インボイス制度とは?事業者が対応すべきことをわかりやすく解説

更新日:2024年02月21日

インボイス制度

2023年10月1日から開始するインボイス制度とは、消費税の仕入税額控除に関する制度を指します。買い手も売り手も、制度開始にあたって準備が必要です。

本記事では、インボイス制度とは何か説明した上で、インボイス発行事業者になるべきか判断する材料も提供します。

目次

インボイス制度とは

インボイス制度とは、仕入税額控除を受けるための請求書に関する要件を新たに定めた制度です。ここから、インボイス制度の概要や、インボイス(適格請求書)がそもそも何を意味するかなどについて、説明します。

インボイス制度の概要

インボイス制度では、仕入税額控除に関して買い手と売り手に新たな義務を課しています。

買い手は、取引金額に仕入税額控除を適用するために、原則として売り手から交付されたインボイス(適格請求書)の保存が必要です。一方、売り手はインボイスを交付するにあたって、あらかじめインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録を受けなければなりません。

なお、今まで免税事業者であっても、インボイス発行事業者の登録を受けると、以降は消費税の申告が必要です。

インボイス(適格請求書)とは

インボイスとは、売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝えるものです。インボイスと同様の意味で、適格請求書が使われることもあります。

インボイス制度開始にあたって、新たに作成する書類が増えるわけではありません。従来作成していた区分記載請求書に、以下の項目を追加した書類やデータをインボイス(適格請求書)と呼びます。

  • 登録番号
  • 適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額

登録番号とは、インボイス発行事業者が必要書類を提出し、税務署長の登録を受けた際に通知される番号のことです。登録番号は、「T」(ローマ字) と数字13桁で構成されます。

なお、区分記載請求書とは発行者の氏名または名称や取引年月日・内容に加えて、税率ごとに区分して合計した税込対価の額や請求書受領者の氏名または名称の記載が、仕入税額控除の適用に求められるものです。2019年10月1日から2023年9月30日まで、区分記載請求書方式が適用されます。

2023年10月から開始

インボイス制度は、区分記載請求書方式に代わって2023年10月1日から開始します。インボイス発行事業者としての登録申請をしてから、登録通知を受け取るまでに一定の期間がかかるため、開始後すぐに取引先へインボイスを発行する予定がある場合は早めに手続きした方がよいでしょう。

登録通知までにかかる期間の目安はe-Taxによる提出の場合に約1か月半、書面の提出の場合に約3か月です。そのため、制度開始から2か月以上前の7月に提出しても、通知を受け取るのが開始後になる可能性があります。

参考)国税庁「インボイス制度の概要」
参考:国税庁「登録番号とは」

インボイス制度導入の背景

インボイス制度が導入された背景として、軽減税率の導入と益税における課題が挙げられます。

軽減税率とは、2019年10月1日の消費税引き上げに伴い導入された制度です。基本的には商品に対して10%の消費税が適用されるのに対し、「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」には軽減税率8%が適用されることになりました。

対象によって消費税率が異なるため、消費税申告者は取引ごとに税率を区分して記帳しなければなりません。インボイス制度導入後は、インボイスに適用税率や消費税額などを記載することで、買い手と売り手で税率と税額に対する認識を一致させます。

また、益税とは、事業者が消費者や顧客から預かった税を納入せず、自身の利益とする金額のことです。免税事業者は、預かった消費税を納める必要がないため、課税事業者との不公平が課題でした。インボイス制度導入に伴い、インボイス発行事業者が増えれば課税事業者も増えるため、益税の課題解消が見込まれます。

なお、2023年5月末現在において、インボイス発行事業者の登録件数は3,159,203件でした。また、すでに約344万件の申請書類が提出されているため、今後さらに登録件数が増えるでしょう。

参考)軽減税率とは
参考:国税庁「適格請求書発行事業者の登録件数及び登録通知時期の目安について」

インボイス制度で変わることは主に2つ

インボイス制度で変わることは、主に以下の2つです。

  • 仕入税額控除の対象が変わる
  • 請求書の書式が変わる

それぞれの特徴を解説します。

仕入税額控除の対象が変わる

買い手は、仕入にあたって売り手からインボイスが発行されたかによって、納付する消費税額が変わるでしょう。そもそも仕入税額控除とは何かを説明してから、インボイス制度導入以降に納税する具体的な消費税額を解説します。

仕入税額控除とは

仕入税額控除とは、消費税の納付税額を計算するにあたって、課税期間中の課税売上げにかかる消費税額から、その課税期間中の課税仕入れなどにかかる消費税額を控除することです。

ひとつの商品が消費者に届くまでに製造業者・卸売業者、卸売業者・小売業者、小売業者・消費者などの間でいくつも取引が発生しており、消費税が都度発生しています。仕入税額控除は、消費税の累積を解消するための制度です。

たとえば、以下のように2,000円のスマートフォンカバーを消費者に販売するケースで、仕入税額控除を考えてみましょう(すべて課税事業者と仮定)。

製造業者A 卸売業者B 小売業者C
売上 1,500円 1,700円 2,000円
販売時に受け取る消費税 150円 170円 200円
納付する消費税 150円 20円 30円

原材料を自前で調達して仕入がないと仮定すると、AはBに1,500円で販売した際に受け取った消費税全額(150円)を納付します。また、BはCに対する売上1,700円で受け取った消費税170円から、すでに支払った消費税150円を仕入税額控除できるため、納付する金額は20円(170円 - 150円)です。

さらに、Cは消費者に2,000円で販売して受け取った消費税200円から、すでにBに支払った消費税170円を引き、30円を納付します。

A・B・Cが納付する消費税を合計すると、200円(150円 + 20円 + 30円)です。この金額は、最終的に消費者が支払う消費税額200円(商品価格2,000円 × 消費税10%)と一致します。

なお、課税仕入れに該当するのは、卸売資産の購入や原材料の購入といった「仕入」に限りません。以下も課税仕入取引の対象です。

  • 機械や建物などのほか、車両や器具備品などの事業用資産の購入または賃借
  • 広告宣伝費、厚生費、接待交際費、通信費、水道光熱費などの支払
  • 事務用品、消耗品、新聞図書などの購入
  • 修繕費
  • 外注費

ただし、非課税となる取引や給与などの支払いは該当しません。

参考)仕入税額控除とは
参考:財務省「Q&A ~身近な税について調べる~

インボイス制度導入以降に納税する消費税額

インボイス制度導入以降、納付する消費税額が変わる可能性があります。取引相手がインボイス発行事業者でなければ、仕入税額控除ができません。

先ほどのケースで、卸売業者Bがインボイス発行事業者でなければ、Cは仕入税額控除の対象外です。そのため、今まで30円の納付で済んだにもかかわらず、制度導入以降は消費者から受け取った消費税全額(200円)を支払わなければならなくなるでしょう。

なお、開始後一定期間は経過措置として納付税額を軽減できる場合があります。

請求書の書式が変わる

2023年10月1日のインボイス制度導入に伴い、消費税の仕入税額控除の方式が「区分記載請求書等保存方式」から「適格請求書等保存方式」に変更されます。区分請求書等保存方式は、あくまでインボイス制度導入までの経過措置でした。

「区分記載請求書等保存方式」と「適格請求書等保存方式」の主な違いは、以下のとおりです。

区分記載請求書等保存方式 適格請求書等保存方式
記載事項 ・請求書発行者氏名または名称 ・取引年月日 ・取引の内容 ・税率ごとに区分して合計した対価の額(税込) ・軽減税率の対象品目である旨 ・請求者受領者の氏名または名称 ・区分記載請求書等保存方式に記載する項目 ・登録番号 ・適用税率 ・税率ごとに区分した消費税額
免税事業者の発行可否 発行可能 発行不可
交付義務 なし 買い手の求めに応じて交付義務や写しの保存義務が発生

インボイスに登録すべきか?

インボイス発行事業者として登録すべきかどうかは、各会社や個人事業主によって異なります。メリットとデメリットを比較した上で、登録すべきか判断するとよいでしょう。

メリットとデメリットを解説します。

登録するメリット

インボイス発行事業者として登録するメリットは、以下のとおりです。

  • 電子インボイスに対応できる
  • 制度導入後の取引に有利となりやすい

各メリットを解説します。

電子インボイスに対応できる

インボイス発行事業者として登録することで、電子インボイスに対応しやすくなる点がメリットです。電子インボイスとは、インボイス(適格請求書)を電子化したデータを指します。

電子インボイスに対応することで、(適格)請求書のデータ改ざんを防いだり、会計ソフトで経理処理を自動化して効率化を図ったりできるでしょう。また、物理的な保管スペースが不要のため、紛失リスクを軽減できます。

制度導入後の取引に有利となりやすい

インボイス発行事業者としてインボイスを発行できれば、制度開始後の取引に有利となりやすい点もメリットです。仕入税額控除を適用できるため、買い手はインボイス発行事業者との取引を優先する可能性が高まります。

既存取引先との取引をインボイス制度開始後も変わらず続けられる上に、インボイス発行事業者であることをアピールすれば、今まで取引がなかった新規取引先と契約に至ることもあるでしょう。

登録するデメリット

免税事業者が課税事業者になってインボイス発行事業者に登録するデメリットは、以下のとおりです。

  • 消費税を納税する必要が出てくる
  • 経理業務が煩雑になる

インボイス発行事業者に登録するデメリットをそれぞれ解説します。

消費税を納税する必要が出てくる

インボイス発行事業者として登録すると、消費税を納税する必要が出てくる点がデメリットです。免税事業者としての要件を満たしていたとしても、登録を受けると毎年消費税を申告しなければなりません。

なお、免税事業者とは、対象期間における課税売上高が1,000万円以下で、課税資産の譲渡などについて納税義務が免除される事業者のことです(一部除く)。

参考)国税庁「No.6501 納税義務の免除」

経理業務が煩雑になる

インボイス発行事業者として登録すると、経理業務が煩雑になる点がデメリットです。取引先から依頼があった場合に、従来の請求書の記載事項に登録番号や適用税率などを加えなければなりません。

また、課税事業者になるため、買い手の立場の際は仕入税額控除の適用を受けるために相手先にインボイスの発行を依頼しなければなりません。

経理担当者の負担が増えるため、事前の対策や勉強会の実施などが必要です。

インボイス制度で対応すべきこと

インボイス制度開始に伴い、対応すべき点は売り手と買い手で異なります。それぞれ確認していきましょう。

売り手

売り手が対応すべきことは、以下のとおりです。

  • 免税事業者の場合は課税事業者になるか判断
  • 適格請求書発行事業者の登録
  • 請求書の変更
  • 適格請求書の発行と控えの保存

それぞれ解説します。

免税事業者の場合は課税事業者になるか判断

免税事業者に該当している場合は、今後課税事業者になるのか、免税事業者のままでいるのかを決断しなければなりません。

今まで免税事業者で、今後もそのままでいることを選ぶ場合は特段手続きは必要ありません。インボイス発行事業者になることを選ぶ場合は、登録の手続きが必要です。

メリットとデメリットを比較した上で、慎重に選びましょう。

参考)免税事業者とは

適格請求書発行事業者の登録

インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録を進める際の流れは、以下のとおりです。

  1. 納税地を所轄する税務署長に登録申請(e-Taxまたは郵送)
  2. 税務署による審査を経て適格請求書発行事業者として登録
  3. 登録番号や公表情報等が記載された「登録通知書」を受け取る

インボイス開始日(2023年10月1日)から登録するには、2023年9月30日までに申請しなければなりません。

参考)国税庁「申請手続」

請求書の変更

インボイス発行事業者になる場合、従来の請求書をインボイスに対応したものに変更しなければなりません。今まで使用してきた請求書に、「税率ごとの消費税額・適用税率」や「登録番号」を加えます。

なお、ひとつのインボイスに対し、税率の異なるごとに合計して算出した額に税率を乗じて、消費税額を計算する点に注意が必要です。そのため、品名が複数行にわたる場合に各行で端数処理はできません。今まで各行ごとに消費税額の端数処理して計算していた場合は、処理方法を変更しましょう。

適格請求書の発行と控えの保存

買い手から依頼されたら、インボイス(適格請求書)を発行して写しや電磁的記録を保存することが義務として定められています。

紙で保存する場合、スペースや保存する手間などがかかるでしょう。電磁的記録で保存する場合は物理的スペースをとらず電子データのまま保存できます。ただし、さまざまな要件が定められている点に注意しましょう。

買い手

買い手も、以下の点に対応しなければなりません。

  • 取引先が課税事業者か免税事業者か確認
  • 適格請求書の保存

それぞれ解説します。

取引先が課税事業者か免税事業者か確認

インボイス制度開始後、仕入税額控除に影響するため、自身(自社)が課税事業者である場合は取引先が課税事業者か、免税事業者か確認するようにしましょう。

取引先が免税事業者の場合、仕入税額控除ができなくなり、納める消費税額が従来より増えることが予想されます。状況によって、取引条件の変更や簡易課税制度の利用などの対策が必要です。

ただし、取引条件の見直しは、独占禁止法などの法律で問題とされる可能性があります。

参考)公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」

適格請求書の保存

インボイス発行事業者の取引先からインボイス(適格請求書)を受け取ったら、保存しなければなりません。適格請求書は、取引の都度発行してもらいます。

なお、買い手の適格請求書の写しも、売り手が仕入税額控除として適用するための適格請求書も、保存期間は交付日・提供日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間です。

インボイス制度の支援措置

インボイス制度開始後に、以下の支援措置があります。

  • 仕入税額控除の経過措置
  • 納税額の軽減(2割特例)
  • 一万円未満の特例措置(少額特例)
  • 補助金の加算
  • 会計ソフトへの補助金

インボイス制度導入による影響を軽減できるように、各制度を確認しておきましょう。

仕入税額控除の経過措置

仕入税額控除の経過措置とは、インボイス制度開始後一定期間に限り、免税事業者からの仕入れでも一定割合を仕入税額とみなして控除できる制度です。

2023年10月1日から2026年9月30日までは仕入税額相当額の80%、2026年10月1日から2029年9月30日までは仕入税額相当額の50%を控除できます。ただし、経過措置を適用するためには、所定の要件を満たした帳簿・請求書などの保存が必要です。

参考)政府広報オンライン「令和5年10月からインボイス制度が開始!事業者が進めておきたい準備とは?」

納税額の軽減(2割特例)

2割特例を適用すれば、納税額を軽減できます。

2割特例とは、インボイス制度をきっかけに免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった際、仕入税額控除の金額を、特別控除税額にできる制度です。もともと課税事業者であった場合は、本特例の対象となりません。

参考)2割特例とは

一万円未満の特例措置(少額特例)

少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)とは、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除できる制度です。取引相手がインボイス発行事業者であるか、免税事業者であるかは問いません。

参考)少額特例とは

補助金の加算

持続化補助金を利用する場合、免税事業者がインボイス発行事業者に登録すれば補助上限額が一律で50万円加算されます。(小規模事業者)持続化補助金とは、主に小規模事業者が経営計画を自ら策定し、商工会・商工会議所の支援を受けながら取り組む販路開拓を支援する補助金です。

補助率は3分の2以内で、補助額は本来50~200万円ですが、インボイス発行事業者に登録することで100〜250万円になります。

会計ソフトへの補助金

インボイス制度導入に先駆け、IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)の補助下限額が撤廃されました。そのため、インボイス制度に対応するため、自社の会計ソフトを変更しなければならない場合に、補助金を利用できる可能性があります。

なお、補助金を利用する場合には申請期限が設けられているため、事前に確認しておきましょう。

参考)財務省「令和5年度改正におけるインボイス制度の改正について」

インボイス制度まとめ

インボイス制度とは、買い手が取引金額に仕入税額控除を適用する際、売り手から交付されたインボイス(適格請求書)の保存が必要になる制度です。また、売り手はインボイスを交付するにあたって、あらかじめインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)として登録しなければなりません。

今後、買い手が仕入税額控除を適用するためには、取引先がインボイス発行事業者であることの確認が必要です。また、売り手はメリットやデメリットを比較した上で、インボイス発行事業者になるべきか決断しなければなりません。

概要を十分に理解し、2023年10月1日からのインボイス制度開始に備えましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

無料の会計ソフト「フリーウェイ」

このエントリーをはてなブックマークに追加