会社設立時に利用可能な借入制度について解説

更新日:2023年11月03日

会社設立と借入

会社設立時に多くの人が直面する課題の一つに、資金の調達が挙げられます。自己資金があれば話は別ですが、多くの場合は外部からの融資など、借入制度を利用した資金調達が必要となります。

借入制度を利用すると資金面での負担軽減が期待できますが、スムーズに制度を利用するには、あらかじめ制度の詳細や申請の流れを理解しておくことが非常に重要です。

本記事では、会社設立時に利用可能な借入制度と、実際に融資を受ける際の流れや注意点について解説します。

目次

会社設立時に活用できる融資

会社設立時に活用できる融資は「創業融資」と「制度融資」の2種類あります。

会社設立時に活用できる融資/

創業融資

創業融資とは、新たに起業する事業者に対し、必要となる資金を融資する制度です。創業者を支援するために、国や地方公共団体が主体となることで資金を借りやすくしています。

創業直後はオフィスの場所代や各種備品費など、まとまった支出が重なりがちです。これらを全て自己資金で賄うことができれば問題ありませんが、それでも大きな負担となることが予測されます。

また、銀行など金融機関からの融資も存在しますが、創業開始直後の法人や個人に対して融資する可能性は低いです。創業直後の事業者には決算書が存在しないため、融資額に利息を上乗せした金額を期間内に回収できるか、金融機関側は判断ができないことが要因です。

しかし本融資は、創業支援が目的であるため金利も低く、創業直後でも借りやすいです。そのため、先述した初期費用の負担削減が期待できます。

なお創業融資には、国の機関である日本政策金融公庫による「新創業融資制度」と、地方自治体が主体となって金融機関や信用保証協会が行う「制度融資」の2種類があります。

制度融資

制度融資は、都道府県などの地方自治体と、各地域における金融機関、信用保証協会が連携して提供している融資制度で、創業融資の一種です。

信用保証協会が連帯保証を行うため、万が一返済が難しくなった場合も弁済してもらえます。これにより返済不能になるリスクが軽減することで、融資が受けやすくなります。また、地方自治体は事業者の返済を支援する役割を持っており、融資機関への金利や保証協会への保証料を一部負担する場合もあります。

本制度のメリットとしては、まず金利が低いことが挙げられます。自治体によって差はあるものの、自治体からの利子補給が確約されている場合が多いため、一般的な銀行融資よりも金利が低い場合が多いのです。

また、各機関が金利を負担してくれるなど、外部の助けを借りられる点も魅力です。さらに長期間の借入が可能であったり、審査のハードルが低かったりというメリットもあります。

一方で、融資を受ける際は自治体・保証協会・金融機関の三者が関与します。他の融資制度と比べると書類や申込みの工数がかさむため、融資が実行されるまでに数ヶ月ほどかかります。制度融資を受ける際は、自社の資金調達に間に合うよう計画的な申請が必要です。

【創業融資】日本政策金融公庫において利用可能な融資制度

創業融資には国の機関である日本政策金融公庫による新創業融資制度と、地方自治体が主体となって金融機関や信用保証協会が行う制度融資の2種類があります。

本章では、担保も保証人も不要である日本政策金融公庫の融資制度を紹介します。

日本政策金融公庫の融資制度比較表

1.新創業融資制度

新創業融資制度は、2014年3月1日に「新創業融資制度の改正」によって新たに制定された制度です。

対象 新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方
※創業に必要となる資金の10分の1の自己資産を持っていること
融資限度額 3000万円(うち運転資金1500万円)
融資期間 各融資制度に定める返済期間以内

融資希望者は、創業に必要となる資金の10分の1の自己資産を持たなければ申し込むことはできません。ただし、現在勤めている企業と同じ業種の事業を新たに始める場合には、「6年以上同じ企業に勤めている方」または「現在の企業と同じ業種に通年6年以上勤めている方」のいずれかに該当すれば、自己資金の要件を満たしているという扱いになります。

起業家への融資に積極的であること、無担保・無保証での融資が可能であることから、この後紹介する「新規開業資金」「女性、若者/シニア起業家支援資金」の制度よりも融資を受けやすいという特徴があります。これらに加え、申請から融資が実行されるまでのスピードが速いこともメリットとして挙げられます。

一方で、年間金利がやや高いこと、創業資金総額の10分の1以上の自己資金の用意が必要となることが注意点です。特に後者に関しては、事前確認を怠ってしまうと制度が利用できなくなってしまう可能性もあるため、注意が必要です。

詳しくはJFC 日本政策金融公庫 新創業融資制度をご覧ください。

2.新規開業資金

新規開業資金は、新たに事業を始める方、事業開始後7年以内の方を対象とする融資制度です。廃業経験がある方も支援の対象とするなど、幅広い層に対して融資を行っているのが本制度の特徴であり魅力です。

対象 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方
融資限度額 7200万円(うち運転資金4800万円、設備資金2400万円)
融資期間 運転資金は7年以内、設備資金は20年以内*

上記以外の融資条件として、融資を受けるためには原則担保や第三者による保証人の設定が必要となります。新創業融資制度とは違い自己資金の要件は設けられていないため、自己資金の用意ができておらず制度を利用できない、ということは起こりません。

*措置期間(元金の返済が発生せず、利息のみを支払う期間)はそれぞれ2年以内ですが、企業の状況や融資担当者の判断によって期間が変動することもあります。また、廃業歴がある場合には、運転資金の融資期間は15年以内となります。

また、融資を受ける事業が国民生活事業であるか、中小企業事業であるかによっても内容に違いがあります。詳しくはJFC 日本政策金融公庫 新規開業資金(再挑戦支援関連)/再挑戦支援資金をご覧ください。

3.女性、若者/シニア起業家支援資金

対象 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方のうち、女性または35歳未満か55歳以上の方
融資限度額 7200万円(うち運転資金4800万円、設備資金2400万円)
融資期間 運転資金は7年以内、設備資金は20年以内*

上記以外の融資条件として、融資を受けるためには原則担保や第三者による保証人の設定が必要になります。

新規開業資金と同様、*措置期間(元金の返済が発生せず、利息のみを支払う期間)はそれぞれ2年以内ですが、企業の状況や融資担当者の判断によって期間が変動することもあります。また、廃業歴がある場合には、運転資金の融資期間は15年以内となります。

性別や年齢制限をクリアすると融資を受けられるという点から、自由な起業を行いやすい制度と言えます。また、本制度についても新規開業資金と同じく自己資金の要件は設けられていません。これは国民生活事業である場合にのみ該当し、中小企業事業が対象となる場合は長期的資金として融資限度額が大幅に増加するなどの違いがあります。詳しくはJFC 日本政策金融公庫 女性、若者/シニア起業家支援資金をご覧ください。

融資申請の流れ【新創業融資制度】

融資にはさまざまな種類がありますが、本章では融資でも代表的な「新創業融資制度」の申請の流れについて解説します。

融資申請の流れ

1.融資の相談

融資を申請することはできても、必ずしも融資を受けられるというわけではありません。融資を受けられる可能性を高めたい場合は、専門的な支援期間を頼ることをおすすめします。

日本政策金融公庫では、電話での融資制度、申込手続きなどの問い合わせや、申込前のオンラインや支店窓口での相談も可能です。うまく活用して、できる限り不安を除いた状態で融資への申込みを行うのが理想的です。

2.融資への申込み

融資を受ける際に必要となる主な書類は以下です。必要書類の準備ができたら、開業の1〜3ヶ月ほど前までに融資の申込みを行うことができます。

なお、申込みに際しては借入申込書の記載も必要です。日本政策金融公庫のホームページから各種書式をダウンロードしておきます。

申込みは会社の本店所在地に近い日本政策金融公庫の支店にて行うことができます。

  • 創業計画書
  • 借入申込書
  • 見積書(設備資金の申込の場合のみ)
  • 資金繰り表
  • 履歴事項全部証明書または登記薄謄本(法人の場合)
  • 不動産の登記簿謄本または登記事項証明書(担保希望の場合)
  • 都道府県知事の「推せん書」または、生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」(生活衛生関係の事業を営む方のみ)
    ※借入申込金額が500万円以下の場合、都道府県知事の「推せん書」は不要
  • 運転免許証(両面)またはパスポート(顔写真のページおよび現住所等の記載のあるページ)のコピー
  • 許認可証のコピー(飲食店などの許可・届出等が必要な事業を営んでいる方)

それぞれの書類について解説していますが、場合によって必要な書類が変わる場合もあります。必ず受ける融資と自分の条件を踏まえて、JFC 日本政策金融公庫のページを確認してください。

創業計画書

事業を始めるにあたっての事業概略や資金の調達方法、事業の見通し等をまとめた書類のことです。日本政策金融公庫の各支店に直接出向くか、ホームページからダウンロードすることで入手できます。

記入例に関しては、「日本政策金融公庫 創業計画書【記入例】」をご覧ください。

借入申込書

借入を申し込むにあたって必要となる基本書類です。日本政策金融公庫の各支店に直接出向くか、ホームページからダウンロードすることで入手できます。

記入例に関しては「日本政策金融公庫 借入申込書記入例」をご覧ください。

見積書

設備資金の申込みを行う場合にのみ必要となる書類です。設備の購入予定先に見積書を作成してもらい、提出します。

資金繰り表

一定期間における企業・個人の現金の収入・支出を表にまとめたものです。会社における資金の流れをあらかじめ明確化しておき、管理するために作成します。日本政策金融公庫の各支店に直接出向くか、ホームページからダウンロードすることによって入手することができます。

履歴事項全部証明書または登記薄謄本

登記された会社の情報が記載された確認書類です。履歴事項全部証明書に記載された情報は、誰でも取得・閲覧が可能となっています。法務局の窓口から交付請求することにより入手できます。または、法務局のホームページからダウンロードすることも可能です。

不動産の登記簿謄本または登記事項証明書

不動産の担保を希望する場合にのみ必要となる書類です。法務局の窓口から交付請求する、あるいは法務局のホームページからダウンロードすることにより入手できます。

都道府県知事の「推せん書」または、生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」

生活衛生関係の事業を営む場合にのみ必要となる書類です。「振興事業に係る資金証明書」は各地域の生活衛生同業組合のホームページからダウンロードすることにより入手できます。また、都道府県知事の「推せん書」は、全国生活衛生営業指導センターに必要書類を提出することで推薦書交付願の受け取りが可能となり、それを提出することによって発行されます。

運転免許証(両面)またはパスポート(顔写真のページおよび現住所等の記載のあるページ)のコピー

本人確認を行うために必要となります。

許認可証のコピー

飲食店などの許可・届出等が必要な事業を営んでいる場合にのみ必要となります。飲食店などを営んでいるにも関わらず許認可証を保持していない場合には、行政庁の許認可を得ないまま業務を行ったということになり、法令違反で刑罰対象となるため必ず提出しましょう。

3.面談、現場調査

申込みから約1週間ほどで、融資の審査面談が行われます。審査時には、創業計画書の信憑性や開業者の人間性等を見られるため、融資を受ける理由を具体的に述べることが大切です。

現場調査とは審査担当者が事業の経営状況を見るために現地に赴くことです。行われない場合もありますが、すでに事務所や店舗を構えていた場合には調査されることが多いです。

4.融資の実行

融資審査に通過すると融資が実行され、着金するという流れになります。多くの場合、融資の実行までには約1ヶ月ほどかかります。

融資成功のためのポイント

融資を希望するにあたって行う面談の際、自身が営む予定の事業について話し合いを行いますが、起業後の事業の見通しに関して希望的観測にすぎない非具体的な内容が多かったり、事業計画の曖昧さが露呈してしまったりすると返済能力や返済計画に対する信用を得られなくなり、審査通過が難航する可能性が高いため、売上や利益が見込める根拠を具体的に提示することが大切です。

それに加えて、資金使途を明確化することでその必要性に説得力を持ちます。起業者側は資金をどのように使い、融資を受けることでどれほどの成長が見込めるのかを面談相手に具体的に説明する必要があります。

融資を受ける際に注意すべき3つの点

融資とは国や地方公共団体から資金を一時的に借りている状態であり、必ず返済の義務が発生します。融資を受ける際に留意すべきポイントを3つ解説します。

1.審査に通過して初めて融資が受けられる

日本政策金融公庫のみならず、自治体や金融機関、いずれの融資においても必ず審査が行われます。

審査に通過する確率は決して高くないため、はじめから融資を受ける前提でその後の事業計画を立ててしまうのは危険です。審査に通らず融資を受けられなかった、といった事態に陥らないためにも、相談窓口に相談して専門家の意見を仰いでおくなど、事前準備を怠らないようにすることが大切です。相談窓口に関しては、日本政策金融公庫 相談予約・融資相談・資料請求のページをご覧ください。

2.希望額の融資を受けられない可能性がある

申請の際には融資希望額を提出しますが、必ずしも希望額満額で審査が下りるとは限りません。希望額満額が下りずとも成立するような事業計画を事前に立てておく必要があります。

3.借入金額を余裕を持って返済できる計画性が必要

融資は借入金であるため、返済義務があるものです。ここで注意が必要なのが、借入金額そのままではなく、利息を含めた借入金額の返済が必要になるという点です。

融資を受けた後は、月々の売上から「融資額+利息の合計金額」を返済していくことになるのを頭に入れておく必要があるでしょう。

毎月の売上からは家賃、人件費、さまざまな経費に加え、税金も引かれます。事業計画を立てる時点で必要な支出を念頭に置いておき、無理のない返済計画を立てることが、その後の事業を逼迫させないためにも重要になります。

その他の2つの資金調達方法

資金の調達方法は、融資を受ける以外の選択肢もあります。ここでは、さらに2つの資金調達方法について紹介します。

1.助成金・補助金

助成金や補助金を利用して資金を調達することもできます。

助成金も補助金も、国や自治体の政策目標に合わせ、事業者をサポートするための制度です。融資とは異なり、特定の取り組みにかかった経費の一部を国や自治体が給付という形で支給する制度であるため、返済が不要であるという点が融資との大きな違いです。

経済産業省や厚生労働省が募集しているものが多くあります。経済産業省では起業促進や地域の活性化などを重視しており、中小企業向け補助金・総合支援サイトにまとめています。

厚生労働省ではキャリアアップや人材登用、採用などに特化した助成金・補助金が多いのが特徴です。詳しくは事業主の方のための雇用関係助成をご覧ください。

2.株主からの出資

出資とは、事業の成功を期待して、株主がお金を投資することです。

株主から出資を受ける最大のメリットは、返済の義務がないという点です。しかし株主には議決権(経営権)が発生します。また、利益が生じた際には配当金の要求、経営への関与が認められています。そのため、自社の出資額よりも株主の出資額の方が大きい場合、決裁権が株主に変わってしまい、思うように事業展開できなくなる可能性が生じます。闇雲に出資に頼り過ぎないよう注意が必要です。

よくある質問

Q1.会社設立時に活用できる融資はどのようなものですか?

会社設立時に活用できる融資は主に以下の2種類があります。

  • 創業融資
  • 制度融資

詳しくは会社設立時に活用できる融資の章をご覧ください。

Q2.会社設立時に利用可能な日本政策金融公庫の融資制度を教えてください。

以下の3つが会社設立時に利用可能です。

  • 新創業融資制度
  • 新規開業資金
  • 女性、若者/シニア起業家支援資金

詳しくは【創業融資】日本政策金融公庫において利用可能な融資制度をご覧ください。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

無料の会計ソフト「フリーウェイ」

このエントリーをはてなブックマークに追加