山林所得とは何か~税額の計算方法、活用できる特別控除について~

更新日:2022年10月06日

山林所得

山林を一定期間所有しており、山林を伐採して譲渡したり、立木のまま譲渡した場合には山林所得の課税対象となります。しかし、必ずしも山林所得の課税対象となるわけではなく、中には課税対象外のケースに該当する場合もあります。そこで今回は、山林所得の課税対象、課税対象外の特殊なケースや山林所得の算出方法、確定申告など、山林所得について網羅的に解説します。

山林所得の定義

得た収入の種類に応じて納税義務が生じる所得税。収入には複数の種類があり、このうち林業経営者向けの所得税を「山林所得」といいます。山林所得は、通常の所得税とは算出方法が異なります。また、山林の保有期間に応じて所得の計算方法がことなるなど、その内容は複雑です。例えば、山林所得として認められる所得は山林を取得してから5年以上保有している場合のみ、かつ伐採して譲渡または立木のまま譲渡で得た所得のみです。 ただし、一部の特殊なケースでは山林所得の対象となることがあります。そこで、ここからは、課税対象となる特殊なケースの山林所得について詳しく見ていきましょう。

参考:国税庁「山林所得のあらまし

山林所得として課税される特殊なケース

山林所得は課税対象となる特殊なケースが複数あります。主な課税対象となる特殊なケースの山林所得は以下のとおりです。

  • 法人への贈与・遺贈又は時価の2分の1未満の価格で譲渡した場合
  • 自宅の建築など家事の用に使うため山林を伐採した場合
  • 分収造林契約または分収育林契約に係る権利を譲渡した場合
  • 生産森林組合から従事分量分配金を受けた場合 など

このように、課税対象となる特殊なケースが複数あるため、山林にかかる権利や金銭を受けた場合、または譲渡した場合は課税対象か否かを必ず確認してください。

山林所得が課税対象外になるケース

山林を譲渡等したからといって、必ずしも山林所得の課税対象となるわけではなく、中には課税対象外の山林所得もあります。 課税対象外となる山林所得は以下のケースです。

  • 山林を国や地方自治体に寄付した場合
  • 公益法人等に寄付して国税庁長官の承認を受けた場合
  • 山林を相続税の物納に充てた場合
  • 資力を失って山林を競売などにより譲渡した場合

これらの場合は、山林の所有期間が5年以上経過していても所得税は課税されません。

山林所得金額の算出方法

山林所得に対する課税方法は他の所得に対する課税方法とはその計算方法が異なります。ここからは、山林所得金額の算出方法をご紹介します。まず、山林所得金額の算出は以下のように計算式します。

山林所得金額=総収入金額ー必要経費ー山林所得の特別控除額ー青色申告特別控除額

なお、特別控除額は最高50万円までです。ここからは、計算式に出てくる各計算要素の概要をそれぞれ詳しく解説します。

参考:国税庁「No.2260 所得税の税率

総収入金額

総収入金額とは、山林を伐採して譲渡した収入や立木のままで譲渡して得た収入、立木を自家消費した場合に得た収入を指します。なお、立木を自家消費した場合とは、自宅や小屋を建てる際に自分の山林で立木を伐採した場合などを指します。この場合は実際に金銭が発生していませんが、総収入金額として計上しなければなりません。

必要経費

経費とは業務上で必要な出費のことで、山林取得においても必要経費の計上が必要です。山林取得における必要経費に含まれるものと含まれないものの内訳は以下の通りです。

  • 必要経費に含まれるもの

    山林管理費、木材伐採費、搬出費、売却時に発生する仲介手数料、苗木購入などの植材費、草刈りなどの育成費、災害による損失、林業目的の機械の減価償却費

  • 必要経費に含まれないもの

    ガソリン代などの燃料費用や交際費のうち、あまりにも金額が高い場合、山林事業に関係ないと判断される出費など

上記を見ても分かる通り、必要経費に含まれないものには明確な定義がありません。そのため、税理士や税務署に相談の上、必要経費として計上すべきか否かを判断しましょう。

特別控除額

山林所得には、最大50万円までの特別控除があります。特別控除を適用することで、山林所得金額を減らせます。

必要経費の特例

必要経費の特例とは、長期間山林を所有し続けている人を対象に、概算経費控除という必要経費が控除される特例を指します。必要経費の特例が適用されるのは、その年の15年前の年の12月31日以前から山林を所有していた山林を伐採または譲渡した人です。必要経費の特例が適用されると、収入金額から譲渡費用を差し引いた金額の50%を上乗せし、さらに譲渡費用を必要経費として計上することが認められます。

保有期間5年以内の山林所得

前述の通り、保有期間が5年を経過した山林を伐採または譲渡する場合は、原則として山林所得の課税対象となります。では、保有期間5年以内の山林所得はどのような扱いとなるのでしょうか。

保有期間5年以内の山林所得は、事業所得、雑所得、譲渡所得のいずれかとして計上します。事業所得として計上されるのは事業的規模の譲渡として認められた場合のみで、それ以外は雑所得となり、山林を山ごと譲渡した場合の土地部分は譲渡所得となります。ここからは、事業所得、雑所得、譲渡所得それぞれの概要と計算式を確認しましょう。

事業所得

事業所得とは、保有期間5年以内の山林、農業、漁業、卸売業、サービス業などの事業を経営している事業から得た所得を指します。保有期間5年以内の山林所得のうち、事業的規模の山林所得と認められた場合は事業所得として課税の対象となります。そのような山林所得における事業所得の計算式は以下の通りです。

事業所得金額=総収入金額ー必要経費

雑所得

雑所得とは、利子所得、配当所得、退職所得、山林所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得、一時所得のいずれにも当たらない所得を指します。保有期間5年以内の山林所得のうち、事業的規模の山林所得に該当しない場合は雑所得として計上します。雑所得のうち、業務にかかる雑所得の計算式は以下の通りです。

業務にかかる雑所得=総収入金額ー必要経費

譲渡所得

山林を山ごと譲渡する場合の土地の部分は、譲渡所得になります。譲渡所得は以下の計算式で算出できます。

譲渡所得=収入金額ー(取得費+譲渡費用)ー特別控除額

特別控除額は、一定の要件を満たした場合に、最大5,000万円の控除が受けられます。

保有期間15年を超える山林売却

保有期間15年を超える山林を売却する場合、概算経費控除が適用されます。概算経費控除が適用された場合は通常の山林所得の計算式とは違い、以下の計算式で算出されます。

山林所得=(総収入額-必要経費)×50%-特別控除額

なお、概算経費控除が適用された場合でも特別控除額は通常の山林取得同様、最高50万円までです。また保有期間15年を超えるとは、15年前の12月31日以前から所有していた場合です。例えば、2004年10月に取得した山林を2019年5月に売却する場合、実際の所有期間は14年と7ヶ月ですが、特別控除における2019年の15年前は2004年12月31日であるため概算経費控除が適用されます。このように、実際には保有期間が15年を経過していない場合でも、概算経費控除が適用される場合があります。

概算経費控除

概算経費控除とは、15年前の12月31日以前から所有していた山林を伐採または譲渡する際に受けられる特別控除を指します。具体的には、収入金額から譲渡費用を差し引いた金額の50%に、さらに譲渡費用を上乗せした金額を必要経費として控除できます。所有期間が15年を経過している場合は、概算経費控除を有効に活用しましょう。

森林計画特別控除

山林所得の特別控除には、森林計画特別控除という制度もあります。森林計画特別控除とは、森林経営計画に基づいて立木を伐採または譲渡した場合に受けられる特別控除を指します。森林計画特別控除の対象者は、森林経営計画の認定を受けた森林所有者のみです。 森林計画特別控除が適用されると、以下の①または②のうち金額の低い控除額が総収入額から控除できます。

①立木の伐採または譲渡による収入の20%相当額
②立木の伐採または譲渡による収入の50%相当額から必要経費を控除した残額

森林計画特別控除の活用

森林計画特別控除は、森林会計計画の認定を受けた森林所有者が、森林計画に基づいて立木を伐採または譲渡すれば必ず適用されるというわけではなく、適用の申請が必要です。森林計画特別控除を活用したい場合は、市町村長などの認定権者に届出の上、立木の伐採または譲渡の証明申請と確定申告時の山林所得を忘れずに申告しましょう

山林所得に関する税金の算出方法

ここまで、山林所得について詳しく解説してきました。ここからは山林所得の基礎知識を踏まえた上で、山林所得に関する税金を計算する方法を確認しましょう。

5分5乗方式

山林所得に関する税金は、5分5乗方式で算出します。具体的な計算式は以下の通りです。

山林所得の税額=山林所得×1/5×税率×5

上の計算式から、山林所得金額が500万円だった場合の税額を計算してみましょう。山林所得金額が500万円だった場合、税率は5%となるため計算式は以下の通りになります。

500万円(山林所得)×1/5×0.05(税率)×5=25万円

よって、この場合に納める税金は25万円です。注意点として、山林所得の税金の計算方法は年度によって変更される場合があります。そのため、計算する年度の計算方法は税理士または税務署にご確認ください。

山林所得の確定申告

山林所得で税金が発生した場合は確定申告が必要です。そこで最後に、山林所得の確定申告について確定申告の手順や確定申告する時期等を確認しましょう。

山林所得の確定申告手順

山林所得は、山林所得収支内訳書を使用して計算の上、必要事項を記入します。具体的な確定申告の手順は以下の通りです。

  1. 山林所得収支内訳書を作成する
  2. 第一表の「収入金額等」と「所得金額等」を記入する
  3. 第二表を作成する
  4. 第一表の「所得から差し引かれる金額」を記入する
  5. 第三表の「山林の収入金額」と「所得金額」を記入する
  6. 第三表の「税金の計算」を記入する
  7. 第一表の「税金の計算」と「その他」を記入して完了

確定申告する時期

山林の伐採または譲渡して確定申告が必要になった場合、山林を売却後の翌年2月中旬〜3月中旬に確定申告しなければなりません。山林所得の確定申告の申告先は、管轄の税務署です。直接持参するか、郵送やe-TAXで期限内に申告しましょう。

税理士に依頼する場合

山林所得の確定申告も税理士に依頼できます。税理士に依頼することで、確定申告を作成、計算するなどの手間が省けたり、ミスをして再提出しなければならない事態を防げる、節税できるなどのメリットがあります。しかし一方で、税理士に依頼すると報酬が必要なことや、何度か打ち合わせをしなければならないというデメリットもあります。税理士に依頼するメリットとデメリットを把握した上で、税理士への依頼を検討しましょう。

山林所得まとめ

山林を伐採または譲渡して得た収益である「山林所得」は、5年以上保有している山林だった場合は原則として課税対象となり確定申告が必要です。ただし、例外として保有期間に関係なく課税対象となることがある他、保有期間によっては特別控除が受けられるなどさまざまな決まりが定められています。山林所得の税金について正しい知識を持ち、確定申告が必要な場合は、山林を売却した翌年の2月中旬から3月中旬に忘れずに確定申告しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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