粉飾決算とは何か~種類、刑罰、事例、予防について解説~

更新日:2022年12月15日

粉飾決算

粉飾決算とは、会計処理において企業が不正を働く虚偽の決算報告です。粉飾決算では収支を偽装し、内容に虚偽がある財務諸表を作成して決算報告をします。具体的には、売上や経費に関する経理操作をすることで、実際には赤字の場合でも黒字として決算することを指します。赤字や債務超過などの理由によって経営状況が悪化している企業によくみられる不正行為です。粉飾決算は刑罰の対象となります。この記事では、粉飾決算の手法や原因、粉飾決算によって科せられる罰則などについて詳しく解説します。

粉飾決算は大企業だけの問題ではない

粉飾決算は上場企業・非上場企業を問わずに起こる可能性があります。テレビやインターネットなどの情報メディアで粉飾決算について報道されるのは、上場企業に関するものが多いです。そのため、粉飾決算が起きる企業は上場企業のみだと思われがちですが、実際は非上場企業でも粉飾決算が起きています。多くの非上場企業では、赤字を隠ぺいするために利益や所得を多くごまかすのではなく、税金の負担を減らすために利益を低くごまかして虚偽の決算報告(逆粉飾決算)をします。資金調達のために、銀行などの金融機関から融資を受けることが目的の場合は、粉飾決算がなされます。

粉飾決算の種類

粉飾決算には「架空在庫計上」「子会社への売上の架空計上」「循環取引」の3種類があります。いずれも利益を増やすことが目的です。しかし、この3つはそれぞれ異なる方法です。3つの粉飾決算について、どのような仕組みで利益を増やすのかを解説します。

架空在庫計上

この方法は、実際は手元にない架空の在庫をあたかも在庫があるように見せかけて、販売した商品の原価を低く報告するものです。原価が低くなることで、貸借対照表においての棚卸資産が増加します。多くの人は「在庫が増えると、それだけ利益も少なくなる」という感覚を持っています。正しい経理処理で在庫を仕入れた場合は、在庫が増えることで利益が出ることはほぼありません。しかし粉飾決算の場合、実際に仕入れていないのにもかかわらず在庫があるように水増しすることで、原価が減ったように見せることができます。

子会社への架空計上

基本的に、企業の売上は得意先や取引先からの注文がなければ計上できません。しかし、子会社(グループ企業)の場合、実際に注文がなくても「注文を受けたもの」として、比較的簡単に粉飾できます。規模が大きく、多くの取引先がある企業ほど内情が目に見えにくいため、架空計上しやすい傾向にあります。数千あるいは数万の取引内容を、ひとつひとつ隅から隅まで確認することは容易ではありません。小売業の企業を例として考えると、架空の契約書や請求書を作成し、さらに発送伝票を作成すれば、それだけでも売上の架空計上が可能という仕組みです。

循環取引

循環取引は、グループ企業における粉飾決算の方法です。循環取引には、法律上もしくは会計上の定義がありません。前述した架空計上の範囲を広げ、「親会社から子会社A」→「子会社Aから子会社B」→「子会社Bから子会社C」→「子会社Cから親会社」のように、売上を循環させる方法です。このように、グループ企業内において売上を循環させることで、グループ企業それぞれの売上が増加します。その結果、利益の水増しにつながるという仕組みです。

逆粉飾決算の種類

逆粉飾決算とは、支払うべき税金や配当金を減少させたりする目的で、決算書を操作することです。決算書を人為的に操作することで、企業の経営成績や財政状態などを過小評価します。莫大な利益が出た場合に、利益を次期へと繰り越すことを目的に決算書の操作をするケースもあります。

虚偽の売上減少

実際は売上が伸びていても逆に減っていると見せかけたり、売上は伸びているものの増収幅が少ないように見せかけたりする方法です。

どのような方法があるのか、例を紹介します。

  • 売上の計上や、売上伝票の処理をしない。
  • 商品をレジに入力しない。
  • 売上の一部を記帳しないで、差額を裏金に回す。
  • 定価で販売されている商品を、安値で販売したことにして、差額で裏金を作る。

虚偽の売上原価増加

売上原価が増加しているように見せかけるためには、大きく分けると「当期仕入高の増加」「期末棚卸高の減少」の2種類の方法があります。

この2つには、次に挙げるようなさまざまな例があります。

  • 適正価格よりも高い値段で仕入れ、売上原価を水増しする。
  • 仕入高を大きく計上して、実際に仕入れた金額との間で生じる差額を、仕入れ先に預けることで、裏金を作る。
  • 来期に計上するはずの仕入を、今期分の仕入として計上する。
  • 期末在庫に関して、評価損を大きく計上する。

虚偽の販売費及び一般管理費増加

販売費や一般管理費の増加は、経費の増加による支出と見せかけたものです。しかし、その資金は、裏金や代表者の蓄財などとして充てられるため、シンプルな支出にはあたりません。また、納税を抑えて資金を留保するために、経費を実際より多く見せかける手法もあります。これは、厳密には利益や所得を本来より低く報告する逆粉飾にあたる行為ですが、容易に判断できる内容ではありません。

どのような方法があるのかを紹介します。

  • 来期に計上する分の経費を、今期の分として計上する。
  • 過大な減価償却費を計上する。
  • 社宅や社用車を個人的に利用する。
  • 架空の接待交際費を利用する。(一人5,000円以下であれば、交際費は税法上の交際費から除外できるため。)

粉飾決算が起こる原因

粉飾決算と逆粉飾決算は、どちらも不正な経理によって虚偽の決算報告をする行為ですが、それぞれ別の目的があります。それぞれの目的を紹介します。

粉飾決算の目的

粉飾決算は、利害関係者からの信用をなくさないことがおもな目的とされている場合がほとんどです。利害関係者に協力を得られなければ、企業の経営は成り立ちません。しかし、万が一にも赤字決算を出した場合、利害関係者が手を引いてしまう可能性も考えられます。そうなると経営に支障をきたすため、粉飾決算に手を出してしまうという背景です。

逆粉飾決算の目的

逆粉飾決算の主な目的は、単純に企業が納めるべき税金を減額するためです。税金の種類によって異なりますが、法人税であれば利益に対しておよそ30%〜40%の税金を支払う必要があります。そのため、税金として30%も取られることに納得できない経営者が、逆粉飾決算に手を出すという背景です。

粉飾決算で倒産(粉飾倒産)する企業は増加傾向

粉飾倒産とは、粉飾決算が原因となって倒産することです。売上を架空計上した場合には、売掛金を回収できません。一方で、虚偽の利益をもとに納税額が計算されるため、その納付でも資金繰りは苦しくなります。そういった状況で、粉飾決算が露呈しなければ、あたかも黒字倒産したかのような状態になるのです。粉飾決算したことが明らかになれば、金融機関は融資を引き上げますので倒産します。粉飾決算に手を出したことで倒産した企業は、増加傾向です。2018年の粉飾倒産は9件、2019年は18件と、わずか1年間で2倍となりました。

粉飾決算により科される刑罰

粉飾決算が明らかになった場合は、企業内や企業外を問わず、大きな問題となることは明白です。社会的な信用を失うことはもちろんですが、場合によっては罰せられる可能性もあるため、粉飾決算には手を出さないことが大前提です。粉飾決算が明らかになると、状況によって民事上の責任に問われる場合と、刑事上の責任(懲役刑や罰金刑)に問われる場合があります。内容によって適用される法律も異なります。以降では、それぞれに問われる責任の内容と、適用される法律について解説します。

民事責任

粉飾決算が原因で、人や企業が何らかの損害を受けた場合、民事上の責任が問われる可能性もあります。問われる責任は以下の3つです。

①虚偽の報告書に関する関係者における責任(金融商品取引法24条の4)

有価証券報告書の重要な事項において、取締役を含む役員が虚偽の情報を記載した場合に関わる責任です。虚偽情報の記載について知らない状態で有価証券を取得した人が存在し、その人に損害を与えた場合、該当する損害に対して賠償責任を負う必要があります。

②株式会社に対する損害賠償(会社法423条)

粉飾決算をもとにして取締役のような役員が違法な配当をしたり粉飾決算が原因で膨大な納税額になったりと、企業に何らかの損害を与えた場合、役員は該当する損害に対して賠償責任を負う必要があります。

③第三者に対する損害賠償責任(会社法429条)

粉飾決算に基づいて金融機関から借り入れをした結果、債務不履行となり返済が不可能となる場合があります。このように、第三者に何らかの損害を与えた場合、第三者に対して該当する損害の賠償責任を負う必要があります。

参考:金融商品取引法24条の4会社法423条・429条・462条

刑事責任

金融機関から融資を受ける際に粉飾決算を利用した場合、金融機関を欺いたことになり、詐欺罪に該当する場合があります。この事例も含め、どのような事例が刑事責任として該当するのかを解説します。

①詐欺罪(刑法246条)

粉飾決算による不正を利用して金融機関から融資を受けた場合、金融機関に対する詐欺罪として罰せられる可能性があります。詐欺罪での法定刑については規定されており、懲役10年以下と定められています。

②違法配当罪(会社法第963条5項2号)

実際は配当が不可能であるにもかかわらず、粉飾決算を利用して配当した場合に、違法配当罪に該当する可能性があります。違法配当罪での法定刑については、規定によって懲役5年以下もしくは罰金500万円以下、またはどちらもあわせた刑罰が科せられます。

③特別背任罪(会社法第960条)

取締役のような役員が粉飾決算を利用して自分もしくは第三者に対する利益を考えた結果、任務に反して企業へ損害を生じさせた場合、この罪状が適用されます。特別背任罪における法定刑は、懲役10年以下または罰金1,000万円以下、もしくはどちらもあわせた刑罰が科せられます。

参考:刑法246条会社法第963条5項2号・第960条

粉飾決算は上場規程に反する

粉飾決算は上場規程(上場廃止基準)に反するもののため、場合によっては上場廃止となります。上場廃止基準の内容には「虚偽記載又は不適正意見等」という項目があり、粉飾決算はこの項目に該当します。「虚偽記載又は不適正意見等」の内容は下記の通りです。

・第503条第1項第2号に該当する(有価証券報告書等に虚偽記載を行った)場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき

引用:東京証券取引所「有価証券上場規程

粉飾決算の過去の事例

前述のように、粉飾決算は場合によって刑罰が与えられます。過去にはさまざまな企業で粉飾決算が問題となりました。事例によってはニュースでも大きく取り上げられていたため、記憶にある人もいるでしょう。それぞれの企業は、どのような目的で粉飾決算に手を出して、問題が発覚したことによってどのような影響を受けたのでしょうか。社会的な問題となった粉飾決算の中から、3つの問題について、それぞれの粉飾決算の内容や手口などを紹介します。

事例①2006年1月:ライブドア

ライブドアグループは、2004年9月期の連結決算において、実際は約3億円という経常損失が発生していたことを粉飾決算によって隠ぺいしていました。莫大な損失が出ていたにもかかわらず、約50億円の経常利益があるように見せかけたのです。隠ぺいした方法とは下記の通りです。

①実際は売上の計上が見られないライブドア株式において、売却益として約38億円を売上高に含めた。②子会社となる予定だった2つの企業が持つ預金をライブドアに付け替えて、架空売上として約16億円を計上した。

ライブドアは上場企業として多くの投資家から注目されていました。しかし、この粉飾決算が明るみに出たことで、社会的信用を失いました。

事例②2015年4月:東芝

東芝は、粉飾決算によって利益を水増ししていました。東芝の粉飾決算に用いられた手法は4つです。それぞれの手法について解説します。

内容 概要 損益計算書への影響 利益への影響
・工事の進行基準を利用して、売上の操作をした
・工事損失における引当金を処理しなかった
・工事の原価を過剰に少なく見積もり、売上を過剰に多くした
・工事損失における引当金を意図的に処理しないで、原価を過剰に少なくした
・売上の過大
・売上原価の過小
利益の過大
部品加工取引を利用して、押込販売をした 部品の販売や、買戻しの取引で、利益が相殺されないタイミングで部品の押込販売をした 売上原価の過小 利益の過大
取引先への支払いについて、請求書の発行を遅らせて先延ばしにした 本来であれば費用とするタイミングにもかかわらず、先延ばしにして費用としなかった 費用の過小 利益の過大
商品評価損に関して、処理を先延ばしにした 切り下げるはずだった貸借対照表における製品の金額を、先延ばしにした ・売上原価の過小
・費用の過小
利益の過大

事例③2018年6月:はれのひ(着物レンタル業)

はれのひでは着物や振袖のレンタル事業を展開していましたが、平成30年、成人式が開催される前に、突如として閉店しました。その結果、多くの新成人が振袖を着られない事態に発展しました。この問題も粉飾決算が関係しています。はれのひは債務超過に陥っていましたが、架空売上として計上した決算書を作成しました。その決算書を利用して、金融機関から融資を受け、約6,500万円をだまし取ったため、詐欺罪で起訴されました。結果として、はれのひは有罪判決を言い渡されました。

粉飾決算の予防措置

ここまで紹介したように、粉飾決算は詐欺罪に値する犯罪行為のため、事態が明るみに出ると場合によっては逮捕されることがあります。もちろん、手を出さないことが前提です。それと同時に、手を出さないように予防することも大切です。どのような予防ができるのかを紹介します。

心理的動機に対する対策

心理的な動機に対する対策のひとつは、従業員が感じている業務的なプレッシャーを排除することです。多くの企業では「経費削減」「売上増加」などさまざまな目標を設定していますが、目標の達成に関して強制しないことが重要です。そのためには、経営者や幹部のモラルを教育したり、従業員と面談をしたりという対策ができます。また企業内部に通報窓口を設置したり、特定の人や部署などに権限が集中しないような、社内のチェック体制を強化したり、そのほかコンプライアンス教育も必要です。

不正できないシステムの構築

もとから不正ができないようにシステムの構築を考えることも、粉飾決算の予防につながります。たとえば、妥当な取引がされているかを確認したり、新規の取引先や商品に対するチェック体制を強化したりということが、粉飾決算のような不正を予防するためには必要です。そのほか、仕入先や売先、担当者との関係性をチェックすることも大切です。粉飾決算のような不正を見つけるためには、内部監査によるモニタリングも利用できます。

粉飾決算まとめ

粉飾決算は、現在まで明るみになったものだけでも、さまざまな企業で問題になっています。明るみにならない企業も多いからといって、粉飾決算に手を染めてもよいわけではありません。粉飾決算のような不正は、企業に莫大なダメージを与えてしまいます。不正を働かずに健全な経営を続けるためには、チェック体制の強化が必要です。企業内部の通報窓口や内部監査を利用して、不正が可能な環境を作らないようにすることが、粉飾決算の予防につながります。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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