仕入税額控除とは?仕組みや計算式について解説

更新日:2024年02月21日

仕入税額控除とは

経理担当者の方が知っておくべき、消費税の仕入税額控除について分かりやすく解説します。2023年10月から始まるインボイス制度によって、仕入税額控除を受けられない事態に陥らないために、今から知識を身につけておきましょう。今回は、仕入税額控除の仕組みや計算式、インボイス制度開始による変更が生じる点について詳細に解説します。

仕入税額控除とは

消費税とは、商品やサービスに対し消費者が負担する税金です。その税金を事業者や企業が預かり納付します。仕入税額控除とは売上の際に預かった消費税から、仕入や経費の際に支払った消費税を差し引き、申告・納税することをいいます。

仕入税額控除の仕組み

商品やサービスが消費者に届くまでには、生産・仕入・流通など経費がかかり、卸売業者や小売店を経ると、さらに多くの業者が関わり各地点で経費が発生します。そして、それぞれの経費に消費税が課税されます。

この消費税の重複課税を防ぐ制度が仕入税額控除です。経理担当者は仕入税額控除制度を適用し、商品販売で消費者から預かった消費税から、販売に至るまでの経費に課税される消費税を差し引いて申告・納税の手続きを行わなければなりません。

パン工場を例にとり、商品が消費者に届くまでを見てみましょう。

◆パンの原材料

小麦粉・卵・牛乳・バター・砂糖・塩・イースト

工場A:小麦などは自社で調達できるとし、仕入が発生しない
売上額 3,000,000円
消費税
(売上に課税)
300,000円

工場Aでは原材料の仕入額が発生しないため、消費税額の申告・納税額は、売上額からの消費税額と同じ30万円です。

工場B:原材料を仕入れて、商品を生産する
売上額 3,000,000円
消費税
(売上に課税)
300,000円
仕入額 1,000,000円
消費税
(仕入に課税)
100,000円

▼工場Bの消費税額の申告・納税額

200,000円=300,000円(売上にかかる消費税) ー 100,000円(仕入にかかる消費税)

工場Bでは原材料を仕入れて商品を生産しているため、消費税額の申告・納税額が20万円と算出されます。

工場C:商品をスーパーやコンビニエンスストアなどで販売する
売上額 3,000,000円
消費税
(売上に課税)
300,000円
仕入額 1,000,000円
消費税
(仕入に課税)
100,000円

▼工場Cの消費税額の申告・納税額

200,000円=300,000円(売上にかかる消費税) ー 100,000円(仕入にかかる消費税)

工場Cでは、商品をスーパーやコンビニエンスストアなどで販売しています。そのため、消費税額の申告・納税額は工場Bと同額の20万円と算出されましたが、消費者の支払った消費税は販売店の総売上として計上されています。

このように個々の商品やサービスを消費者に提供するまでには、繰り返し消費税が課税されることがあります。重複した課税を防ぐために、仕入税額控除の仕組みが取り入れられています。

仕入税額控除の対象となる取引

商品やサービスに対して支払った消費税は仕入税額控除の対象とできます。さらに、課税仕入とは、事業のために支払った取引金額を指し、以下のような取引が仕入税額控除の対象となります。

  • 商品などの棚卸資産の購入
  • 原材料等の購入
  • 機械や建物等のほか、車両や器具備品等の事業用資産の購入または賃借
  • 広告宣伝費、厚生費、接待交際費、通信費、水道光熱費などの支払
  • 事務用品、消耗品、新聞図書などの購入
  • 修繕費
  • 外注費

ただし、上記に関連する取引であっても給与に該当するもの課税仕入れの対象には含まれません。

引用:国税庁「仕入税額控除の対象となるもの

仕入税額控除の対象にならない取引

前述の仕入税額控除の対象となる取引に該当しないものは仕入税額控除の対象となりません。とくに注意すべき点は人件費です。給与は仕入税額控除の対象となりませんが、人材派遣会社などが提供する人材サービスに対しては、人材派遣料といった委託料が仕入税額控除の対象となります。

仕入税額控除が適用できる要件

仕入税額控除を受けるためには、控除の要件を満たした帳簿と請求書を保存しておかなければなりません。2022年現在、消費税の税率は軽減税率(8%)と標準税率(10%)とがあり、税率ごとに区分した記述が求められます。

また、帳簿と請求書のどちらも以下のように記載必須要件があり、7年間の保存が義務付けられています。ただし、税込支払額が3万円未満の取引の場合は、取引の詳細な内容が記載されている帳簿のみ保存が義務付けられています。

帳簿記載事項要件(課税仕入の場合)
● 課税仕入を行なった相手の氏名または名称
● 課税仕入を行った年月日
● 課税仕入にかかる資産または役務の内容
● 課税仕入にかかる支払対価の額
請求書等の記載事項
● 書類の作成者の氏名または名称
● 取引を行った年月日
● 取引に係る資産または役務の内容
● 税率ごとに区分して合計した取引の額
● 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

参考)国税庁「仕入税額控除のために保存する帳簿及び請求書等の記載事項

仕入税額控除の計算方法

仕入税額控除の計算方法は、全額控除・個別対応方式・一括比例分配方式・簡易課税制度の4種類です。計算方法は、売上の何%が課税対象になるかを表す課税売上割合や課税売上高により決定します。課税売上割合の計算方法は、次のとおりです。

◆課税売上割合の計算式

課税売上割合(%)=課税売上高[税抜] ÷(課税売上高[税抜]+ 非課税売上高 ) × 100

例)地価1,500万円(非課税売上高)の土地に、2,000万円(課税売上高)の住宅を建てて販売した場合

57%=2,000万円 ÷(2,000万円+ 1,500万円)

このように課税売上高や課税売上割合を踏まえて、自社に適した仕入税額控除の計算方法を選びます。

参考)課税売上割合とは

全額控除

課税期間中の課税売上高が5億円未満で、課税売上割合が95%以上の場合は、その課税期間における消費税額の全額控除が認められます。

課税仕入の消費税が全額控除されるため、控除割合がもっとも大きくなります。算出方法はシンプルで、仕入を課税仕入とそれ以外に分類し、支払った消費税を集計するだけです。

例)

課税売上 1,100,000円(消費税100,000円を含む)
仕入額 440,000円(消費税40,000円を含む)
納税額 50,000円=100,000円―40,000円

また、要件のどちらかが満たされていない場合は、次に紹介する個別対応方式、または一括比例分配方式を使用し算出します。

個別対応方式

課税仕入を以下の3つに分類し、仕入税額控除額をそれぞれ計算します。先ほどの全額控除に次いで、控除額が大きくなる算出方法です。

課税売上に対応する仕入 全額控除
非課税売上に対応する仕入 控除なし
課税売上と非課税売上に共通する仕入 課税売上割合をかけた金額を控除

以下を例として、仕入税額控除を算出します。

課税売上 1,100,000円(消費税100,000円を含む)
仕入額 660,000円(消費税60,000円を含む)
共通する仕入
(光熱費など)
88,000円(消費税8,000円を含む)
課税売上割合 50%

◆仕入税額控除の計算式

64,000円=60,000円[仕入額] +8,000円[共通する仕入]×0.5 )

この場合、仕入税額控除は64,000円となります。

◆納税額の計算式

36,000円=100,000円[課税売上] ー64,000円[仕入税額控除]

そのため、納税額は、36,000円となります。

一括比例配分方式

一括比例配分方式では課税仕入を分類せず、課税仕入全額に課税売上割合をかけて仕入税額控除の金額を計算します。なお、一括比例配分方式を選択してから2年間は、個別対応方式を選べなくなります。注意してください。

課税売上 1,100,000円(消費税100,000円を含む)
仕入額 660,000円(消費税60,000円を含む)
共通する仕入
(光熱費など)
88,000円(消費税8,000円を含む)
課税売上割合 50%

◆仕入税額控除の計算式

34,000円=(60,000円[仕入額]+8,000円[共通する仕入])×0.5

この場合、仕入税額控除は34,000円となります。

◆納税額の計算式

66,000円=100,000円[課税売上] ー34,000円[仕入税額控除]

したがって、納税額は、66,000円となります。

簡易課税制度

簡易課税制度は、企業の実務負担を軽減する目的で始められた制度です。仕入にかかる消費税額をそれぞれ計算する必要がなく、事業内容ごとにあらかじめ定められた「みなし仕入率」により、仕入税額控除の金額を計算します。

◆簡易課税制度の計算式

売上にかかる消費税額×みなし仕入率

簡易課税制度を利用するには、前々事業年度(個人事業主の場合は前々年の課税売上高)が5,000万円以下であり、「消費税簡易課税制度選択届出書」を選択しようとする期間開始日の前日までに届け出ている必要があります。

▼事業別:みなし仕入率

該当業種 みなし仕入率
第一種事業 卸売業 90%
第二種事業 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) 80%
第三種事業 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業 70%
第四種事業 第一、二、三、五、六種事業以外の業務 60%
第五種事業 運輸通信業、金融業及び保険業、サービス業 50%
第六種事業 不動産業 40%

参考)簡易課税制度とは

免税事業者とインボイス制度

インボイスとは通関手続きで「送り状」などと呼称される明細書・請求書・納品書を兼ねたものです。インボイス制度は、記載要件を満たした請求書などを発行し保存しておかなければなりません。

インボイス制度とは

インボイス制度は2023年10月1日から開始します。今までは、仕入れた物の商品名や金額を記載した請求書を保存する「請求書等保存方式」で問題ありませんでした。しかし、2019年10月に消費税増税に伴い軽減税率が適用され、税率が2種類になりました。これにより、正確な取引内容を知るための適用税率や、税額を明記したインボイスを保存する「適格請求書等保存方式」の導入が必要となったのです。インボイス制度により、正確な消費税額と消費税率の把握、そして軽減税率の不正利用を防ぐことが主な目的とされています。

インボイスを発行するには

インボイスを発行するには2023年3月31日までに、インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」になっておく必要があります。適格請求書発行事業者になる条件は、消費税を納める必要のある課税事業者です。そのため、消費税の納税が免除されている免税事業者はあてはまりません。課税事業者はインボイス制度が開始すると、インボイスの発行が義務づけられます。

▼インボイスに必要な記載事項

  • 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額など(端数処理は一請求書当たり、税率ごとに1回ずつ)
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

参考)インボイス制度とは

課税事業者に必要な対応

課税事業者とは、消費税を除く売上が1,000万円を超える事業者であり、消費税の納税義務がある事業者を指します。インボイス制度が始まると、インボイスの発行が義務となるため、それまでに所轄地の税務署長に申請し、審査を受け登録事業者になっておく必要があります。また、制度開始からはインボイスの発行に際し、追加された記載事項があります。そのため、追加記載事項を加えたインボイスを発行する請求システム等の整備をする必要があります。

免税事業者に必要な対応

開業から1年若しくは2年、または前々事業年度の課税売上が1,000万円以下である場合、納税が免除されます。免税事業者が販売する際にも、消費税を請求することが多いですが、納税が免除されてきました。

免税事業者は前述のとおり、インボイスを発行することができません。しかし今までは免税事業者からの仕入税額控除が可能でした。

インボイス制度開始に伴い、免税事業者からの仕入税額控除が段階的に廃止することが決まっています。そのため当面は、免税事業者に不利益が及び、免税事業者との取引を控える動きが生まれる可能性も秘めています。

そこで、課税事業者になることを選択肢として挙げておくことをおすすめします。納税義務が発生した時に、課税事業になるか、免税事業者でいるかのどちらが利益になるのかを検討して選んでおきましょう。

インボイス制度導入により仕入税額控除が変わる

インボイス制度が開始しても、免税事業者同士・課税事業者同士の取引では変化がありません。しかし、免税事業者と課税事業者間の取引では、課税事業者側が消費税額控除を受けられなくなるため注意が必要です。そのため、自社の取引内容などに応じて課税事業者を選択するなど、より利益を得られる方法を選びましょう。

また、インボイス制度が始まる前に、経理書類やシステムなどの環境を整えておくことも重要です。制度開始に備え、さまざまな可能性を考慮し、準備を進めておいてください。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

無料の会計ソフト「フリーウェイ」

このエントリーをはてなブックマークに追加