が低下している株式については投資損失引当金で損失計上する場合があります。
たとえば、子会社の赤字が続き経営不振に陥っている場合に、投資損失引当金を計上することがあるでしょう。ただし、実質価額が回復することが確実な場合は対象外です。
負債性引当金の種類
負債性引当金の主な種類は、賞与引当金・退職給付引当金・修繕引当金です。それぞれ解説します。
賞与引当金
賞与引当金とは、翌期に支払う賞与のうち、当期に帰属することが合理的と見なされる金額を計上する引当金のことです。
決算期と賞与支給のタイミングのズレを解消するために、賞与引当金を計上することがあります。3月決算で6月(査定期間:12〜5月)・12月(査定期間:6〜11月)に賞与を支給するケースで考えてみましょう。
3月決算時点では、翌6月に支払う夏季賞与にかかる賞与支給分を「賞与手当」としては計上しません。しかし、6月に支給予定の賞与には今期(12〜3月)分の従業員の貢献も含まれているため、夏季賞与の一部を賞与引当金として3月決算時点で計上しておくことが求められます。
退職給付引当金
退職給付引当金とは、将来支払う退職金のうち、当期までの見積額を計上するために用いる引当金です。退職給付債務から「年金資産と未認識債務を引いた額」(企業年金制度に基づくケース)か、「未認識債務を引いた額」(退職一時金制度に基づくケース)を計上します。
退職給付債務が退職給付の見込額のうち当期時点で発生している部分の現在価値を指すのに対し、未認識債務は当期時点で費用処理されていないもののことです。たとえば、企業で退職給付債務が3,000万円、未認識債務が500万円の場合、退職給付引当金は2,500万円と計算できます(退職一時金制度を採用しているケース)。
修繕引当金
修繕引当金とは、所有する有形固定資産を維持するためにかかるコストに備え、計上する引当金のことです。数年おきに実施する大規模な設備修繕については、特別修繕引当金として計上します。
修繕のタイミングは決まっていないため、修繕引当金を計上するか判断するのは事業者自身です。たとえば、3月決算の企業が2月に老朽化した機械の修繕を予定するも資材不足を理由に実施月が4月にずれ込んだ場合は、本来当期中に計上すべき費用のため修繕引当金として計上します。
引当金と税金の関係
財務会計と税務会計では、引当金の扱いが異なる点に気をつけましょう。まだ費用として支出が確定していない見積額では税金の回収が不安定になるため、修繕引当金などの引当金は税務上、損金算入ができません。
ただし、資本金1億円以下の中小企業や金融機関などは、貸倒引当金について要件を満たす場合に限り損金算入が可能です。法律で定める式を使って算出した繰入限度額まで、損金算入できます。
参考)国税庁「No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」
貸倒引当金の経費処理方法
貸倒引当金を計上するとき・貸倒れが発生したときに分けて、それぞれ仕訳の例を紹介します。
貸倒引当金を計上するときの仕訳例
貸倒引当金を計上するときの仕訳方法は、洗替法を用いるか、差額補充法を用いるかによって異なります。
洗替法とは、決算の際に貸借対照表の各残高を一度元に戻してから再度、適正な金額に更新する手法です。そのため、まずは期末時点の貸倒引当金の残高を取り崩し(貸倒引当金戻入)、あらためて貸倒引当金を計上します(貸倒引当金繰入)。
一方、差額補充法とは、期末時点における貸倒引当金の残高と当期の繰入額の差額を計上する方法です。差額補充法では、一度残高を元に戻す必要はありません。
ここで、期末時点で貸倒引当金の残高が15万円の企業が、当期に17万円を計上するケースで、洗替法と差額補充法の仕訳例を紹介します。
洗替法を用いる場合
洗替法を用いる場合は、まず期末時点における貸倒引当金の残高を戻しましょう。仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
貸倒引当金 | 150,000 | 貸倒引当金戻入 | 150,000 | 期末残高の取り崩し (洗替処理) |
貸倒引当金繰入 | 170,000 | 貸倒引当金 | 170,000 | 当期末見積に基づく再設定 |
一度収益に戻すため貸方に「貸倒引当金戻入」を17万円分計上し、借方に同額分「貸倒引当金」を計上しています。これで一度、貸倒引当金の残高が0になりました。
次の行では、当期分の貸倒引当金の計上が必要です。今回は、借方で「貸倒引当金繰入」を17万円計上し、貸方に「貸倒引当金」を同額計上することで、新たに貸倒引当金を計上しています。
差額補充法を用いる場合
差額補充法を用いる場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
貸倒引当金繰入 | 20,000 | 貸倒引当金 | 20,000 | 貸倒引当金残高15万円に対して、追加計上 |
差額補充法を用いる場合は、15万円分の貸倒引当金を一度収益に戻す作業が不要です。そのため、期末残高から増えた分の2万円(当期分17万円 − 期末残高15万円)を借方の「貸倒引当金繰入」として計上し、同額を貸方の「貸倒引当金」に計上します。
なお、洗替法を用いる場合も差額補充法を用いる場合も、結果的に貸倒引当金が17万円分計上されることに変わりはありません。
貸倒れが発生したときの仕訳例
貸倒れとは、商品の販売先や貸付先が倒産するなどの理由で、売掛金や貸付金の回収が不能になることです。
今回は、30万円の商品を販売したY社から売掛金を回収することが困難になったため、前期に20万円の貸倒引当金を計上しているケースで考えてみましょう。その後、売掛先が倒産した場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
貸倒引当金 | 200,000 | 売掛金 | 300,000 | Y社の倒産に伴う債権の貸倒れ |
貸倒損失 | 100,000 | 未引当分 |
すでに貸倒引当金を20万円計上しているため、借方にその分「貸倒引当金」の計上が必要です。また、本来の売掛金30万円を貸方に計上します。
さらに、貸倒引当金で計上していない分の10万円を借方で「貸倒損失」として計上しなければなりません。
貸倒引当金以外の引当金の経費処理方法
賞与引当金を計上するとき・退職給付引当金を計上するとき・修繕引当金を計上するときに分けて、貸倒引当金以外の引当金の経費処理方法を解説します。
賞与引当金を計上するときの仕訳例
3月決算の企業で、夏季賞与を6月(査定期間:12〜5月)、冬季賞与を12月(査定期間:6〜11月)に支給しているケースで、仕訳例を考えてみましょう。
決算時点で、翌6月に支給する夏季賞与の査定期間が4か月経過しているため、その分を賞与引当金として計上することがポイントです。従業員へ支給する夏季賞与の合計見積額が900万円で、差額補充法を用いる場合は決算時に以下のように仕訳をします。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
賞与引当金繰入 | 6,000,000 | 賞与引当金 | 6,000,000 | 夏季賞与900万円のうち、4か月の査定期間分を計上 |
夏季賞与の査定期間が12〜5か月の6か月間であるのに対し、3月決算時点ですでに4か月が経過しているため、600万円を貸方の「賞与引当金」で計上しています(900万円 × 4/6か月)。また、賞与引当金を計上するにあたって借方で「賞与引当金繰入」600万円の計上も必要です。
続いて、賞与を支給する際にも仕訳をしなければなりません。実際に支給する額が見積もりどおり900万円で、普通預金から出金する場合の仕訳例が以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
賞与引当金 | 6,000,000 | 普通預金 | 9,000,000 | 6月◯日賞与支給 |
賞与手当 | 3,000,000 | 査定期間残り2か月分を当期に計上 |
実際の支給額900万円を「普通預金」から出金するため、貸方に計上しています。また、借方で「賞与引当金」を600万円計上し、「賞与手当」として普通預金との差額の300万円を計上している点もポイントです。
退職給付引当金を計上するときの仕訳例
退職給付引当金を当期に70万円を計上する際の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
退職給付費用 | 700,000 | 退職給付引当金 | 700,000 | 将来の支払いに備えて計上 |
貸方で「退職給付引当金」を70万円計上し、借方に「退職給付費用」を同額計上しています。
また、従業員が退職する際は退職給付引当金を取り崩さなければなりません。普通預金から出金して退職する従業員に300万円支給する際の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
退職給付引当金 | 3,000,000 | 普通預金 | 3,000,000 | 〇〇課長退職金支払い |
貸方で「普通預金」300万円を計上し、借方で同額を「退職給付引当金」として計上しています。
修繕引当金を計上するときの仕訳例
機械設備の修繕が当期から翌期にずれ込んだ場合に、修繕引当金を計上することがあるでしょう。費用を45万円と見積もっているケースにおける仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
修繕引当金繰入 | 450,000 | 修繕引当金 | 450,000 | 当期に予定していた修繕が来期に延期 |
貸方で「修繕引当金」を45万円分計上し、借方で「修繕引当金繰入」を同額計上しています。
また、翌期に予定どおり修繕を実施し、普通預金から出金してZ社に支払う場合の仕訳例が以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 備考 | ||
修繕引当金 | 450,000 | 普通預金 | 450,000 | Z社に支払い |
貸方で支払う分の「普通預金」45万円を計上し、借方で「修繕引当金」を同額計上しています。
引当金まとめ
引当金とは、将来費用が発生したり損失を被ったりする場合に備えて、あらかじめ計上する費用の見積額のことです。貸倒引当金や賞与引当金などが挙げられます。
引当金を計上するには、いくつかの要件を満たさなければならない点に注意が必要です。また、税務会計においては一部の例外を除き引当金を損金算入できないことも、理解しておきましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計、簿記、ファクタリングなどの資金調達に関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は400本以上にのぼる。FP2級。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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