配当所得とは?計算方法や課税方式をわかりやすく解説
更新日:2024年02月21日
配当所得とは、上場株式への投資から得られる配当金や投資信託への投資で受け取れる分配金などの所得のことです。配当所得を得たときには、所得税および住民税を納める必要があります。配当所得の基本事項や課税方式などをあらかじめ確認し、投資方針に合った納税を目指しましょう。
目次
配当所得とは
配当所得とは、株主や出資者が法人から受ける利益の配当や剰余金の分配金などにかかわる所得をいいます。配当所得を得たときには、所得税および住民税を納めなければなりません。
税金を速やかに納めるには、税額算出のもととなる配当所得について知っておくことが重要です。ここではまず、配当所得の基本事項を確認しましょう。
配当所得に当てはまるもの
配当所得には、株式の配当金や投資信託の分配金のほかいくつかの種類があります。配当所得に該当する主な所得を以下で確認しましょう。
【配当所得に当てはまる主な所得】
- 株主や出資者が法人から受ける剰余金や利益の配当
- 剰余金の分配
- 基金利息
- 投資法人からの金銭の分配
- 投資信託(※)の収益の分配
※公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託を除く
上記のほか、特定受益証券発行信託の収益分配なども配当所得に含まれます。分類が難しい所得がある場合には、税務署や税理士など専門家に確認すると安心です。
配当所得に当てはまらないもの
以下の所得は配当所得には該当しません。
【配当所得に当てはまらない主な所得】
- 協同組合の剰余金の分配
- 株主優待
株式投資をしていると、株主優待として配当金以外のモノやサービスが企業から株主に贈呈されることがあります。株主優待乗車券や株主優待入場券、株主優待施設利用券などは雑所得に分類されるため、配当所得には含まれないことを押さえておきましょう。
参考:No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁
配当所得における3つの課税方式
配当所得を得たら、所得税および住民税の納税が必要です。課税方式は原則として、「総合課税」「申告分離課税」「申告不要制度」の3つから投資家が選べます。
どの方式を選ぶかによって納税の手間や納税方法、納税額が変わります。そのため資産状況や収入額、投資方針などによって投資家に合った納税方式を選ぶことが肝心です。ここでは、3つの課税方式の概要を確認しましょう。
1.総合課税方式
総合課税方式とは、配当所得と他の所得とを合算し、税額を計算する方法をいいます。総合課税の対象となる所得は、以下の8つです。
【総合課税の対象となる所得】
総合課税方式のポイントは、確定申告をすることで配当控除を受けられる点です。配当控除額は課税総所得により決まっており、国内株式の配当の場合は配当所得の5%または10%が税額控除されます。また、住民税は課税所得額によって1.4%または2.8%の税額控除があります。
2.申告分離課税方式
申告分離課税方式とは、他の所得金額と合計せず分離して税額を計算し、確定申告により納税する方法をいいます。税率は20%(2037年までは復興特別所得税が課されるため20.315%)です。
申告分離課税方式のポイントとしては、上場株式等の譲渡損失と配当所得で損益通算ができる点が挙げられます。損益通算とは、一定期間内の利益と損失を相殺できる制度です。それにより所得額が減り、課税額の圧縮が期待できます。
一例として、5万円の譲渡損失が発生した年に10万円の配当金を受け取ったケースをみてみましょう。この場合、損益通算をしないと税額は2万円(10万円×20%)です。一方、損益通算をすると所得額が5万円(10万円-5万円)となり、税額は1万円(5万円×20%)に減ります。譲渡損失が発生しているなら、申告分離課税方式も検討してみるとよいでしょう。なお、申告分離課税方式を選択した場合、配当控除は受けられません。
3.申告不要制度
申告不要制度とは、源泉徴収により自動的に納税されるため確定申告が不要な制度です。源泉徴収では、利子や配当、給与、報酬などの所得を支払う人が所得税額を計算し、その額を支払金額からあらかじめ差し引きます。そのため、利子や配当等を受け取る人が確定申告をする必要はありません。
申告不要制度のポイントは、納税の手間を軽減できる点です。できるだけ投資の手間を抑えた資産運用を目指すなら、申告不要制度が選択肢となるでしょう。
参考:No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁
参考:No.2220 総合課税制度|国税庁
参考:No.2240 申告分離課税制度|国税庁
参考:株式・配当・利子と税|国税庁
配当所得の課税方式と所得税、住民税の関係性
配当所得における所得税および住民税の税率は、課税方式や所得によって変わります。そのため選ぶ課税方式によっては、税額が高くなってしまうケースも少なくありません。税金を少しでも抑えたいと考えるなら、所得税と住民税の基本事項を確認し、所得や運用状況に合った課税方式を選ぶことが重要です。
ここでは、課税方式ごとの所得税および住民税の税率を詳しくみていきましょう。
所得税と住民税の仕組み
まずは課税方式別の所得税および住民税の税率を確認します。
総合課税 | 申告分離課税または申告不要制度 | |
所得税 | 5~45% | 15% |
住民税 | 10% | 5% |
合計 | 15~55% | 20% |
申告分離課税または申告不要制度を選択した場合、所得税と住民税の合計税率は一律20%です。総合課税では住民税は一律10%ですが、所得税率は課税所得金額によって5~45%と差があります。より税額を抑えるには、総合課税を選択した場合に所得税率がどのくらいになるかをあらかじめ確認することが重要です。
所得税
所得税率がどのくらいになるかを知るには、所得税の仕組みと概要を知っておく必要があります。所得税の総合課税で採用されている課税方式は、超過累進税率です。そのため、課税所得が多いほど税率が上がり税負担が増えます。課税所得金額と税率を以下で確認しましょう。
課税所得金額 | 総合課税 | 配当控除 | 申告分離課税または申告不要制度 |
195万円以下 | 5% | 10% | 15% |
195万円超330万円以下 | 10% | ||
330万円超695万円以下 | 20% | ||
695万円超900万円以下 | 23% | ||
900万円超1,000万円以下 | 33% | ||
1,000万円超1,800万円以下 | 5% | ||
1,000万円超1,800万円以下 | 40% | ||
4,000万円超 | 45% |
所得税率に注目すると、課税所得金額が330万円以下なら総合課税、330万円超なら申告分離課税または申告不要制度を選択すると、配当所得にかかる税金を低く抑えられるように見えます。ここでポイントなのは、上場株式等の配当金を総合課税で納税した場合、配当控除を受けられる点です。
配当控除では、課税所得金額が1,000万円以下の場合には10%の税額控除が受けられます。税額控除も考慮すると、課税所得金額が900万円以下までは総合課税を選んだ方が税額を抑えられると考えられます。
住民税
住民税は、課税所得金額による税率の変動はありません。課税方式ごとの住民税の税率は以下のとおりです。
課税所得金額 | 総合課税 | 配当控除 | 申告分離課税または申告不要制度 |
1,000万円以下 | 10% | 2.8% | 5% |
1,000万円超 | 1.4% |
住民税では、申告分離課税または申告不要制度の方が総合課税よりも税率が低いです。配当控除を考慮しても総合課税の税率は7.2%(10%-2.8%)にしかならないため、住民税の負担を軽減したいなら申告分離課税もしくは申告不要制度が選択肢となります。
所得税と住民税の課税方式は一致させる
課税方式を決定する際に気を付けたいのは、所得税と住民税の課税方式を一致させなければならない点です。
2022年までは所得税と住民税でそれぞれ有利な課税方式を選択することが可能でした。しかし2021年に「令和4年度税制改正の大綱」が発表されたことで、2023年分からは同一の課税方式で申告を行うと定められたのです。
税金を納めすぎないためには、自身の所得をもとに納税額シミュレーションをあらかじめ行ったうえで、課税方式を決定することが重要です。税額の計算に不安があるときには、税務署や税理士などの専門家に相談してみましょう。
参考:所得税のしくみ|国税庁
参考:上場株式等の配当課税│株式の税制│SMBC日興証券
配当所得の計算方法
税額のシミュレーションをするには、配当所得の計算方法を知っておくことが重要です。配当所得は、以下の式で計算します。
配当所得=収入金額(源泉徴収税額を差し引く前の金額)- 株式などを取得するための借入金の利子
ここでは配当所得の計算に必要な収入金額および、借入金の利子について詳しくみていきましょう。
収入金額とは
配当所得における収入金額とは、1月1日から12月31日までの1年間で受け取った収入をいいます。収入を受け取ったとされる時期は、配当の種類によって異なります。一例を以下で確認しましょう。
配当の種類 | 収入時期 |
通常配当 | 利益剰余金等の分配について、株主総会や正当な権限を有する機関において決議があった日 |
中間配当 | 取締役会において決議があった日(※1) |
投資信託等の収益分配金 | 信託期間中のものは収益計算満了の日(※2) |
※1:中間配当の請求権に関する効力の発生日を取締役会の決議で決定した場合には、その効力発生日となる
※2:信託の終了や一部解約となった場合、その終了日もしくは解散の日となる
収入金額を計算する際には、源泉徴収される前の税込金額を用います。税抜き金額を用いてしまうと、配当所得や税金額に差が生じてしまうため注意が必要です。
借入金の利子とは
借入金の利子とは、金融機関から借入をして株式等を取得した場合に、借入金にかかる利子のことをいいます。配当所得の計算では、この借入金の利子を配当所得から差し引くことができるのです。これにより所得額が減り、税額の減少につながります。投資にかかる借入がある場合には、しっかりと計上したいところです。
なお、借入金の利子として認められるのは、株式など配当所得を生ずべき元本のその年における保有期間に対応する部分に限られます。また、すでに譲渡した株式に係るものや申告不要制度を選択した配当に係るものは、収入金額からは差し引けません。
参考:【確定申告書等作成コーナー】-配当金を受け取ったとき(配当所得)
参考:No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁
配当所得の控除や特例
配当所得には、いくつかの控除や特例があります。控除や特例を活用することで税額の圧縮や投資の手間の軽減が図れるため、より効率が良い資産運用を目指すことが可能です。
ここでは、「配当控除」および「上場株式等の配当所得の特例」「NISAの非課税特例」の3つを紹介します。それぞれの概要を確認し、資産運用に上手に取り入れましょう。
配当控除
配当控除は、国内法人の配当所得について総合課税を選択した場合に、一定の金額を所得税および住民税から控除できる制度です。所得税では、課税所得金額によって配当所得額の5%または10%が控除されます。住民税の控除額は、課税所得金額によって配当所得額の1.4%または2.8%です。
なお、控除には所得額から控除を差し引く所得控除と、税額から控除額を差し引く税額控除の2種類があります。配当所得は税額控除のため、税額から直接引いて計算します。
上場株式等の配当所得の特例
上場株式等の配当所得の特例とは、上場株式等の配当等(一定の大口株主等が受ける上場株式等の配当等を除く)を受け取った場合、20%の源泉徴収を受けたうえで総合課税もしくは申告分離課税から選べる制度です。
この特例により手間をできるだけ抑えたい人は、原則として確定申告をしなくても配当所得の納税を完了できます。また、配当控除を受けたい人は総合課税、損益通算をしたい人は申告分離課税といった選択もできるため、投資方針や所得に合った納税ができる制度だといえるでしょう。
NISAの非課税特例
NISA(ニーサ)とは、NISA口座内で取引した上場株式や投資信託から得られる配当金および分配金、譲渡益などにかかる20%の税金が一定期間一定金額まで非課税となる少額投資非課税制度です。税金は投資におけるコストと考えられます。コストを抑えた資金効率の良い運用を目指すなら、ぜひNISA口座での取引を検討しましょう。
参考:No.1250 配当所得があるとき(配当控除)|国税庁
参考:No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度|国税庁
参考:NISAとは? : 金融庁
配当所得まとめ
配当所得とは、株主や出資者が法人から受ける利益の配当や剰余金の分配金などにかかわる所得のことです。具体的には、上場株式等の配当等や投資信託の分配金等が挙げられます。配当所得には、所得税および住民税がかかります。そのため、配当所得を得たら期限内にしっかりと納税することが重要です。
上場株式等の配当等から得た所得は、総合課税または申告分離課税、申告不要制度の3つの課税方式から選択して納税できます。配当控除を利用したい場合は、総合課税を選びましょう。積極的に投資を行っており譲渡損失との損益通算をしたいなら、申告分離課税が選択肢となります。手間を抑えたいのであれば、源泉徴収で納税が完了する申告不要制度が便利です。
どの課税方式を選ぶべきかは、所得額や投資方針などによって変わります。課税方式を選ぶにあたっては、配当控除などを考慮したうえで税額を試算してみましょう。自身での計算に不安を感じる場合には、税務署や税理士といった専門家に相談するのも選択肢の一つです。配当所得にかかわる税金についてあらかじめ知っておくことで、速やかで間違いのない納税を目指しましょう。
この記事の監修者
牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役
2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。
運営企業
当社、株式会社フリーウェイジャパンは、1991年に創業した企業です。創業当初から税理士事務所・税理士法人向けならびに中小事業者(中小企業および個人事業主)向けに、会計ソフトなどの業務系システムを開発・販売しています。2017年からは、会計・財務・資金調達などに関する情報を発信するメディアを運営しています。
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