グループ法人税制とは?譲渡損益についてもわかりやすく解説
更新日:2023年08月17日
グループ法人税制とは、完全支配関係にある企業グループを一つの法人のようにとらえて課税する制度です。グループ法人税制のメリットとして、グループ内の対象取引で譲渡損益を繰延べられる点が挙げられます。
本記事で、グループ法人税制適用のポイントである「完全支配関係」についても確認しておきましょう。
目次
グループ法人税制をわかりやすく解説
グループ法人税制は、グループで企業を運営していくにあたって理解しておかなければならない制度です。グループ法人税制の概要や、適用対象について解説します。
グループ法人税制の概要
グループ法人税制とは、完全支配関係にある企業グループを一つの法人のようにとらえて課税する制度です。グループ法人税制では、グループ内での資産譲渡は税務上損益として認識されません。
グループ法人税制は、2010年度の税制改正で具体的に導入されました。法人税法のいくつかの条文に、グループ法人税制の内容が反映されています。
グループ法人税制の適用対象
グループ法人税制の適用対象となるのは、完全支配関係の有するグループ法人による譲渡損益調整資産の取引です。ここから、「完全支配関係」や「譲渡損益調整資産」の定義を解説します。
ポイント1.完全支配関係の定義
「完全支配関係」とは、以下に該当する場合のことです(法人税法第2条12の7の6)。
- 法人または個人(一の者)が、法人の発行済株式等の全部を直接・間接的に保有する関係
- 一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係
「直接」とは、法人または個人が株式を単独で100%保有することです。一方、「間接」とは別の法人とあわせて100%保有することを指します。
また、「一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係」とは、法人または個人に直接・間接的に支配されている会社同士の関係のことです。
参考:e-Gov「法人税法」
ポイント2.譲渡損益調整資産の定義
「譲渡損益調整資産」とは、主に以下の資産のうち資産の譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のものを指します。
- 固定資産
- 棚卸資産の土地
- 有価証券
- 金銭債権
- 繰延資産
棚卸資産の土地とは、他者への販売を目的に所有している土地のことです。一方、有価証券は売買目的の有価証券は除きます。
また、繰延資産とはすでに発生・支払いした支出のうち、1年以上にわたって費用化することを認められているもののことです。
グループ法人税制を適用する理由(メリット)
グループ法人税制を適用する理由・メリットは以下のとおりです。
- グループ法人税制で譲渡損益を繰延べられる
- 現物分配は帳簿価額で譲渡したことになる
- 子会社から親会社への配当が全額損金不算入になる
- グループ法人税制は寄付金にも適用できる
それぞれ解説します。
グループ法人税制で譲渡損益を繰延べられる
グループ法人税制適用時に、譲渡損益を繰延べられる点がメリットです(法人税法第61条の11)。対象のグループ内で譲渡損益調整資産に該当する取引をした場合に、譲渡損益を繰延べられます。
ただし、あくまで「繰延べ」のため、該当する企業間で完全支配関係がなくなった場合や、譲受法人側が譲渡・償却・評価換え・貸倒れ・除却した場合などに、再び対象の譲渡損益を認識する点に注意が必要です。
現物分配は帳簿価額で譲渡したことになる
グループ企業間の現物分配(みなし分配含む)が、現物分配する法人の直前の帳簿価額で譲渡したことになる点もメリットです(法人税法第62条の5第3項)。現物分配とは、配当などの際に金銭以外の資産を株主に交付することを指します。
簿価のまま移転するため、交付する側は譲渡損益課税から解放され、受け取る側も帳簿価額のまま取得できる点がポイントです。
子会社から親会社への配当が全額損金不算入になる
グループ法人税制を適用すると、完全支配の子会社から親会社への配当が全額損金不算入となる点もメリットです(法人税法第23条第1項)。継続して完全支配関係があった株式または出資の一定のものが該当します。
なお、関連法人株式から受けた親会社への配当の場合も、配当合計額から当該関連法人株式に関係する負債利子の額を控除した金額は全額損金不算入です。
グループ法人税制は寄付金にも適用できる
グループ内の対象企業間の寄付金は、支出側は全額損金不算入、受領側は全額益金不算入となる点もメリットです(法人税法第25条の2、同法第37条第2項)。そのため、課税されずに現金が潤沢な子会社から親会社に資金を移動できます。
なお、寄付金とは見返りを求めずに金銭や物品などを贈与することです。税務上、寄付金とされているものは基本的に該当します。
グループ法人税制の注意点
グループ法人税制を適用するにあたって、注意しておきたいのが以下の点です。
- コストが増加する可能性を把握しておく
- グループ法人税制とグループ通算制度の違いを理解する
- 中小企業の特例が適用されない点に気をつける
各注意点を確認していきましょう。
コストが増加する可能性を把握しておく
グループ法人税制適用にあたって、コストが増加する可能性を把握しておきましょう。グループ法人税制はあくまで法人税法上の取り扱いで、財務会計処理にまで反映するものではありません。
そのため、個別の財務諸表を作成する際に、税務上の利益と会計上の利益に差が生じることがあります。場合によって、申告調整が必要です。
グループ法人税制とグループ通算制度の違いを理解する
グループ法人税制と混同しやすい制度に、「グループ通算制度」があります。グループ通算制度は、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、個別に法人税額の計算・申告し、その中で損益通算等の調整を行う制度です。
2022年度の税制改正で従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行されました。「グループ通算制度」は選択した法人のみに適用されるのに対し、「グループ法人税制」は対象の取引に自動で適用される点が主な違いです。
中小企業の特例が適用されない点に気をつける
グループ法人税制は、条件を満たす場合に中小企業も対象です。グループ法人税制の対象となる中小企業には、「中小企業の特例」が適用されない点に注意しましょう。
ここで中小企業の定義や不適用となる具体例を簡単に紹介します。
中小企業とは
中小企業の定義は、法律によって異なります。中小企業基本法の場合は業種によって異なりますが、法人税法における定義では資本金1億円以下の企業は基本的にすべて中小企業です。
不適用となる特例の具体例
中小企業特例とは、中小法人に対して税務上の措置が講じられていることです。具体例として以下の点が挙げられます。
- 法人税の軽減税率
- 交際費の損金不算入制度における定額控除制度
- 貸倒引当金の繰入
- 欠損金の繰戻しによる還付制度
グループ法人税制の対象になると、資本金1億円以下の企業であっても、上記の特例を適用できません。
参考:国税庁「No.5800 一定の大法人等の100%子法人等における中小企業向け特例措置の不適用について」
グループ法人税制のまとめ
グループ法人税制とは、完全支配関係にある企業グループを一つの法人のようにとらえて課税する制度です。グループ法人税制が適用されると、グループ内の対象取引で譲渡損益を繰延べられます。
グループ法人税制の対象を判断する上で大切な観点が、「完全支配関係」です。ある法人が別の法人の発行済株式等の全部を直接・間接的に保有する関係は「完全支配関係」に該当します。
グループ法人税制に該当する場合、資本金1億円以下の企業でも中小企業特例を適用できません。自社グループがグループ法人税制の対象かどうか、確認しておきましょう。