譲渡所得とは?計算方法や不動産売却でかかる税金を紹介

更新日:2023年12月20日

譲渡所得

土地や建物、株式などの資産を「譲渡」したときに生じる所得を譲渡所得と呼びます。不動産売却する際は、短期譲渡所得か長期譲渡所得かによって税率が異なる点に注意が必要です。

本記事では、譲渡所得の概要や所得税の計算方法について解説します。

目次

譲渡所得とは

譲渡所得とは、土地や建物、株式などの資産を「譲渡」したときに生じる所得のことです。譲渡とは、有償無償関係なく、所有する資産を移転させるすべての行為を指します。

一般的な売買だけでなく、法人などに対する現物出資も譲渡所得のひとつで、所得税の課税対象です。

なお、事業用商品などの棚卸資産や山林などを譲渡した場合は、譲渡所得に該当しません。それぞれ、事業用所得もしくは雑所得、山林所得に該当します。

参考)雑所得とは

参考)山林所得とは

譲渡所得の対象となるもの

譲渡所得の対象になるのは、次のような資産です。

  • 土地、借地権、建物
  • 株式等、金地金
  • 宝石、書画、骨董
  • 船舶、機械器具
  • 漁業権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権
  • 土石(砂) など

貴金属や宝石など

生活用動産のうち貴金属や宝石などは、1個または1組の譲渡価格が30万円以上になる場合に限り、譲渡所得として課税の対象となります。

譲渡しても課税対象外のもの

貸付金や売掛金などの金銭債権の譲渡は、譲渡所得に該当しません。また、以下の資産を譲渡した場合も、譲渡所得の課税対象外です。

  • 家具、通勤用自動車、衣類など生活用動産(一部の高額なものを除く)
  • 強制換価手続きや競売などで譲渡したもの
  • 貸付信託の受益権等の譲渡 など

譲渡所得の計算方法

課税される譲渡所得の金額(課税譲渡所得金額)は、以下の式を使って計算します。

(土地・建物を譲渡したとき)
課税譲渡所得金額 = 収入金額 − (取得費 + 譲渡費用) − 特別控除額

(土地・建物・株式以外の資産を譲渡したとき)
課税譲渡所得金額 = 譲渡益(*) − 特別控除額(最高50 万円)

*譲渡益 = 短期譲渡所得の総収入金額 − (取得費+譲渡費用)
+ 長期譲渡所得の総収入金額 − (取得費+譲渡費用)

ここから、不動産(土地・建物)売却のケースを前提に、収入金額・取得費・譲渡費用・特別控除額の意味について、それぞれ解説します。

参考)国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
参考:国税庁「No.1460 譲渡所得(土地、建物及び株式等以外の資産を譲渡したとき)」

収入金額とは

一般的に、収入金額とは、譲渡の対価として受け取る金額のことです。土地・建物を譲渡する際に譲渡から年末までの固定資産税や都市計画税に相当する金額を受けた場合や、金銭の代わりに物や権利を受け取った場合も、収入金額に該当します。

なお、個人が法人に対して不動産を時価の2分の1を下回る金額で売却した場合や、贈与した場合は、時価が収入金額になるため注意しましょう。

参考)国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
参考:国税庁「No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額」

取得費とは

取得費とは、売却した不動産の購入代金や建築代金、購入手数料・設備費・リフォーム費用などです。そのほかにも、主に以下の項目が取得費に含まれます(事業所得などの必要経費として計上したものを除く)。

  • 土地・建物を取得した際に納付した登録免許税・登記費用・不動産取得税・印紙税など
  • 購入物件から借主を立ち退かせるために支払った立退料
  • 土地の測量費用

なお、先祖伝来の土地を売却する場合のように、購入代金がわからないケースもあるでしょう。その場合は、売った金額の5%相当額を取得費とすることが決められています。

たとえば、1,500万円で不動産を売却した際に当初の購入代金が不明な場合は、75万円が取得費です。

参考)国税庁「No.3252 取得費となるもの」
参考:国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」

譲渡費用とは

譲渡費用とは土地や建物を売却するにあたって、直接かかった費用のことです。主な譲渡費用として、以下が挙げられます。

  • 土地や建物を売る際に支払った仲介手数料
  • 売主が負担した分の印紙税
  • 貸家を売却するにあたって、借家人に家屋を明け渡してもらうために支払う立退料
  • 土地を売却するために建物を壊した際の取り壊し費用や建物の損失額

なお、資産の維持や管理にかかった費用は譲渡費用に該当しません。

参考)国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」

特別控除額とは

特別控除額とは、譲渡所得を計算するにあたって控除できる金額のことです、土地・建物を譲渡する際の主な特別控除額として、以下 が挙げられます(2023年4月1日現在)。

  • 5,000万円(収用などで土地・建物を譲渡した場合)
  • 3,000万円(マイホームを譲渡した場合)
  • 3,000万円(被相続人の空き家を譲渡した場合)

特別控除額を適用することで、節税につながる可能性があるでしょう。

ただし、それぞれ適用するには一定の要件を満たさなければなりません。たとえば、マイホームを譲渡した場合の特別控除を適用するには、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する、売り手と買い手が親子や夫婦などに該当しないなどを満たすことが必要です。

譲渡所得の税金は「短期」と「長期」で異なる

「短期譲渡所得」か「長期譲渡所得」かによって、譲渡所得の税金の扱いが異なる点に注意しましょう。

土地・建物・株式以外の資産を譲渡した場合は、譲渡所得を他の所得(給与所得)と合計して求めます。その際、短期譲渡所得は全額を他の所得と合計するのに対し、長期譲渡所得は2分の1相当の金額しか合計しません。

また、土地・建物を譲渡した場合は、他の所得と合計せず、分離して計算する分離課税制度が採用されています。分離して計算する際、短期譲渡所得と長期譲渡所得で異なる税率を適用する点がポイントです。

ここから、短期譲渡所得と長期譲渡所得の所得税・住民税の計算式を確認していきましょう。

短期譲渡所得の所得税・住民税の計算式

短期譲渡所得は所有期間5年以下の土地・建物を譲渡した際の所得のことです。短期譲渡所得に対して、所得税・復興特別所得税(2037年まで)・住民税が課されます。

計算式は、以下のとおり です。

所得税:短期譲渡所得 × 30%

復興特別所得税:短期譲渡所得の所得税額 × 2.1%

住民税:短期譲渡所得 × 9%

なお、短期譲渡所得に39.63%をかければ、所得税・復興特別所得税・住民税をまとめて計算できます。

参考)国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」

長期譲渡所得の所得税・住民税の計算式

長期譲渡所得は所有期間5年超の土地・建物を譲渡した際の所得のことです。長期譲渡所得にも、所得税・復興特別所得税(2037年まで)・住民税が課されます。

計算式は、以下のとおり です。

所得税:長期譲渡所得 × 15%

復興特別所得税:長期譲渡所得の所得税額 × 2.1%

住民税:長期譲渡所得 × 5%

なお、長期譲渡所得に20.315%をかければ、所得税・復興特別所得税・住民税をまとめて計算できます。

参考)国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」

不動産の譲渡所得で注意すること

不動産の譲渡所得を計算するうえで、注意することは以下のとおりです。

  • 所有年数を確認する
  • 税金の特例を適用できないか確認する
  • 分離課税である点を理解する

各注意点を確認していきましょう。

所有年数を確認する

不動産売却を検討している場合は、まず現在の所有年数を確認しましょう。短期譲渡所得には30%の所得税が課されるのに対し、長期譲渡所得の場合の所得税率は15%です。

不動産を売却した年の1月1日時点で5年を超えているか、5年以内かが所有期間の判断基準となります。売却を検討している時点で境目の場合は、長期譲渡所得に該当するまで待つことも検討しましょう。

税金の特例を適用できないか確認する

不動産を売却するにあたって、税金の特例を適用できないか確認しましょう。要件を満たしており、特別控除額を譲渡所得から引ければ節税につながります。

なお、特別控除額の限度は、その年の譲渡益の全体を通じて合計5,000万円までです。特別控除額を控除するにあたって特例を適用する順番については、国税庁が定めています。

参考)国税庁「No.3223 譲渡所得の特別控除の種類」

分離課税である点を理解する

所得税は総合課税が原則ですが、土地・建物を譲渡した際や株式などを譲渡した際は、申告分離課税で計算することを理解しておきましょう。各種の所得金額を合計して総所得金額を求める総合課税制度と異なり、申告分離課税は他の所得金額と合計せず、分離して税額を計算します。

なお、譲渡所得(土地・建物・株式など)以外に、山林所得や一部の利子所得・雑所得も申告分離課税の対象です。

参考)国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
参考:国税庁「No.2240 申告分離課税制度」

不動産売却時の譲渡所得税の計算例

所有期間6年の不動産を売却したケースで、収入金額9,000万円、取得費2,500万円、譲渡費用500万円(特別控除額なし)の譲渡所得税の計算例を紹介します。

まず、課税譲渡所得金額は6,000万円です(9,000万円 − (2,500万円 + 500万円) − 0)。

6,000万円は長期譲渡所得のため、所得税15%、復興特別所得税2.1%、住民税5%を適用します。各税金の計算結果は、以下のとおりです。

  • 所得税:900万円(6,000万円 × 15%)
  • 復興特別所得税:18.9万円(900万円 × 2.1%)
  • 住民税:300万円(6,000万円 × 5%)
  • 合計:1,218.9万円

なお、6,000万円に20.315%をかけた場合も、同様に合計税額を計算できます。

譲渡所得税の申告方法

譲渡所得税を申告する際の流れは、以下のとおりです。

  1. 売買契約書や仲介手数料の領収書など資料を用意する
  2. 確定申告書を作成する(確定申告書や譲渡所得の内訳書の記入)
  3. 税務署に提出する(税務署への持ち込み・郵送やe-Tax)
  4. 納税額が確定したら、期限内に譲渡所得税を納付する

なお、確定申告も所得税の納付も、期限は原則として所得が生じた年の翌年2月16日から3月15日 までです。

譲渡所得を申告しないと損をする?

課税対象となる譲渡所得がある場合に「確定申告」をしなければ損をすることがあります。確定申告をすると課税されるため、税金の支払いが発生すると考えるかもしれませんが、後々の申告漏れが発生した場合に、罰則になる可能性があるため、十分に注意しなければなりません。

無申告加算税

対象となる取引があったにもかかわらず、確定申告を忘れてしまった場合には、通常の申告で発生する税額に加えて、「無申告加算税」という税金が加算される罰則があります。無申告加算税は、納付すべき税額に対して50万円までは15%、50万円を超える部分は20%(*)の税率で課されるため、注意が必要です。

*2024年1月1日以降に申告期限が到来するものは、50万円までは15%、50万円超300万円までは20%、300万円超は30%

参考)国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」

重加算税

対象となる取引があったにもかかわらず、隠ぺいしようとした場合は、通常の申告で発生する税額に加えて、「重加算税」という税額が加算されます。重加算税は通常の税率分とは別途に最大40%の課税があります。重加算税は、悪質なものと判断されるときに適用される重い罰則ですので、十分に注意しなければなりません。

延滞税

原則的には、申告しなかった期間の延滞税が加算されますので、通常納税すべき税額よりもかなり負担が増えることになります。そのため、申告を忘れてしまわないように早めに行動することをオススメします。

譲渡所得まとめ

譲渡所得とは、資産を譲渡したときに生じる所得のことです。土地・建物を売却した場合、収入金額から取得費・譲渡費用・特別控除額を引くことで譲渡所得の金額を求められます。

また、短期譲渡所得か長期譲渡所得かによって、税金の扱いが異なる点に注意が必要です。不動産売却を検討している方は、譲渡所得の仕組みもあらかじめ理解しておきましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

無料の会計ソフト「フリーウェイ」

このエントリーをはてなブックマークに追加