内部留保とは?意味や利益剰余金との違いについて解説
更新日:2025年02月15日

内部留保とは、企業が事業活動を通じて得た利益から、社外へ流出する費用を支払った後に残った部分のことです。本記事では、内部留保の意味や利益剰余金との違いについて解説します。
目次
内部留保(ないぶりゅうほ)とは
企業が事業活動を通じて得た利益から、税金や配当金、役員報酬などの社外へ流出する費用を支払った後に残った部分のことを「内部留保」といいます。当期純利益から配当金を差し引いたものを内部留保と呼ぶなど、内部留保には様々な解釈があるため、専門用語として統一された定義はありません。
内部留保は、企業の財務健全性を示す指標としても注目されます。内部留保が潤沢であれば、不測の事態が発生した場合でも、資金繰りに困ることなく事業を継続できる可能性が高まるでしょう。
ただし、注意しておきたいことは、内部留保は会計上の正式な用語ではないことです。仕訳や帳簿で使われる語句ではなく、決算書に「内部留保」としてその額が記載されることもありません。
また、内部留保と聞いて「現金」をイメージする方もいるかもしれませんが、そうではありません。内部留保はあくまでも「利益の蓄積」であり現金とは異なります。内部留保が大きいからといって現金をため込んでいるわけではありません。この点は、次に説明する「利益剰余金」も同様です。
内部留保と利益剰余金の違い
内部留保と似た言葉に「利益剰余金」があります。どちらも企業内に留保された利益という点では共通していますが、厳密には異なる意味を持っています。
利益剰余金とは、企業が過去に稼ぎ出した利益のうち、配当などに回さずに社内に積み立ててきたお金のことです。貸借対照表の「純資産の部」に記載され、具体的には「利益準備金」「任意積立金」「繰越利益剰余金」の3つを合算した金額を指します。
つまり、利益剰余金は財務諸表において具体的な数字として表されるものであり、企業の財務状況を分析する上で重要な指標です。
一方、内部留保は、会計上明確に定義された用語ではありません。そのため、必ずしも具体的な数字で表されるわけではなく、その範囲も企業によって解釈が異なる場合があります。
しかし、一般的には利益剰余金とほぼ同義語として扱われることが多く、ニュースや新聞などの報道では、内部留保と利益剰余金は同じ意味で用いられているケースも少なくありません。
内部留保増の加に関する批判と誤解
日本企業の内部留保は増加の一途を辿っています。財務省の発表によると、2021年(令和3年)には500兆円を突破し、2023年(令和5年)には600兆円を超えています。
内部留保の増加に関しては、「企業が資金を投資や人件費に回さず、お金をため込んでいるからだ」という批判的な見方があることも事実です。ただし、前述の通り、そもそも内部留保は現金ではありません。内部留保はあくまでも事業活動の原資のひとつです。
内部留保の増加にはさまざまな要因が絡み合っており、一概に良いとも悪いともいえません。増加した内部留保をただ吐き出せばよいというわけではなく、重要なのは、企業が内部留保をどのように活用しているかという点です。
内部留保を利益の蓄積とするならば、利益剰余金と近しいものと考えられます。利益剰余金は貸借対照表の純資産の部に表れますが、それを何に使ったのかは貸借対照表の「資産の部」を見れば分かるのです。貸借対照表の純資産の部と負債の部は「資本をどのように調達したか」を表しており、「調達した資本を何に使ったのか」を表すのは「資産の部」になります。
参考)財務省「報道発表 年次別法人企業統計調査(令和5年度)」
内部留保が増えるメリット
日本国内の企業は内部留保が増加する傾向にあることを説明しました。安定的な企業経営や資金繰りに寄与する内部留保が増えると、企業の信用力が向上し融資が受けやすくなったり、取引を有利に進められたりできる可能性があります。
また、事業の安定性が高まるため、景気の悪化や不慮の事態においても企業経営を継続できる確率が高まるでしょう。さらに、自己資本に余裕があるため新規事業への投資や既存事業の強化など、攻めの投資をしやすくなります。
ここからは、内部留保が増えるメリットについて、詳しく解説しましょう。
企業の信用力が向上する
内部留保が積み上がっていくと、企業の財務状態が健全であるとみなされ、外部からの信用力が高まります。
具体的には、金融機関からの融資を受けやすくなるといったメリットがあるでしょう。銀行などの金融機関は、企業にお金を貸す際、その企業が将来しっかりと返済できるかどうかを審査します。
このとき、内部留保が豊富にある企業は、返済能力が高いと判断され、融資がスムーズに進む可能性が高まるでしょう。
また、取引先からの信用度もアップします。新たな取引を始めるとき、相手企業は財務状況を調べることが一般的です。安定した経営基盤をアピールできれば、取引を有利に進められるでしょう。
事業の安定性が高まる
企業にとって、安定した事業運営は重要な課題です。内部留保を積み増すことは、まさにその安定性を高めるための有効な手段となります。
また、景気変動の影響を受けやすい業種の企業にとっては、内部留保はとくに重要な意味を持ちます。好況時には利益を内部留保として蓄積しておけば、不況時に損失を出しても債務超過などに陥るリスクも軽減でき、安定した経営を維持できるでしょう。
このように、内部留保は企業の財務基盤を強化し、事業の継続性を確保する上で重要な役割を果たします。
攻めの投資をしやすくなる
企業が成長を続けるためには、積極的に新しい事業に挑戦したり、既存事業を強化したりする必要があるでしょう。内部留保は、こうした攻めの投資を実現するための原資として有効活用できます。
たとえば、将来性のある新規事業への投資や最新設備の導入、研究開発費の増額などに充てられます。また、M&A(企業の合併や買収)をする際にも、内部留保は大きな力を発揮するでしょう。
もちろん、これらの投資にはリスクがともないます。しかし、内部留保があれば、たとえ失敗したとしても、企業の経営基盤を揺るがすほどのダメージを受ける可能性は低くなるでしょう。
内部留保増加にともなうデメリットや注意点
内部留保の増加は、必ずしも良いことばかりではありません。企業が利益を内部に留保し続けることで、株主や従業員から不満の声があがる可能性があります。
また、企業は獲得した利益をさらなる有望分野に投資することで成長を実現できます。利益を貯め続けて、投資をしないと他社との競争において不利を被る恐れもあるでしょう。さらに、一部の特定同族会社の場合には、留保金課税が課されるため注意が必要です。
内部留保増加にともなうデメリットや注意点を詳しく見てみましょう。
株主や従業員の不満につながる可能性がある
株主は、企業の利益増加にともない、配当金の増加を期待するのが一般的です。しかし、企業が利益を内部留保に回し、配当金を増やさないと、株主は利益を還元しないこと対して不満を抱く可能性があります。
これは、株主が企業の所有者であるという意識を持っているためです。企業の成長は、株主の投資によって支えられている側面があります。そのため、株主は企業の利益に対して、正当な配当を受ける権利があると考えます。
また、従業員も同様に、企業の利益増加が自身の給与や賞与に反映されないと、不満を感じることがあるでしょう。
従業員は、自らの労働力によって企業の利益に貢献しているという自負があります。もし、会社の業績が好調であるにもかかわらず、待遇改善が見られない場合は、モチベーションの低下や離職につながる可能性も考えられます。
ただし、損益計算書の利益と内部留保は別の概念ですから、このような不満は誤解にもとづいている懸念があります。従業員に会計の基礎を身に付けてもらう良い機会と捉えて、内部留保の意味、メリット、デメリットを学んでもらったり、労働分配率について学習してもらうと良いかもしれません。
機会損失のリスクが高まる
内部留保は、将来の不確実性に対する備えとして重要ですが、過度に積み増すことには注意が必要です。内部留保の増加ばかりに目を向けていると、かえって企業の成長を阻害する可能性があります。
これは、「機会損失」のリスクが高まるためです。機会損失とは、ある行動を選択したために、他の選択肢を選んでいれば得られたはずの利益を失ってしまうことを指します。
たとえば、有望な新規事業のアイデアがあったとしても、内部留保を増やすことばかり考えて投資に踏み切れなかったとします。その結果、他社に先を越されて市場を奪われてしまうかもしれません。
また、設備投資のタイミングを逃してしまう恐れもあります。最新の設備を導入することで、生産効率の向上や、製品の品質向上が期待できるでしょう。
しかし、内部留保の増加を優先して投資を先延ばしにしていると、競争力を失い、市場シェアを奪われてしまうかもしれません。
このように、内部留保の増加に固執しすぎると、貴重なビジネスチャンスを逃し、企業の成長を阻害する可能性があります。
「留保金課税」が課される
企業が利益を内部留保として積み立てていくと、留保金課税という税金が課される場合があります。留保金課税とは、特定同族会社の留保金額が、一定額を超えた場合に課せられる税金のことです。
特定同族会社とは、会社の経営に携わる同族株主グループ(家族や親族など)の株式の割合が、発行済み株式の総数50%を超える会社のことを指します。
ただし、すべての同族会社が留保金課税の対象となるわけではありません。基本的に資本金1億円以下の企業は対象外です。
内部留保が減少する原因とリスク
企業の内部留保は、さまざまな要因によって減少する可能性があり、その際には企業経営に大きなリスクをもたらします。
内部留保が減少する主な原因としては、赤字経営と株主への過剰配当が考えられます。企業が赤字になると、利益剰余金を取り崩して損失を補填しなければならず、赤字が続けば内部留保は徐々に減少していくでしょう。
また、株主への配当金を増やしすぎると、内部留保に回せる資金が少なくなり、将来の事業展開に必要な資金が不足する可能性も懸念されます。
内部留保の減少は、企業にとって大きなリスクとなります。赤字状態が継続して内部留保が枯渇すると、債務超過に陥る恐れがあるでしょう。債務超過とは、企業の負債が資産を上回る状態を指し、最悪の場合、倒産に追い込まれることもあります。
また、内部留保の減少は、企業の財務基盤が脆弱であることを意味します。金融機関や取引先からの信用を失い、資金調達や取引が困難になる恐れがあるでしょう。さらに、不測の事態や景気変動に対応するための資金が不足し、事業の継続が難しくなる可能性も考えられます。
内部留保を増やす方法
内部留保を高める基本的な方法は、当期純利益を増やすことです。企業の利益が増えれば、社外に流出させずに内部に貯められる額が増えるためです。純利益を増やす方法は数多くありますが、人件費の削減のように注意を要する方法もあります。
また、配当金の額を減らせば、社外流出する資金が減り内部留保の増加につながるでしょう。しかし、配当金の減額も株主との関係を悪化させる可能性があり、注意が必要な方法です。
ここからは、内部留保を高める方法と注意点について、詳しく解説します。
当期純利益の増加
内部留保を高めるためには、企業の利益を増やすことが基本的な方法です。利益を増やす方法としては、事業を拡大して売上を増やす、売上原価や販売費及び一般管理費のカットを徹底してコストを削減するなど、さまざまな方法が考えられます。
たとえば、新規事業を立ち上げて軌道に乗せれば新たな収益源を確保できます。また、無駄な経費を削減するために、業務プロセスを見直したり、仕入れ先を変更したりすることも有効です。
さらに、人件費の見直しも検討できます。従業員の給与や賞与を抑制することで、利益を増やすことは可能です。ただし、従業員のモチベーション低下や離職につながる恐れもあるため、慎重に進める必要があります。
配当金の減少
株式を公開している企業の場合、配当金の額を減らすことで、より多くの利益を内部留保として確保できます。
配当金は、株主に対する利益還元として支払われるものです。配当金を減らせば、その分を内部留保に回せます。
しかし、安易に配当金を減らすことには注意が必要です。なぜなら、株主は配当金を投資の重要なリターンと考えているためです。配当金の減少は、株主の期待を裏切り、株価下落や投資家離れにつながる可能性も考えられます。
そのため、配当金の減少を検討する際には、株主に対して、その理由や将来的な展望について丁寧に説明することが重要です。たとえば、新規事業への投資や研究開発など、配当金が減少する理由を明確に伝える必要があります。
内部留保まとめ
内部留保は、企業が将来の成長や安定のために積み立てておく重要な資金です。
企業の財務健全性を示す指標として用いられることもありますが、会計用語としては正式なものではなく、決算書に記載されることもありません。
内部留保を増やすことには、企業の信用力向上や事業の安定化といったメリットがある一方、株主や従業員の不満、機会損失といったデメリットも存在します。
また、内部留保は赤字経営や過剰配当などによって減少する可能性があり、企業は適切な内部留保の管理をする必要があります。
内部留保は、企業の成長と安定を両立させるための重要な要素といえるでしょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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