法人口座で株式投資するメリット、デメリットとは?実施時の注意点も解説

更新日:2024年01月14日

法人口座で株式投資するメリット

「株投資は個人で行うもの」というイメージを抱く方も多いかと思いますが、法人口座でも株式投資を行うことができます。法人口座での株式投資は、損失を繰り越せるため長期的な視点で投資でき、さらに本業の利益との損益通算もできるなど、企業にとってプラスとなる要素も多くあります。しかし、投資にはもちろんリスクがあるため、デメリットや注意点なども理解しておくことが重要です。

本記事では、法人口座を使用した株式投資のメリット・デメリット、実際に行う際の注意点などを解説します。

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目次

法人口座で株式投資はできる|メリットとデメリットを解説

事業が軌道に乗り、余剰資金が十分に確保できている経営者のなかには「より利益を拡大させるために株式投資へ挑戦したい」と考える方もいるのではないでしょうか。

株式投資というと、個人で行う資産運用のイメージが強いですが、法人口座で行うことも可能です。ただ、利益の繰り越しや税率など、個人口座を使う場合とは異なる点も多くあります。本章では法人口座を使った株式投資のメリットとデメリットを紹介します。

法人口座で株式投資を行うメリット

利益を圧縮して節税できる

まず最初のメリットは、法人税対策として利益を圧縮できる点です。

株式投資を始める方の多くは、知識習得のためにセミナーへ参加したり書籍を購入したりと、初期費用がかかるものです。個人による株式投資の場合、これらの準備にかかるコストは経費として認められません。

しかし法人口座での株式投資の場合、これらのコストも必要経費として計上することができます。株式投資にかかる経費を計上することで利益を圧縮できるため、結果として節税対策になるのです。

さらに、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)を利用すれば、利益をさらに有効活用できます。経営セーフティ共済とは、取引先の倒産などの影響を受けた連鎖倒産や経営難を防止するための共済制度のことです。この共済による、課税の繰り延べが可能な制度を使うことで、利益を合法的に先送りすることもできます。経営セーフティ共済についてより詳しく知りたい方は、中小機構による「経営セーフティ共済とは」をご覧ください。

参考)法人税等とは何か~含まれるもの、申告、仕訳~

損益通算(損益の相殺)ができる

次に挙げられるメリットは、損益通算ができる点です。

損益通算とは、同年分の利益と損失を合算することです。個人での株式投資の場合、所得種類に区分が設けられているため、決まった所得でしか損益通算ができません。しかし法人口座の場合、所得種類に区分がないため、損益通算が可能です。例えば、株式投資に失敗し損失が生じた場合でも、自社事業の利益と相殺できるため、課税対象を小さくすることができるのです。

長く投資ができる

最後に、将来を見据えた投資が可能である点です。

法人の場合、株式投資で損失が出た際には10年繰り越すことができます。もし10年の間で利益が出れば、利益と損失を相殺でき、節税対策につながります。個人の場合、繰越期間は3年しかありません。損失が大きくなる可能性があり、また、長期的な投資を考えているのであれば、損失の長期繰り越しが可能な法人口座が良いと言えます。

法人口座で株式投資を行うデメリット

税率が高い

まず、個人と比較して税率が高い点が挙げられます。株式投資で得られる利益には、会社から分配される配当金と、株式を売却した際に発生する譲渡(売却)益がありますが、これらの利益それぞれに必ず税金がかかります。

課される税率は、個人口座の場合は一律20.315%(復興特別所得税0.315%含む)ですが、法人口座の場合22~34%となります。税率が高いぶん、個人口座での株式投資よりも手元に残せる資金の割合が少なくなります。

特定口座は開設できない

特定口座とは、株式等の譲渡益に対する所得税や住民税の納税について、簡単な納税申告手続きで済ませることができる口座のことです。個人の株式投資の場合、特定口座を利用していれば証券会社が代わりに源泉徴収を行ってくれるため、自ら確定申告を行う必要がありません。

しかし法人の場合は、特定口座を開設することができません。そのため、全ての取引を自分で集計し、確定申告を行う必要があります。売買の頻度が高ければ高いほど、計算にかかる手間も増えてしまいます。

含み益に課税される可能性がある

含み益とは、保有する有価証券が購入時よりも値上がりしていて、もし売却すれば利益が生じる状態のことです。

株式などの有価証券は「売買目的有価証券」と「売買目的外有価証券」に分類されます。このうち、前者の「売買目的有価証券」に該当したものは、期末に保有している有価証券の含み損益を実際の損益として加算しなければいけません。

そのため、まだ売却していないものの、将来的に利益が生じる可能性のある場合、税金を支払わなければならない可能性があります。

法人口座で株式投資を行う際の注意点

法人口座での株式投資にはメリットもデメリットもあるため、個人口座を使うのか、法人口座を使うのか、どちらがよいかは企業の状態や投資スタンスにもよります。本章では、「これから法人口座で株式投資を行いたい」と考えている方に向けて、実施時の注意点を解説します。

株式を保有する目的によって会計上の取り扱いが異なる

法人が株式投資を行う際は、株式を保有する目的によって、決算書を作成する際など会計上の株式の取り扱いが異なります。

▼会計上の株式の取り扱い

株式 保有する目的 会計処理方法
売買目的有価証券 短期的な売買で売却益を得ることを目的とする有価証券 【期末に保有している場合】 勘定科目「(売買目的)有価証券」を使う。
売却した場合は、売却価額と帳簿価額の差額を、勘定科目「有価証券売却益(損)」で処理する。

【決算期に保有している場合】
時価評価を行う。
満期保有目的有価証券 利息を受け取るため、満期まで保有することを目的とする有価証券(国債や社債など) 勘定科目「投資有価証券」を使う。

【満期日が決算日の翌日から1年以内の場合】
勘定科目「有価証券」を使う。
子会社・関連会社株式 子会社や関連会社の所有を目的とする株式 勘定科目「投資有価証券」もしくは「子会社・関連会社株式」を使う。
その他 上記3つに該当しない有価証券 【1年以内に満期となる株式】
勘定科目「有価証券」を使う。

【1年を超える株式】
勘定科目「投資有価証券」を使う。

【決算期に保有している場合】
帳簿価額で評価する。

【市場価格のついた大量の株式】
時価評価を行う。

株式を保有する目的によって税務上の扱いも異なる

会計上での扱いだけでなく、法人税の計算を行うための処理方法も異なります。税務上の扱いが違うということは、売却時の税負担が変わるということです。

▼税務上の株式の取り扱い

株式 保有する目的 会計処理方法
売買目的有価証券 短期的な売買で売却益を得ることを目的とする有価証券 【専担者売買有価証券】
時価評価を行う。

【それ以外】
短期売買を目的として取得した旨を帳簿へ記載する。
時価評価を行う。
売買目的外有価証券 「売買目的有価証券」以外の有価証券 原則、原価法が適用される。
帳簿価額をもって期末評価額とする。

【例外】
償還期限および償還金額が定まっている有価証券には償却原価法が適用される。
調整差額を帳簿価額に加算(減算)した価額をもって期末評価額とする。

株式の取得原価の処理方法を把握しておく

株式購入費用以外の支出について、株式の取得原価に含める費用と含めない費用があります。

例えば、証券会社を利用して株式を購入した際にかかる売買手数料や委託手数料などは株の取得原価に含めますが、株式の保有者変更の際に負担する名義書換料、証券会社に電話して株式を購入する場合にかかる電話料金やプロバイダ料金などの通信費用は、取得原価に含めません。もしこれらを取得原価に含めて過小に売却益を計算した場合、申告が認められない場合もあるので注意が必要です。

法人口座での株式投資に向いている場合

株式投資にどの口座を使うのがよいか、企業の状態や投資スタンスにもよるため一概には言えませんが、最後に、ここまでのメリットとデメリットをふまえたうえで、法人口座での株式投資が向いているケースを紹介します。

長期間で損益通算したい

長期間投資を行いたい場合は、法人口座を利用した株式投資がおすすめです。

先ほど説明したように、法人口座のメリットの1つは「株式投資の損失を10年繰り越せること」です。早急に利益を出したく、長期的には株式投資を続けるつもりはない方にはあまり利点はないかもしれませんが、将来的に資金を蓄えたいという考えで投資する人であれば、法人口座を利用した株式投資の方が有利かもしれません。

また、毎年の運用成績が不安定という人にもおすすめです。「ある年は赤字で損をしてしまうし、一方で黒字により高い税を課されてしまう年もある」という人でも、損失を数年先に繰り越すことで、将来の利益を圧縮することが見込めます。

節税対策をしたい

節税対策を取り入れたい方も、法人口座の利用をおすすめします。

法人口座での株式投資は、株式に関する費用全般が必要経費と認められる、損益通算により利益と損失を相殺できるなど、利益を圧縮することができるため、課税率を低く抑えて節税することができます。

まとめ|株式投資は法人口座でもできる

株式投資で法人口座を使うと、損益通算ができたり利益を圧縮できるなど、節税に関するメリットがあります。しかし、個人での株式投資よりも税率が高く、会計上・税務上での取り扱いが異なる場合があるため、注意も必要です。

自身や自社の状況によって異なるため、個人と法人どちらの口座を使った株式投資がよいか一概には言えません。それぞれのメリット・デメリットを考慮したうえで判断することをおすすめします。

よくある質問

Q1.法人口座で株式投資をするメリットはなんですか。

法人口座で株式投資をすることによって、利益を圧縮して課税額を減らしたり、10年間の繰り越しによって長く投資を続けることができます。

例えば、株式取引にかかる費用を必要経費として計上することができるため、それらに課税されることはありません。また、ある事業で大きな利益が生じても、別の事業での損失と通算することで、全体として企業の利益を小さく計上することができ、税率も押さえることができます。

Q2.法人口座での株式投資に向いているのはどのような企業ですか。

法人口座を使った株式投資は、「長期的に投資を続けたい」企業や「節税対策をしたい」企業におすすめです。

法人口座の場合は、損失がでても10年間繰り越すことができるので、その間に利益が出れば、損失と相殺できます。また、損益の相殺や経費を必要経費と認めてもらえることにより高額な課税を免れることができます。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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