2割特例とは?インボイス制度でおさえておきたい負担軽減措置
更新日:2024年02月21日
2割特例とは、インボイス制度開始後に消費税の負担軽減になりうる特例措置です。免税事業者からインボイス発行事業者になる場合に、特例を適用できます。
2023年10月1日のインボイス制度開始後、消費税負担が重くなり経営を圧迫することのないように、2割特例を理解しておきましょう。
目次
インボイス制度の2割特例とは?
インボイス制度の2割特例とは、2023年10月1日よりはじまるインボイス制度に関する特例のひとつです。インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除に関する新たな制度を指します。
ここから、2割特例の概要や、計算例を確認していきましょう。
参考)仕入税額控除とは
2割特例の概要
2割特例は、インボイス制度開始後に、仕入税額控除の金額を特別控除税額にできる制度です。2割特例を「インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置」と呼ぶこともあります。
特別控除税額とは、具体的に「課税標準である金額の合計額に対する消費税額から、売上げにかかる対価の返還などの金額にかかる、消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額」です。つまり、特例を適用すれば課税売上の8割相当を仕入税額控除とし、納付額を本来の売上げにかかる消費税の「2割」にできます。
2割特例を適用できる事業者には要件がある点に注意が必要です。また、適用できる期間にも定めがあります。
なお、仕入税額控除とは、取引時に取引先から預かった消費税から、すでに支払った消費税分を差し引くことです。
参考)国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
2割特例の計算例
実際に、2割特例を適用して計算してみましょう。今回は、対象取引の売上が10万円で仕入が5万円かかっている小売業者のケースを考えます。
消費税10%で計算すると、売上10万円に対して消費者から預かる消費税額は1万円(10万円 × 10%)です。また、2割特例を適用する場合、実際の仕入額を考慮せずに8割を仕入税額控除できます。
そのため、2割特例を適用する場合に納付する消費税額は、以下のとおり2千円です。
納付する消費税額 = 預かり消費税 - 預かり消費税 × 80% = 1万円 - 1万円 × 80% = 2千円
預り消費税に2割を乗じても、同じように2千円と計算できます。
納付する消費税額 = 預かり消費税 × 20% = 1万円 × 20% = 2千円
一方、今回のケースで通常と同じように仕入税額控除を適用すると、納付する税額は5千円です。
納付する消費税額 = 預かり消費税 - 支払消費税 = 1万円 - (5万円 × 10%) = 5千円
つまり、今回のケースで2割特例を適用すると、通常の仕入税額控除を適用する場合と比べて消費税の納付額が少なくなります。
2割特例の適用対象となる事業者・ならない事業者
2割特例は、適用対象となる事業者とならない事業者がいることに注意が必要です。それぞれ確認していきましょう。
対象となる事業者
インボイス制度をきっかけに、免税事業者からインボイス発⾏事業者(適格請求書発行事業者)として課税事業者になった事業者が対象です。具体例として、以下のケースが挙げられます。
- 免税事業者がインボイス発⾏事業者の登録を受けて、登録⽇から課税事業者となるケース
- 免税事業者が課税事業者選択届出書を提出した上で、登録を受けてインボイス発⾏事業者となるケース
(消費税)課税事業者選択届出書とは、免税事業者が課税事業者になることを選択する際、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、納税地を所轄する税務署長へ提出する書類です。本来、免税事業者がインボイス発行事業者になるためには、消費税課税事業者選択届出書と適格請求書発行事業者登録申請書を提出しなければなりません。
しかし、2023年10月1日から2029年3月31日までに適格請求書発行事業者登録申請書を提出する場合は、消費税課税事業者選択届出書の提出が不要です。
参考)免税事業者とは
対象とならない事業者
インボイス発⾏事業者の登録を受けていない事業者は、2割特例の対象外です。また、以下に該当する場合も、2割特例は適用できません。
- 基準期間(個⼈は前々年、法⼈は前々事業年度)における課税売上⾼が1千万円を超える
- 資本⾦1千万円以上の新設法⼈である
- 調整対象固定資産や⾼額特定資産を取得し、仕⼊税額控除した
- 課税期間を1か⽉または3か⽉に短縮する特例の適⽤を受ける
- インボイス発⾏事業者の登録と関係なく事業者免税点制度の適⽤を受けないことになる
事業者免税点制度とは、基準期間における課税売上高が1千万円以下であることで、事業者の納税義務が免除される制度のことです。
また、2023年10月1日の属する課税期間以前から消費税課税事業者選択届出書を提出して、課税事業者になっている場合も対象外です。ただし、対象の課税期間中に課税事業者選択不適⽤届出書を提出して課税事業者選択届出書の効⼒を失効させることで、2割特例を適用できる可能性はあります。
2割特例の適用期間
2割特例を適用できるのは、インボイス制度が開始する2023年10月1日から2026年9月30日までの属する日の課税期間です。ただし、適用範囲は個人事業主と法人で少し異なります。
2割特例の適用期間・適用範囲について、詳しく確認していきましょう。
個人事業主の適用期間
個人事業主の会計期間は、1月1日から12月31日です。所得税の確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税や消費税などの額を計算して確定させます。
そのため、免税事業主である個人事業主が2023年10月1日からインボイス発行事業者の登録を受ける場合は、2割特例を以下のように合計4回適用可能です。
個人の場合 | 適用可能な期間 | 回数 |
2023年 | 2023年10月1日から12月31日 | 1回目 |
2024年 | 2024年1月1日から12月31日 | 2回目 |
2025年 | 2025年1月1日から12月31日 | 3回目 |
2026年 | 2026年1月1日から12月31日 | 4回目 |
ただし、適用期間であっても、2割特例の対象外の事業者に該当する期間は適用できません。
法人の適用期間
法人の事業年度(会計期間)は、企業によってさまざまです。決算期をいつにしているかによって、2割特例の適用期間も異なります。
たとえば3月決算の法人の場合、2023年10月1日からインボイス発行事業者の登録を受けていれば、2割特例を以下のように合計4回(3年6か月)適用可能です。
3月決算法人の場合 | 適用可能な期間 | 回数 |
2023年 (2023年4月1日〜 2024年3月31日) |
2023年10月1日から2024年3月31日 | 1回目 |
2024年 (2024年4月1日〜 2025年3月31日) |
2024年4月1日から2024年3月31日 | 2回目 |
2025年 (2025年4月1日〜 2026年3月31日) |
2025年4月1日から2026年3月31日 | 3回目 |
2026年 (2026年4月1日〜 2027年3月31日) |
2026年4月1日から2027年3月31日 | 4回目 |
それに対して9月決算の法人は、以下のように3回(3年)しか2割特例を適用できません。
9月決算法人の場合 | 適用可能な期間 | 回数 |
2023年 (2023年10月1日〜 2024年9月30日) |
2023年10月1日から2024年9月30日 | 1回目 |
2024年 (2024年10月1日〜 2025年9月30日) |
2024年10月1日から2025年9月30日 | 2回目 |
2025年 (2025年10月1日〜 2026年9月30日) |
2025年10月1日から2026年9月30日 | 3回目 |
2026年 (2026年10月1日〜 2027年9月30日) |
ー | ー |
9月決算だと3年しか適用できないのは、2割特例の対象期間が「2026年9月30日までの属する日まで」であるためです。
2割特例を利用しない方がよいこともある
インボイス制度で2割特例を利用しない方がよいこともあります。具体的には、以下のケースです。
- 本則課税で消費税の還付を受けられるとき
- 簡易課税で「みなし仕入率」が80%を超えるとき
2割特例を利用しない方がいいケースについて、詳しく解説します。
本則課税で消費税の還付を受けられるとき
本則課税で消費税の還付を受けられる場合、2割特例を利用しない方がよいでしょう。本則課税とは、実際に行われた仕入取引を元に税額計算する一般課税のことです。
本則課税を適用する場合、仕入が売上を上回り控除しきれない仕入税額部分がある場合に、消費税を還付できることがあります。それに対し、2割特例は一律で売上税額の8割を引く方法のため、該当する場合でも消費税還付を受けられません。
簡易課税で「みなし仕入率」が80%を超えるとき
簡易課税を適用した際に、「みなし仕入率」が80%を超える場合も2割特例を利用しない方がよいでしょう。簡易課税とは、事業者の選択により、売上げにかかる消費税額に「みなし仕入率」を乗じた金額を預り消費税から引いて消費税額を算出できる制度です。
簡易課税を適用する際の、「みなし仕入率」は、業種によって異なります。第1種事業(卸売業)の場合、みなし仕入率は90%です。
卸売業を営む会社(売上700万円、預かり消費税70万円)で、2割特例と簡易課税制度を適用した場合を比較してみましょう。
2割特例を利用する場合、納める消費税額は14万円(70万円 - 70万円 × 80%)です。それに対して、簡易課税制度を適用すれば、納める消費税額は7万円(70万円 - 70万円 × みなし仕入率90%)となります。
つまり、今回のケースでは、簡易課税を適用した方が納める消費税額が7万円も少なくすみます。
参考)簡易課税制度とは
2割特例の申請方法
2割特例を適用するにあたって、あらかじめ手続きする必要はありません。消費税の確定申告をする際に、「2割特例の適用を受ける」旨を記載すれば、基本的に特例を適用できます。
なお、簡易課税を適用した方が有利になる可能性がある場合は、あらかじめ簡易課税の手続きが必要です。適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、消費税簡易課税制度選択届を納税地を所轄する税務署長に提出しましょう。
2割特例まとめ
2割特例とは、インボイス制度開始後に仕入税額控除の金額を特別控除税額に軽減できる制度を指します。インボイス制度をきっかけに、免税事業者からインボイス発⾏事業者として課税事業者になった事業者が対象です。
ただし、簡易課税で「みなし仕入率」が80%を超えるときなど、2割特例を利用しない方がよいケースもあります。特例を十分に理解し、2023年10月1日からのインボイス制度開始に備えましょう。