消費税の特定課税仕入れとは?リバースチャージ方式やインボイスとの関係も説明

更新日:2023年12月19日

特定課税仕入

特定課税仕入れとは、特定仕入れに該当する課税取引を指します。国外事業者によるインターネットの電子書籍配信などには、消費税がリバースチャージ方式で課される点がポイントです。

今回は、特定課税仕入れの概要や、例外にあたるケースについて詳しく解説します。

目次

特定課税仕入れとは

消費税法第5条によると、特定課税仕入れとは課税仕入れのうち「特定仕入れ」に該当するもののことです。課税仕入れとは、棚卸資産の仕入れや事業用資産の購入・賃借など、事業者が事業として他の者(免税事業者や消費者も含む)から資産を譲り受けることを指します。

本来、国内で商品を販売したり、サービスを提供したりした事業者に対して、消費税が課されることが原則です。この際、消費税の納付額は、課税仕入れなどにかかる消費税額を差し引いて計算します(仕入税額控除)。

特定課税仕入れに該当する場合、納付義務の対象が変わる点や、仕入税額控除が制限される点がポイントです。特定課税仕入れに対して適用される課税方法を、「リバースチャージ方式」と呼びます。

参考)e-Gov「消費税法第五条」
参考:国税庁「No.6355 課税売上げと課税仕入れ」

特定課税仕入れの対象取引

特定課税仕入れの対象取引は、以下のとおりです。

  • (国内において国外事業者から受けた)事業者向け電気通信利用役務の提供
  • (国内において国外事業者から受けた)特定役務の提供

各取引の内容を紹介します。

事業者向け電気通信利用役務の提供

事業者向け電気通信利用役務の提供とは、電気通信回線(例:インターネット)を通じて、事業者に役務を提供することです。国税庁は、具体例として主に以下の取引を挙げています。

  • インターネットによる電子書籍・電子新聞・音楽・映像・ソフトウェアなどの配信
  • クラウド上のソフトウェアやデータベースを利用させるサービス
  • インターネットを通じた広告の配信・掲載
  • インターネット上でショッピングサイト・オークションサイトを利用させるサービス
  • インターネットによる宿泊予約・飲食店予約サイト
  • インターネットによる英会話教室

ただし、インターネット回線の利用のように他者間の情報伝達を単に媒介するものや、ソフトウェアの制作など、他の資産の譲渡に付随するものは「電気通信利用役務の提供」に該当しないとされています。

特定役務の提供

特定役務の提供とは、国外にいる特定の人が、日本の事業者に対して役務を提供することです。国税庁は、特定役務の提供の具体例として、以下を挙げています。

  • 芸能人の映画撮影やテレビへの出演
  • 俳優・音楽家による演劇や演奏
  • スポーツ競技大会などへの出場

役務を提供する国外事業者が個人事業主の場合も、「特定役務の提供」に該当します。また、アマチュアの選手でも、スポーツ大会に出場して賞金を獲得する場合は、「特定役務の提供」の対象です。

参考)国税庁「No.6118 国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について」
参考:国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税に関するQ&A」

特定課税仕入れの課税方式「リバースチャージ方式」とは

特定課税仕入れについて、2015年10月 より(「特定役務の提供」は2016年4月 から)新たな消費税課税方式である「リバースチャージ方式」が適用されるようになりました。消費税は本来消費者が負担して、事業者が納めるものですが、リバースチャージ方式はお金を支払った側が消費税を申告して納税する点が特徴です。

そもそも、国外事業者による電子書籍や広告の配信事業は、消費税の課税対象ではありませんでした。しかし、グローバル化に伴い、インターネットによる販売やサービスが広がったため、日本国内で提供されているサービスとのバランスを取ることを目的にリバースチャージ方式が導入されています。

ここから、「特定役務の提供」でもリバースチャージ方式が必要な理由や、リバースチャージの計算方法について確認していきましょう。

参考)国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等について」
参考:国税庁「消費税のしくみ」

「特定役務の提供」でリバースチャージ方式が必要な理由

「事業者向け電気通信利用役務」だけでなく、「特定役務の提供」についてもリバースチャージ方式を導入することになった理由は、消費税の未申告・未納を防ぐためです。

「特定役務の提供」にリバースチャージ方式が適用されるまでは、役務を提供した国外事業者が消費税を申告して納税する仕組みでした。しかし、海外アーティストやスポーツ選手が日本で消費税申告せずに帰国するケースが発生していたことが、リバースチャージ方式の適用に至った経緯とされています。

消費税をリバースチャージ方式で計算する式

取引の中に特定課税仕入れがあり、リバースチャージ方式で納付すべき消費税額を計算する際の式が、以下のとおりです。

( 「課税資産の譲渡などにかかる消費税額」+「特定課税仕入れにかかる消費税額」)
−((「課税仕入れなどにかかる消費税額」+「特定課税仕入れにかかる消費税額」)× 80%)

なお、課税売上割合が80%の場合の式を記載しています。

参考)国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税に関するQ&A」

リバースチャージ方式の計算例

課税売上高8,000万円・非課税売上高2,000万円(税抜き)、課税仕入れ高(税込)4,000万円、特定課税仕入れ2,000万円のケースで、リバースチャージ方式で計算してみましょう。

まず、課税資産の譲渡などにかかる消費税額が800万円(8,000万円 × 10%)、特定課税仕入れにかかる消費税額が200万円(2,000万円 × 10%)です。また、課税仕入れなどにかかる消費税額は400万円(4,000万円 × 10%)と計算できます。

そのため、本ケースの計算例は以下のとおりです。

(800万円+200万円)−((400万円+200万円)×80%)

つまり、本ケースにおいてリバースチャージ方式で納付する消費税額は520万円(1,000万円 − 480万円)となります。

特定課税仕入れに関する例外

特定課税仕入れに関する例外は、以下のとおりです。

  • 消費者向け電気通信利用役務の提供にかかる制限
  • リバースチャージ方式に関する経過措置

それぞれ詳しく解説します。

消費者向け電気通信利用役務の提供にかかる制限

国内事業者が国外事業者から消費者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合、当面当該役務の提供にかかる仕入税額控除が制限されることになっています。消費者向け電気通信利用役務の具体例は、以下のとおりです。

  • インターネットによる電子書籍・電子新聞・音楽・映像・ソフトウェアなどの配信
  • クラウド上のソフトウェアやデータベースを利用させるサービス
  • クラウド上で電子データを保存する場所を提供するサービス
  • インターネット上でショッピングサイト・オークションサイトを利用させるサービス

上記の中でも、取引条件から事業者間取引であることが明らかな場合は、「事業者向け電気通信利用役務の提供」に該当します。

「消費者向け電気通信利用役務の提供」に該当する場合、リバースチャージ方式の適用はありませんが、請求される金額に消費税が含まれています。また、取引相手が対象事業者以外の国外事業者の場合、仕入税額控除を適用できません。

リバースチャージ方式に関する経過措置

リバースチャージ方式に関する経過措置に該当する場合、特定課税仕入れの対象外となります。経過措置が適用されるのは、一般課税で申告する事業者のうち、以下に該当する場合です。

  • 当該課税期間における課税売上割合が95%以上
  • 当該課税期間について、簡易課税制度が適用される場合

経過措置を適用する場合、特定課税仕入れがなかったものとされるため、その分の消費税の申告・納税義務が課されません。

参考)国税庁「No.6118 国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について」

リバースチャージ方式を適用すべきか判断する方法

国外事業者と取引する際、役務の性質や取引条件などから「事業者向け電気通信利用役務の提供」としてリバースチャージ方式を適用すべきか判断します。

また、事業者向け電気通信利用役務の提供を行う国外事業者には、事前にリバースチャージ方式の対象であることを表示する義務があるため、表示を確認する方法も有効です。一般的に、インターネットでサービス内容を紹介する部分の規約や、カタログなどで、「日本の消費税は役務の提供を受けた貴社が納税することとなります」のように表示されます。

リバースチャージ方式対象取引の仕訳方法(会計処理)

課税売上割合80%で、国外事業者にデータベース利用料20万円を普通預金から支払ったケース(リバースチャージ方式の対象取引)で、支払い時に消費税を認識しない場合と、認識する場合の仕訳方法を紹介します。

消費税を認識しない場合、以下のように仕訳します。

(支払い時)

借方 貸方
情報利用料 200,000 普通預金 200,000

(決算時)

借方 貸方
雑損
(控除対象外消費税)
4,000 未払消費税等 4,000

課税標準額である支出額に対する消費税額が2万円(20万円 × 10%)、控除対象仕入税額が1万6千円(2万円 × 80%)のため、納付する消費税額は4千円です。

また、消費税を認識する場合、以下のように仕訳します。

(支払い時)

借方 貸方
情報利用料 200,000 普通預金 200,000
仮払消費税 16,000 仮受消費税 16,000

(決算時)

借方 貸方
仮受消費税 16,000 仮払消費税 16,000
雑損
(控除対象外消費税)
4,000 未払消費税等 4,000

特定課税仕入れ・リバースチャージ方式に関する記載方法

消費税の申告書を作成する際、特定課税仕入れの金額について記載しなければなりません。「付表1-3 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表」や、「付表2-3 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表」に金額を記載しましょう。いずれも、「特定課税仕入れに係る支払対価の額」と記載された欄に金額を記載します。

また、リバースチャージ方式の対象取引で仕入税額控除を適用するためには、帳簿上に「特定課税仕入れにかかるもの」であることを記載しておかなければなりません。

参考)国税庁「消費税及び地方消費税の確定申告の手引き・様式等」

特定課税仕入れの注意点

たとえ取引相手(国外事業者)が免税事業者であっても、提供される役務が「事業者向け電気通信利用役務の提供」などに該当する場合は、「特定課税仕入れ」に該当する点に注意しましょう。免税事業者からの特定課税仕入れであっても、役務の提供を受けた事業者に消費税の納税義務が課されます。

また、対象事業者には「当該役務の提供に係る特定課税仕入れを行う事業者が消費税の納税義務者となる旨」の表示が義務付けられていますが、仮に表示がなくても提供を受けた事業者に対して消費税納付義務が課される点も注意が必要です。

参考)国税庁「免税事業者からの特定課税仕入れ」

特定課税仕入れとインボイス制度の関係

インボイス制度とは、売り手が課税事業者から求められた際にインボイスを交付し、買い手は仕入税額控除を受けるためにインボイスを保存しなければならない制度です。インボイス適用後(2023年10月以降)も、特定課税仕入れに関する要件に大きな変更はありません。

なお、国税庁長官の登録を受けた「登録国外事業者」は、別途届出を出さない限り経過措置として適格請求書発行事業者の登録を受けたものとみなされています。

特定課税仕入れまとめ

特定課税仕入れとは、日本国内で国外事業者から受けた「事業者向け電気通信利用役務の提供」や「特定役務の提供」のことです。該当する場合は、お金を支払った側が自分で消費税の申告をして納付する「リバースチャージ方式」で消費税額を計算しなければなりません。

リバースチャージ方式に該当するかわからない場合は、取引相手のパンフレットなどに説明がないか確認することがポイントです。ただし、万が一説明がなくても、条件が合致する場合は消費税納付義務が発生するため注意しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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