少額特例とは?インボイス制度で知っておきたい負担軽減措置を解説
更新日:2024年02月21日
少額特例とは、インボイス制度開始後の事務負担軽減になりうる特例措置です。基準期間における課税売上高が1億円以下の場合などに適用できます。
2023年10月1日にインボイス制度が開始してから、事務負担が増えて経営効率が下がることのないように、少額特例を理解しておきましょう。
目次
インボイス制度における少額特例とは?
インボイス制度の少額特例とは、2023年10月1日よりはじまるインボイス制度に関する特例のひとつです。インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除に関する新たな制度を指します。
インボイス開始に伴い、売り手は課税事業者の買い手から求められた際に、インボイス(適格請求書)を交付しなければなりません。また、買い手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、売り手から交付されたインボイスの保存が必要です。
ここから、少額特例の概要や、2割特例との違いについて確認していきましょう。
少額特例の概要
少額特例は、税込1万円未満の少額の課税仕入れについて、インボイスを保存しなくても一定の事項を記載した帳簿を保存すれば仕入税額控除できる制度です。「一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置」と表現することもあります。
取引相手がインボイス発行事業者か、免税事業者かは少額特例の適用に関係しません。ただし、売り手のインボイス発行事業者の交付を免除している制度ではないため、買い手から依頼された場合は、少額の取引でもインボイスを発行しなければなりません。
あくまで買い手が仕入税額控除を適用するにあたって、本来必要なインボイスの保存が不要になる特例と理解しておきましょう。
参考)国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要」
少額特例の具体例
少額特例の具体例は、以下のとおりです。
11月1日に税込6千円の商品を購入、11月10日に同じ商品(税込6千円)をもう一度購入し、それぞれ別個に請求・精算
商品の合計額は1万2千円で1万円をオーバーしますが、それぞれ1万円未満の取引のため、少額特例の対象です。ただし、同時に購入した場合は、1万円以上の取引となるため適用対象となりません。
また、以下の場合も少額特例の適用対象です。
毎週金曜日に1回ずつクリーニング(7,000円)を依頼し、都度請求・精算
上記の場合、月単位では1万円以上になりますが、それぞれ別に請求・精算しているため適用対象です。
2割特例との違い
2割特例は、インボイス制度開始に伴う事業者への負担軽減措置として、少額特例とともに設けられた制度です。2割特例を適用すれば、売上にかかる消費税額から売上税額の8割を差し引いて納付税額を計算できます。
少額特例がインボイスの保存に関する特例を定めたものに対し、2割特例は納付税額に関する特例を定めたものである点が主な違いです。2割特例について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
参考)2割特例とは
少額特例の適用対象者
少額特例の適用対象者は、以下のとおりです。
- 基準期間における課税売上高が1億円以下
- 特定期間における課税売上高が5千万円以下
「売上高」ではなく、「課税売上高」が基準である点に注意しましょう。少額特例の適用対象者について、それぞれ解説します。
基準期間における課税売上高が1億円以下
基準期間における課税売上高が1億円以下の事業者は、少額特例の適用対象です。基準期間についての考え方は、個人事業主と法人で異なります。
個人事業主の場合、対象年の前々年が基準期間です。一方、法人で事業年度が1年の場合、基準期間は対象事業年度の前々年度を指します。
また、課税売上高とは、消費税の課税取引の売上高から、該当取引に関する売上返品・売上値引や売上割戻にかかる金額(消費税額を除く)の合計額を控除した残額のことです。
特定期間における課税売上高が5千万円以下
特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者も、少額特例の適用対象です。特定期間とは、 個人事業者の場合に前年1月から6月までの期間、法人の場合に前事業年度の開始日以後6か月間を指します。
たとえば、3月決算の法人で前々年度(2021年4月1日〜2022年3月31日)の課税売上高が1億1千万円(1億円超)であっても、特定期間(2022年4月1日〜9月30日)の課税売上高が4千万円(5千万円以下)であれば、適用可能です。
なお、消費税の納税義務を判定する際、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額でも判定できます。しかし、少額特例で特定期間における課税売上高を判定する際は、給与等支払額の合計額で判定できない点に注意が必要です。
少額特例の適用期間
少額特例の適用期間や注意事項について、確認していきましょう。
適用期間は2023年10月1日~2029年9月30日
少額特例は、2023年10月1日から2029年9月30日までの課税仕入が対象です。たとえ課税期間の途中であっても、2029年10⽉1⽇以後の課税仕⼊取引については、少額特例の適⽤になりません。
たとえば、3月決算の法人の場合、2028年の事業年度は2028年4月1日から2029年3月31日までです。同じ2028年度でも、2028年9月1日の取引は少額特例の適用対象となりうるのに対し、11月1日の取引は対象外となります。
適用期間の注意事項
少額特例は、2割特例と適用期間が異なります。2割特例を適用できるのは、2023年10月1日から2026年9月30日までの属する日の課税期間です。
また、2割特例の期限が「までの属する日の課税期間」とされている点も異なります。たとえば、3月決算の法人であれば、2026年9月30日を経過した2026年11月1日の取引でも、「2026年9月30日までの属する日の課税期間(今回は〜2027年3月31日)」を超えていないため2割特例の適用対象です。
少額特例を申請する際の注意点
少額特例を申請するにあたり、年商1億円近辺を前後している場合や、少額特例の判定単位には注意が必要です。それぞれ解説します。
年商1億円近辺を前後している場合
自社や自身のビジネスの年商が毎年1億円近辺を前後している場合は、少額特例の対象外となる可能性があるため、注意しましょう。ただし、課税売上が基準のため、売上高が1億円を超えていても少額特例の対象になる可能性はあります。
また、特定期間の特定期間の課税売上高が5千万円以下であれば、対象となりえる点も意識して確認しましょう。
少額特例の判定単位
少額特例の判定単位は、⼀回の取引の合計額が1万円未満であるかどうかである点に注意が必要です。課税仕入にかかる、1商品ごとの⾦額によっては判定しません。
たとえば、7千円と6千円の商品を同時に購入した場合、少額特例の対象となりません。各商品の金額は1万円未満であっても、取引額が1万3千円(1万円以上)となるためです。
少額特例まとめ
少額特例とは、2023年10月1日よりはじまるインボイス制度に関する特例のひとつです。少額特例を適用すれば、税込1万円未満の少額の課税仕入れについて、インボイスを保存しなくても一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除ができます。
ただし、課税売上高の条件があるため、少額特例を適用できない事業者がいる点に注意が必要です。とくに、年商1億円前後の会社の場合、対象外となる可能性があります。
少額特例の概要を十分に理解し、2023年10月1日からのインボイス制度開始に備えましょう。