消費税の免税事業者とは?要件やインボイス制度との関連をわかりやすく解説

更新日:2024年02月21日

免税事業者とは

消費税の免税事業者とは、消費税の納税を免除される事業者のことです。主な要件として、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であることが挙げられます。本記事で、消費税の免税事業者がインボイス制度開始後どうすべきか確認しておきましょう。

目次

免税事業者とは何か

一般的に免税事業者とは、消費税の納税が免除される事業者のことです。免税事業者になるためには、要件を満たさなければなりません。ここから、免税事業者の要件や消費税の仕組みについて詳しく解説します。

免税事業者の要件

消費税の免税事業者の要件は、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であることです。ただし、特定期間の課税売上高が1,000 万円を超えている場合は、要件を満たしていても免税事業者に該当しません。

基準期間における課税売上高とは、個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度の課税売上高を指します。特定期間の課税売上高とは、個人事業者の場合は前年の1月1日から6月30日までの期間、法人の場合は原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間のことです。

なお、新設法人の場合、設立1期目および2期目の基準期間がないため、一部のケースを除き原則として消費税の納税が免除されます。

参考)国税庁「No.6501 納税義務の免除」

消費税の仕組み

消費税とは、消費一般に対して広く課される税金を指します。原則としてすべての財貨・サービスの国内における販売や提供などが課税対象です。

直接税と異なり、消費税は間接税に分類されるため、納税義務者と実質負担者が異なります。たとえば、消費者に自社の商品を販売した場合、負担するのは消費者ですが、納税の義務を負うのは販売した事業者です。

事業者は、仕入れにかかる消費税額分を控除した上で差額を納付します。11,000円の商品を販売して1,000円の消費税を消費者から受け取ったとしても、その商品の仕入れにあたって業者に7,700円支払っていれば(うち消費税700円)、納付する金額は差額分の300円です。

参考)消費税とは

消費税の納税義務があるのは課税事業者

消費税の納税が免除される事業者が免税事業者と呼ばれるのに対し、消費税の納税義務がある事業者の名称は課税事業者です。

免税事業者であっても、消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になることがあります。ただし、免税事業者が書類を提出して課税事業者になると、廃業しない限り2年間は免税事業者に戻れません。

免税事業者の消費税請求

免税事業者であっても、取引先や消費者に対して消費税を請求できます。免税事業者であっても、仕入れで消費税を支払っている点が主な理由です。

なお、取引先から受け取る消費税のうち、仕入に関係しない免税部分を益税と呼びます。たとえば、7,700円(消費税700円)で仕入れて消費者に11,000円(消費税1,000円)で販売した場合、免税事業者にとっての益税は300円(1,000円 ー 700円)です

免税事業者になると、益税を得られる点が主なメリットとして挙げられます。

インボイス制度と免税事業者の関係

2023年10月1日よりインボイス制度が開始になることに伴い、免税事業者はそのままでいるべきか一度検討することが大切です。インボイス制度と免税事業者の関係がわかるように、インボイス制度の概要などを解説します。

インボイス制度とは

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、「インボイス」(適格請求書)と呼ばれる一定の記載事項を満たした請求書等を交付し、保存する制度です。制度開始以降、一定の事項を記載した帳簿とインボイスを保存しなければ、消費税の仕入税額控除を適用できなくなります。

なお、インボイスはインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)でなければ発行できません。また、インボイス発行事業者になるためには、課税事業者であることが求められます。

参考)インボイス制度とは

インボイス制度導入で免税事業者が不利になることがある

インボイス制度が導入されると、免税事業者が不利になることがあります。取引先が仕入税額控除を適用するために、適格請求書発行事業者との取引を増やし、免税事業者との取引を減らす可能性がある点が主な理由です。

また、免税事業者を理由に、取引先から控除できない仕入税額控除分の減額を要求されることもあるかもしれません(*)。

*免税事業者であることを理由に消費税相当額を⽀払わない場合、下請法第4条第1項第3号で禁じられた「下請代⾦の減額」に該当する可能性があります。

参考)仕入税額控除とは

免税事業者のままでいる?課税事業者に切り替えるべき?

インボイス制度導入を踏まえ、免税事業者のままでいるべきか、課税事業者に切り替えるべきかは、主要顧客や取引状況などによって異なります。免税事業者のままでいた方がよいケースと、課税事業者に切り替えるべきケースを確認していきましょう。

免税事業者のままでいた方がよいケース

塾や習い事のように、一般消費者のみを相手にする場合、基本的に免税事業者のままでいた方がよいでしょう。仕入税額適用がない一般消費者は、インボイスの発行有無で取引を変えることがないためです。

ただし、適格請求書発行事業者であることが信頼度向上につながるのであれば、状況に応じて課税事業者への切り替えも検討しましょう。

課税事業者に切り替えるべきケース

建設業や製造業など、取引相手が主に事業者の場合、課税事業者に切り替えて適格請求書発行事業者になることを検討した方がよいでしょう。今後、取引先が仕入税額を適用できる相手との取引を優先する可能性があるためです。

なお、会社の接待で使われる機会の多い飲食店など、事業者を相手にすることも消費者を相手にすることもある場合は、売上比率などを総合的に勘案した方がよいでしょう。

各種手続きをわかりやすく解説

ここから、消費税の免税事業者やインボイスに関する手続きを簡単に解説します。

免税事業者になる際の流れ・届出

今まで課税事業者であった事業者が、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下になったとしても、手続きしなければ免税事業者になれません。該当する場合は、「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を所轄の税務署に提出しましょう。

なお、対象になった段階で速やかに提出することが求められています。

参考)国税庁「[手続名]消費税の納税義務者でなくなった旨の届出手続」

課税事業者に切り替える際の流れ・届出

免税事業者が課税事業者に切り替えることを選択する場合は、所轄の税務署へ「消費税課税事業者選択届出書」を提出します。提出期限は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までです。

なお、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えた事業者も、「消費税課税事業者届出書」を速やかに提出しなければなりません。

参考)国税庁「[手続名]消費税課税事業者選択届出手続」
参考)国税庁「[手続名]消費税課税事業者届出手続(基準期間用)」

適格請求書発行事業者になる際の流れ・届出

適格請求書発行事業者になるためには、課税事業者への切り替え以外に「登録申請書」の提出が必要です。郵送やe-Taxで申請書を提出できます。

なお、制度開始日(2023年10月1日)から登録を受けるためには、2023年9月30日までに提出しなければなりません。一方、2024年4月1日以降の登録を希望する場合は、2023年10月1日以降の申請が必要です。

参考)国税庁「[手続名]適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)」

免税事業者やインボイス制度について押さえておくこと

免税事業者やインボイス制度について、とくに押さえておきたいのが以下の点です。

  • 消費税課税事業者になったらすぐに納税義務が発生する
  • 適格請求書発行事業者の登録取消ができることがある
  • 経過措置や2割特例を把握しておく
  • 簡易課税制度の利用も選択肢に入れる

各ポイントを解説します。

消費税課税事業者になったらすぐに納税義務が発生する

適格請求書発行事業者の登録申請書に登録して消費税課税事業者になったら、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から課税期間の末日までの消費税を申告しなければなりません。

本来、免税事業者が適格請求書発行事業者になるためには課税選択届出書の提出が必要ですが、申請書に記載した登録希望日から課税事業者になる経過措置が取られています。経過措置の期間は2029年9月30日までです。

タイミングを十分に考慮して提出するようにしましょう。

適格請求書発行事業者の登録取消ができることがある

適格請求書発行事業者になっても、所轄の税務署に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出すれば登録を取り消せます。効力が失われるのは、原則として、登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日です。

たとえば3月決算の会社が2024年3月5日に書類を提出すると、2025年3月期決算では適格請求書発行事業者でない事業者とみなされます。

経過措置や2割特例を把握しておく

自社の消費税納付などに影響する可能性があるため、経過措置や2割特例の制度について理解しておきましょう。

たとえば、インボイス制度開始後一定期間は適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れでも、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置があります。2023年10月1日から2026年9月30日までは仕入税額相当額の80%、2026年10月1日から2029年9月30日までは仕入税額相当額の50%が対象です。

また、小規模事業者が適格請求書発行事業者になった場合、2割特例を適用して売上税額の2割を納税額にできます。2023年10月1日から2026年9月30日を含む課税期間が対象です。

参考)2割特例とは

簡易課税制度の利用も選択肢に入れる

自社の売上・仕入状況に応じて、簡易課税制度の利用も選択肢に入れましょう。簡易課税制度とは、受け取った消費税額から支払った消費税額を差し引く作業をせずに、「受け取った消費税額ー(受け取った消費税額 × みなし仕入率)」で消費税納税額を計算できる制度です。

簡易課税制度を利用している場合も、登録すれば「適格請求書発行事業者」になれます。簡易課税制度も検討した方がよいケースのひとつが、課税売上に占める課税仕入の割合があらかじめ定められた「みなし仕入率」よりも低い場合です。

参考)簡易課税制度とは

免税事業者まとめ

(消費税)免税事業者とは、消費税の納税が免除される事業者のことです。今まで免税事業者にメリットがあった事業者も、インボイス制度開始後は適格請求書発行事業者(インボイス事業者)になった方がよい可能性があります。

取引先が占める事業者の割合や、取引への影響を踏まえて課税事業者に切り替えて適格請求書発行事業者になるべきか判断しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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