退職所得とは?確定申告が必要なケースを解説

更新日:2024年05月13日

退職所得とは

退職所得とは、退職にともない受け取る金銭的な報酬を指し、その中には退職金や一時金が含まれます。申告書類を退職先へ提出することにより、所得税や住民税が源泉徴収されるため、基本的に確定申告は不要です。

本記事では、退職所得の計算方法や確定申告が必要なケースについて解説します。

目次

退職所得とは

退職所得とは、退職時に勤務先から支給される退職金やその他の給付を指します。これには「社会保険から支払われる一時金」や「確定拠出年金の規約に基づく老齢給付金の一時金」も含まれます。さらに、労働基準法に基づく「解雇予告手当」や「立替払いを受けた未払い賃金」も退職所得です。これらの所得は、退職にともなって発生します。

退職所得の計算方法

退職所得計算の大まかな流れは以下のとおりです。

【退職所得の金額の計算方法】

退職所得の金額=(収入金額(源泉徴収される前の金額)- 退職所得控除額)× 1/2

  1. 確定給付企業年金による退職一時金などにより退職者が負担した保険料や掛け金がある場合は、総支給額から退職者負担分を差し引いて「収入金額(源泉徴収される前の金額)」を算出します。
  2. 収入金額から差し引く「退職所得控除額」の計算は、勤続年数がベースです。
  3. 上記計算式で求めた「退職所得の金額」に税率を掛けることにより、所得税と住民税を求めます。

次に、2.の「退職所得控除額」の計算方法について解説します。

退職所得控除額の計算方法

勤続年数 退職所得控除額
20年以下の場合 40万円 × 勤続年数
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年を超える場合 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年)

※1年未満の端数があるときは、たとえ1日でも1年として計算します

ここでは、計算表を基に退職所得控除額を試算してみます。

【退職所得控除の計算例】

勤続年数 退職所得控除額
勤続年数5年10か月 40万円 × 6年=240万円
勤続年数20年3か月 800万円 + 70万円 ×(21年-20年)=870万円
勤続年数35年7か月 800万円 + 70万円 ×(36年-20年)=1,920万円

上記のとおり、勤続年数は切り上げをして計算します。

「特定役員退職手当等」の計算方法

退職金は、給与よりも「勤続年数による控除」や「1/2課税」さらには「分離課税」により、税務上有利な制度です。ただし、特定役員(役員としての勤続年数が5年以下)の役員退職金の場合「1/2課税」の優遇は適用されません。

【特定役員の退職所得控除の計算例】役員退職金2,000万円のケース

勤続年数 退職所得の金額
勤続年数5年 2,000万円 -(40万円 × 5年)=1,800万円
「1/2課税」なし
勤続年数5年1か月 2,000万円 -(40万円 × 6年)=1,760万円
「1/2課税」で1,760万円×1/2=880万円

5年を境に、退職の時期が1か月違うだけで課税ベースが大きく異なります。

参考)役員とは

退職所得の税額の計算方法

退職金にかかる税金には「所得税」と「住民税」があります。

所得税は国税であり、退職所得、給与所得事業所得雑所得一時所得譲渡所得不動産所得利子所得配当所得山林所得の10の分類に分けられています。住民税は地方税であり、都道府県や市区町村に支払う税金です。この2つの税金は、退職金に対してそれぞれ異なる方法で計算され適用されます。

ここでは、それぞれの仕組みと計算方法について解説します。

所得税の仕組みと計算方法

退職金は、所得分類の退職所得に該当し、他の所得とは独立して計算される分離課税です。退職所得には、勤め先からの退職手当や社会保険などからの一時金、さらには生命保険や信託会社からの一時金も含まれます。

【所得税の計算式】

退職金の所得税額と復興特別所得税の計算方法は、以下のとおりです。

(1)退職金の所得税額=課税退職所得金額×所得税率-控除額
(2)復興特別所得税=退職金の所得税額×2.1%
(3)退職金の所得税の総額=(1)退職金の所得税額+(2)復興特別所得税

【所得税の税率】

退職所得金額が確定した後「所得税の速算表」を参照し(A)課税退職所得金額に該当する(B)税率と(C)控除額を割り出します。求める税額の計算式は、以下のようになります。

求める税額=(A)課税退職所得金額 ×(B)税率-(C)控除額

【所得税の速算表】

(A)課税退職所得金額 (B)税率 (C)控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

【所得税の計算例】

退職所得控除後の課税退職所得金額を、所得税の速算表に当てはめ試算した税額は以下のとおりです。

課税
退職所得金額
退職金の所得税の総額
100万円
  • 退職金の所得税:100万円×5%=5万円
  • 復興特別所得税:5万円×2.1%=1,050円
  • 退職金の所得税の総額:5万1,050円
200万円
  • 退職金の所得税:200万円×10%-控除額9万7,500円=10万2,500円
  • 復興特別所得税:10万2,500円×2.1%=2,152円
  • 退職金の所得税の総額:10万4,652円
600万円
  • 退職金の所得税:600万円×20%-控除額42万7,500円=77万2,500円
  • 復興特別所得税:77万2,500円×2.1%=1万6,222円
  • 退職金の所得税の総額:78万8,722円
1,000万円
  • 退職金の所得税:1,000万円×33%-控除額153万6,000円=176万4,000円
  • 復興特別所得税:176万4,000円×2.1%=3万7,044円
  • 退職金の所得税の総額:180万1,044円
3,000万円
  • 退職金の所得税:3,000万円×40%-控除額279万6,000円=920万4,000円
  • 復興特別所得税:920万4,000円×2.1%=19万3,284円
  • 退職金の所得税の総額:939万7,284円

※1円未満の端数は切り捨て

参考)国税庁「退職金と税」

住民税の仕組みと計算方法

住民税は、納税者が等しく支払う「均等割」と前年の総所得に基づいて算出される「所得割」の2つから成り立っています。退職金にかかる住民税は、他の所得とは独立して計算される分離課税です。課税退職所得金額は、所得税の計算方法と同様です。住民税の所得割は、都道府県民税4%と市区町村民税6%を合わせた10%の税率で算出されます。

住民税=課税退職所得金額×税率10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)

退職所得は原則として確定申告が不要

退職金受給者は通常、追加の税務手続きを必要としません。退職金の課税は雇用主が処理します。退職金が支払われる際に、所得税・復興特別所得税・住民税が計算され、源泉徴収を通じて納税される仕組みです。

ただし、退職金の源泉徴収額は「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無により異なります。この「退職所得の受給に関する申告書」は、退職金の額や勤続年数に基づいて適切な税額を源泉徴収するために必要な書類です。

また、退職し同じ年に再就職した場合にも、新しい職場で前の仕事の収入も含めて年末調整されるため、基本的に確定申告は不要です。

参考)確定申告とは

「退職所得の受給に関する申告書」とは

退職金を適切に受け取るためには、退職前に勤め先に提出する「退職所得の受給に関する申告書」が必要です。

※国税庁「退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)」を引用し加工

通常、退職予定の会社からこの「退職所得の受給に関する申告書」が渡されます。提出を怠ると、退職金の20.42%(復興特別所得税込み)が一律に徴収されてしまい、後に確定申告を通じて税金を調整する必要が生じます。

退職所得の確定申告が必要なケース

退職所得の確定申告は基本的に必要ありませんが、特定の状況では申告が必要となる場合があります。

公的年金などの収入が合計で400万円以下であり、すべてが源泉徴収され、さらに公的年金に関連する雑所得以外の収入が20万円以下のときには、所得税や復興特別所得税の確定申告をする必要はありません。

確定申告をしなければならないのは、以下のケースです。

  • 公的年金などの収入が年間400万円を超えた場合
  • 年金所得があり他の所得金額が20万円を超えた場合

ここでは、それぞれについて解説します。

公的年金などの収入が年間400万円を超えた

退職金を受け取った人が年金受給者であり、国民年金や厚生年金を含む公的年金などの合計金額が400万円を超える場合には、確定申告が必要です。その際、退職金の金額も申告書に記入します。

また、民間の生命保険会社が提供する個人年金保険は、公的年金とは別の雑所得として扱われるため、公的年金の合計収入には加算しません。

年金所得があり他の所得金額が20万円を超えた

年金収入がある場合、年間受取額が400万円以下であるとしても、他の収入が20万円を超えた場合は、確定申告が必要です。他の収入とは、給料、雑収入、一時的な収入などが含まれます。1月1日から12月31日の期間にこれらの収入の総額が20万円を超えた場合は、確定申告する必要があります。主なものは、以下の所得です。

所得の種類 所得の代表例
給与所得 給与・賞与・パート収入
雑所得 個人年金・原稿料
配当所得 株式の配当や投資信託の収益分配金
一時所得 生命保険の満期返戻金

参考:国税庁「公的年金等を受給されている方へ

特定の所得控除を受ける

確定申告は、特定の所得控除を利用する際に必要です。たとえば「医療費控除」や「寄附金控除」など、確定申告を通じてのみ受けられる控除が存在します。

また、退職後に新たな職に就いていない場合は年末調整がされていないため、12月31日時点での所得控除が正確に反映されていない可能性があります。その結果、生命保険料控除や地震保険料控除など、年末調整で申告可能な控除も確定申告しなければ適用されません。適切な控除を受けるためには、確定申告が必要です。

退職所得の確定申告をしたほうがいいケース

退職所得の確定申告は通常必要ありませんが、特定の状況では申告によって税金が戻る可能性もあります。

ここでは、確定申告をしたほうがいいケースとして、次の3点について解説します。

  • 退職金は受け取ったが退職所得申告書を提出しなかったケース
  • 年の途中で退職や転職をしたケース
  • 副業で赤字が発生したケース

確定申告の時期(2月中旬〜3月中旬)までにチェックしておきましょう。

退職金は受け取ったが退職所得申告書を提出しなかった

退職金の受領前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合、所得税と復興特別所得税が一律20.42%で源泉徴収され、規定どおり算定した税額よりも多くなってしまうケースがあります。

源泉徴収額が過多であった場合には、確定申告を通じて過払いの税金還付が可能です。退職時に受け取る退職金や手当を「退職所得」として、退職先から渡された源泉徴収票に基づいて確定申告をします。

年の途中で退職や転職をした

退職や転職による年途中の変動があった場合であっても、通常は退職金に関する確定申告の必要はありません。ただし、主に以下2つの状況下では、確定申告で税金の還付を受けられます。

【年途中で退職し、無職期間がある場合】

年の途中で退職すると、1年間の収入を前提に計算された所得税が過払いとなる可能性があります。年末調整されていないため、確定申告を通じて過払い税金の精算をしましょう。とくに年の前半に退職した場合には、差額が大きくなる傾向にあります。

【前職の源泉徴収票を転職先に提出していない場合】

転職したときは、新しい職場での年末調整により正しい税額の納税が可能です。ただし前職の源泉徴収票がないと正確な計算ができません。とくに転職による無職期間があった場合、所得税の過払いが生じる可能性も高まります。

確定申告をする際には、退職した職場から発行される「給与所得の源泉徴収票」が必要です。万が一紛失してしまった場合は、退職した職場の経理部門に連絡し、再発行を依頼しましょう。

副業で赤字が発生した

副業による不動産収入や事業収入が赤字の場合、その損失を退職金と相殺し税金還付を受けられる可能性があります。給与収入や配当収入、その他の収入との損益通算ができます。

これらを通算しても赤字が残る場合は、退職金との損益通算も可能です。とくに退職後に副業を本格化させたり、新たな事業を始めたりするケースでは、事業の初期には経費がかさむため赤字となることもあります。退職金を含めた確定申告で税金が還付されるのであれば、資金繰りの不安も軽減されます。

参考)資金繰りとは

退職所得の確定申告における特殊なケース

特殊なケースでは、退職所得に関する確定申告が必要になることがあります。たとえば以下のケースです。

  • 死亡退職金を受け取った
  • 複数の企業から退職金を受け取った

これらの状況では、税法上の取り扱いが異なり、適切な申告が求められます。また、適切な申告により、税制上の不利益も回避可能です。ここでは、特殊なケースにおける確定申告の必要性について詳しく解説します。

死亡退職金を受け取った

死亡退職金は、通常の退職所得としてではなく相続財産として扱われます。亡くなった従業員に支払われるはずであった給与や退職金は、「退職所得の源泉徴収」の対象ではなく「相続税」の対象としての扱いです。

死亡退職金は、相続人が誰になるのか、またどのように相続するかによって税額が異なります。相続人が決定し、支払額が確定した後、死亡退職金の支払者は「退職手当金等受給者別支払調書」を作成します。

複数の企業から退職金を受け取った

退職金を支払う事業主は、他の事業主が支払った退職手当を含めて、正しい源泉徴収税額を計算しなければなりません。

受給者は「退職所得の受給に関する申告書」を提出する際に、他の事業主から受領した退職手当の詳細を記入し、関連する源泉徴収票を添付する必要があります。また、複数の企業に申告書を提出する場合は、提出する順番を申告書に明記する必要があります。

退職所得まとめ

退職金を受け取る際には、退職所得という収入が発生します。一般的に退職者は「退職所得の受給に関する申告書」を勤め先に提出し、勤め先が税金を計算し源泉徴収します。

そのため、確定申告の必要はありません。ただし、この「退職所得の受給に関する申告書」の提出を怠ると、過払い税金が生じる可能性があるため、確定申告が必要になることがあります。

さらに、退職により収入が減少した場合のように、確定申告によって税金が還付されることもあります。退職金は、他の所得と比べて特別な控除が適用されるなど、優遇されているのが特徴です。必要に応じて確定申告を検討してみましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

運営企業

当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。

項目 内容
会社名 株式会社フリーウェイジャパン
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