法人成りした際の会計処理・手続きを解説

2022.05.06

法人成り

個人事業主から法人成りすると、資産や負債を移行する際に会計処理や手続きが必要です。この記事では、個人事業主から法人成りした際の会計処理の方法や資産を移行する手続きの方法、法人成りするメリットとデメリットをご紹介します。

個人と法人は別人格

会計処理や手続きの方法を確認する前に、まずは個人事業主と法人事業主の違いを確認しましょう。

法人成りして会社を設立した場合、個人事業主と会社は別人格として扱われます。つまり、個人事業主としてこれまで自由に使うことのできた資産は、会社の持ち物となるため、個人事業主が自由に出金することはできなくなります。報酬や配当といった支払い理由がなければ、会社のお金を個人が使うことはできません。

たとえ個人事業主と法人成りした企業の社長が同一人物であっても別人格となるため、個人事業で築いた資産を法人の資産とするには、互いに会計処理する必要があります。

個人事業主から法人成りした際の会計処理

ここからは、個人事業主から法人成りした際の棚卸資産・借入金や負債・売掛金・固定資産の4種類の資産の会計処理をご紹介します。

【棚卸資産】個人から法人へ売却したものとして処理する

棚卸資産は、原則として通常の取引価格で譲渡します。ただし、棚卸資産が通常の取引価格の約70%に満たない場合には、取引価格の70%相当額で譲渡したと扱われます。

棚卸資産は、商品の型崩れや流行遅れなど、さまざまな要因によって資産価値が低下する場合があります。資産価値が低下した棚卸資産については、処分可能価格が通常の取引価格と見なされます。

資産価値の低下を加味しながら、棚卸資産は通常の取引価額から70%相当額の間で、妥当な金額を選択しましょう。

【借入金・負債】3パターンの方法から選んで処理する

借入金は以下の3つの方法から最適な方法を選んで処理する方法が一般的です。

法人成りした会社へ引き継がない

現預金が手元に多く残っている場合は、法人成りした会社へ借入金を引き継がない方法を選びましょう。なぜなら、手元に現預金が多くあるならば、個人として完済できるためです。ただし、ほとんどの場合、現預金は少ないため、会社へ引き継がない方法を選択する人は少ないとされています。

個人が返済しながら、法人で新たに借入をする

個人事業主時の借入金は個人で返済しながら、法人で新たに借入を行う方法もあります。ただし、新設した法人は別人格として扱われるため事業実績がなく、金融機関や信用保証協会の審査に通りづらい可能性もあります。

債務引受する

個人事業主の負債を法人成りした会社で引き継ぐ債務引受をする方法もあります。債務引受には「重畳的債務引受」と「免責的債務引受」の2種類があります。「重畳的債務引受」とは個人と会社が一緒に債務引受をする方法、「免責的債務引受」とは会社のみで債務引受をする方法のことです。それぞれの詳細は以下の表の通りです。

重畳的債務引受 免責的債務引受
借入金の返済 会社 会社
個人事業主 債務者として会社に追加される 連帯保証人になる

借入金を法人成りした会社で返済したい場合には、金融機関と債務引受ができるように調整しましょう。

このように、借入金の会計処理には3つのパターンがあり、それぞれで特徴が全く異なるため、現状を正しく把握した上で最適な方法を選びましょう。

【売掛金】引き継がずに個人で回収して処理する

売掛金などの債権は、時価で法人へ引き継ぐ方法が基本です。しかし、債権のうち売掛金を法人へ引き継ぐ場合は「債権譲渡」として扱われるため、債務者の同意を得る必要があるなど手続きが煩雑です。加えて、売掛金を法人へ引き継ぐメリットがないため、売掛金は引き継がずに個人で回収して処理する方が良いでしょう。

【固定資産】市場販売価格または簿価で引き継いで処理する

不動産・ソフトウェア・車両といった固定資産は、引継ぎ時の市場販売価格で引き継いで処理します。年数が経過しているものや市場販売価格がわからない場合は、薄価で引き継ぎましょう。

なお、固定資産を市場価格または薄価で引き継ぐ場合、個人事業主側は引き継いだ価格を「譲渡所得」として確定申告する必要があります。

ただし、引き継ぎ価格が50万円を超えると課税対象になります。特に不動産の場合は金額も大きくなり、所得税が課税される上に登録免許税や不動産取得税も課せられます。

税金が発生する場合には賃貸借契約など、他の引き継ぎ方法を検討しましょう。

資産を移行する3つの手続き

個人から法人へ資産を移行するためには、「売買契約」「現物出資」「賃貸借契約」の3つの手続きが必要です。ここからは、それぞれの手続きについて詳しく解説します。

手続きが簡単な「売買契約」

売買契約とは、個人事業主と法人の間で売買する方法を意味し、個人事業主と法人で売買契約書を交わします。シンプルでわかりやすく、売買契約書を交わすだけで済むため、手続きが簡単である一方で、法人側に個人事業主の資産を買い取る資金が必要です。財産の買取には財産の価格だけではなく、必要に応じて税金も発生する点にも注意が必要です。

資本金を大きくできる「現物出資」

現物出資とは、個人事業時の財産を会社に出資する形で移行する方法です。現物出資で出資する資産は、車両や売掛金など金銭以外の資産です。現物出資には、法人側の資本金を増やせるというメリットがあります。しかし、現物出資額が500万円を超える場合は、弁護士や公認会計士による調査が必要です。調査には時間も手間もかかるため、500万円を超えることが想定される場合は、現物出資での移行は避けた方が良いでしょう。

賃貸料をやり取りするだけ「賃貸借契約」

賃貸借契約とは、個人事業時の資産を法人に貸す方法です。資産の保有者は個人事業主側にあるため、資産を完全に移行するわけではありません。賃貸借契約も、賃貸借契約書を交わすだけで済み、シンプルでわかりやすく移行の手間もかかりません。ただし、賃貸借契約を交わすと法人から賃借料を受け取るため、個人事業主側は確定申告を毎年行う必要があります。

法人成りの税制面のメリット

ここまで、個人事業から法人成りする際の会計処理と手続きの方法をご紹介しました。個人事業主から法人成りすることのメリットは多数ありますが、特に税制面にさまざまなメリットがあります。税制面の主なメリットは以下の通りです。

  • 消費税の納付が免除される場合がある
  • 社長(自分)に支払う給与を経費計上できる
  • 退職金を経費計上できる
  • 欠損金の繰越控除期間が9年になる

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

条件次第で消費税の納付が免除される

法人成りすると、以下の条件を全て満たした場合のみ消費税の納付が最大2年間免除されるというメリットがあります。

  • 資本金が1,000万円未満
  • 事業年度開始の日以後6か月で課税売上高が1,000万円以下
  • 人件費が1,000万円未満
  • 設立1期目が7か月以下

消費税の免除は、これらの条件を全て満たしていなければなりません。そのため、資本金や人件費は1,000万円以下、課税売上高が設立1年目の前半6ヶ月までは1,000万円を超えないように意識することで、税金対策が可能です。

社長(自分)に払う給与を経費計上できる

法人税も節税できます。なぜなら法人成りすると、社長(自分)に支払う給与を経費計上できるようになるためです。法人税は、収益から役員報酬の金額を差し引いた額が課税対象となります。つまり、社長の給与を経費計上できれば課税対象額が少なくなり、その分法人税の納付額も少なくなります。また、役員報酬は給与所得控除の対象で、55万〜195万円の控除が受けられます。つまり、役員報酬を経費として法人税と所得税で二度計上できることとなります。

退職金を経費計上できる

法人成りすると、退職金を経費計上できるようになるというメリットもあります。個人事業では経費計上できないため、これは法人ならではのメリットです。退職金を経費計上できれば、法人所得を減らせます。注意点として、あまりにも高額な退職金の経費計上は認められない場合があるため、在籍期間や功績、役員報酬の金額などから最適な退職金を支払うようにすることが重要です。

欠損金の繰越控除期間が9年になる

欠損金の繰越控除期間が最長9年または10年に伸びるというメリットもあります。個人事業の欠損金の繰越控除期間は3年のため、かなり延ばせることがわかります。欠損金の繰越控除期間が長ければ節税効果が高くなるため、節税対策のメリットの一つと言えるでしょう。なお、法人の欠損金の繰越控除期間は事業年度によって9年か10年に分けられます。

法人成りに税制面のデメリット

法人成りには税制面でさまざまなメリットがある一方で、以下のようなデメリットがあることも把握しておかなければなりません。

  • 赤字でも最低7万円は納付しなければならない
  • 交際費が全額損金にできなくなる

それぞれのデメリットについて詳しく解説します。

赤字でも最低7万円納税する必要がある

法人成りすると、赤字でも法人住民税の均等割を納税しなければなりません。法人住民税の均等割は、都道府県民税と市区町村民税で構成されています。資本金1,000万円以下の場合、都道府県民税の税額は2万円です。また、資本金1,000万円以下であり従業員50以下の場合、市区町村民税の税額は5万円です。つまり、最低でも7万円は納税義務が課せられます。儲かっているほど税額が増える法人住民税の法人税割と異なり、均等割は、法人として等しく払う義務がある税金です。法人成りすると会社の業績に関わらず、法人住民税の均等割は必ず納税しなければならないことを覚えておきましょう。

交際費が全額損金にできなくなる

個人事業主では全額損金にできていた交際費が、法人成りすると全額損金にできなくなるというデメリットもあります。例えば、法人成りすると飲食代は50%のみしか損金にできません。ただし、資本金が1億円以下の企業では年間800万円までであれば、交際費を全額損金にできます。このように、個人事業時に交際費を多く出費していた場合や資本金が1億円を超える場合には、交際費全額を損金にできなくなることを把握しておく必要があります。

個人事業主が法人成りを検討するタイミング

個人事業主から法人成りすることには、前述の通りメリットやデメリットがあります。メリットとデメリットを踏まえた上で、法人成りを検討するタイミングは以下の2通りです。

  • 消費税課税売上高が1,000万円を超える場合
  • 所得が800万円を超える場合

それぞれについて詳しく解説します。

消費税課税売上高が1,000万円を超える場合

まずは、消費税課税売上高が1,000万円を超える場合です。なぜなら、消費税課税売上高が1,000万円を超えるタイミングで法人成りすると、最長2年間の消費税免除が受けられる可能性があるためです。個人事業主と法人は別人格として扱われるため、法人成りしても個人事業時の消費税課税売上高は関係ありません。加えて、会社設立直後は前々事業年度の消費税課税売上高がない状態となるため、消費税免除の対象となる確率が高くなります。ただし、ご紹介した通り消費税免除には他にも複数の条件があるため、条件を確認した上で法人成りを検討してください。

所得が800万円を超える場合

所得が800万円を超える場合も、法人成りを検討する適切なタイミングです。
個人事業主の所得には所得税が課せられます。所得税率は、下記表のように課税される所得金額が増えるほど大きくなります。一方で、法人化した際に課せられる法人税は、所得が800万円以下が15%、800万円を超える部分は22%です。所得が800万円を超えて増え続けると仮定した場合、所得が増えるほど税率が高くなる所得税よりも、800万円以下と800万円を超えた部分の税率が一定である法人税の方が節税効果があります。

課税される所得金額 税率
195万円以下 5%
195万円超から330万円以下 10%
330万円超から695万円以下 20%
695万円超から900万円以下 23%
900万円超から1,800万円以下 33%
1,800万円超から4,000万円以下 40%
4,000万円超 45%

※参考:国税庁『No.2260 所得税の税率|国税庁

ただし、税額は法人化した際の報酬額や事業以外の所得の有無などによって大きく変わる可能性もあるため、事前に税額シミュレーションで確認することをおすすめします。

法人成りは順調に成長している証

これまで個人で経営していた個人事業から会社を設立する法人成りは、事業が順調に成長しているからこそできることです。法人成りするためには、資産の引き継ぎや手続きが必要であり、税金などさまざまな面で、個人事業を行っている時と異なります。ご紹介した法人成りするタイミングに該当する場合には、法人成りするメリットとデメリットを正しく把握した上で、法人成りを検討しましょう。

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