法定福利費とは?福利厚生費との違いや計算式、仕訳、建設業のルールも紹介

更新日:2024年04月10日

法定福利費とは

法定福利費とは、福利厚生費のうち法律などで会社に費用を負担することが義務付けられているもののことです。健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険が具体例として挙げられます。

本記事では、法定福利費の計算方法や、建設業におけるルールについて解説します。

目次

法定福利費とは

法定福利費とは、会社が福利厚生のために支出する費用のうち、法令および政令によって会社に費用負担が義務付けられている部分のことです。

法定福利費の保険料は、会社と従業員がそれぞれの負担割合に応じて支払います。法定福利費のうち、会社が負担する分の勘定科目は「法定福利費」です。

一方、従業員が負担する分は、会社が従業員の給与から天引きします。天引きした金額を処理する勘定科目は、「預り金」です。

なお、損益計算書において、法定福利費は「販売費及び一般管理費」に含まれます。

参考)預り金とは

参考)損益計算書とは

法定福利費の例

法定福利費の例は、以下のとおりです。

  • 健康保険
  • 介護保険
  • 厚生年金保険
  • 雇用保険
  • 労災保険

ここから、各保険の概要と保険料の負担割合について解説します。

健康保険

健康保険とは、被保険者である従業員やその家族が病気やけがをした際や、出産や死亡などの事態に備える公的な医療保険制度です。国民健康保険や後期高齢者医療制度を健康保険と呼ぶこともありますが、本記事では会社員や扶養家族などが加入する被用者保険のことを解説しています。

健康保険の運営主体(保険者)は、全国健康保険協会と健康保険組合の2種類です。全国健康保険協会による保険を、協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)と呼びます。

健康保険組合とは、被保険者が勤める会社や同種同業の会社が合同で設立する組合が管掌する保険です。これを組合管掌健康保険と呼びます。

協会けんぽの場合、事業主と被保険者の健康保険料の負担割合は半々です(任意継続被保険者は全額本人負担)。一方、健康保険組合の場合、事業主が2分の1以上を負担することがあります。

参考)全国健康保険協会「費用の負担」

介護保険

介護保険とは、所定の条件を満たす被保険者が、市区町村(保険者)が実施する要介護認定で介護が必要と認定された場合に、サービスを受けるための制度です。被保険者が居住する自治体(市区町村)が運営主体となります。

40歳以上の方は、被保険者として介護保険に加入しなければなりません。40〜64歳までの方が第2号被保険者、65歳以上の方が第1号被保険者に該当します。

介護保険サービスを利用できるのは、第1号被保険者が要介護状態もしくは要支援状態になった場合です。また、第2号被保険者が介護保険の対象となる特定疾病により介護が必要と認定された場合も、介護サービスを受けられます。

介護保険料の負担割合は、医療保険と同様に事業主と被保険者で半々です。健康保険に加入する第2号被保険者が負担する介護保険料は、健康保険料とまとめて徴収されます。

参考)厚生労働省「介護保険制度について(40 歳になられた方へ)」

厚生年金保険

厚生年金保険とは、従業員の老後の生活を支える目的で、老齢・障害・死亡に対して給付される保険制度です(運営主体:社会保険庁)。常時従業員を使用している会社に勤務する70歳未満の一定の方は、国籍・性別・年金の受給有無にかかわらず必ず厚生年金保険に加入します。厚生年金保険料について、事業主と被保険者の負担割合は半々です。

また、厚生年金保険には、老齢厚生年金・障害厚生年金・遺族厚生年金の3種類があります。老齢厚生年金は老齢になった際、障害厚生年金は病気やけがなどをした際、遺族厚生年金は厚生年金の被保険者が死亡した際に被保険者や遺族が受け取る年金です。

なお、かつて厚生年金保険とは別に公務員や私立学校教職員が加入する「共済年金」がありましたが、現在は厚生年金保険と一元化されました。

参考)日本年金機構「厚生年金保険の保険料」

雇用保険

雇用保険とは、労働者が失業した場合や雇用の継続が困難になった場合などに、必要な給付を受けるための保険制度です。労働者の生活や雇用の安定化、再就職の援助などが制度の主な目的とされています。事業主は、労働者をひとりでも雇っていれば、雇用保険に加入しなければなりません。

雇用保険の事業主負担割合は、年度や事業の種類によって異なります。

参考)厚生労働省「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」

労災保険

労災保険とは、労働者が業務上の事由や通勤で負傷したり、病気に見舞われたりした場合に、必要な給付を受けるための保険制度です。被災労働者の社会復帰を促進する事業もおこなわれています。

原則として、ひとりでも労働者を使用する事業者は労災保険に加入しなければなりません。また、労災保険の保険料はすべて事業主の負担です。

なお、雇用保険と労災保険をまとめて、「労働保険」と表現することがあります。

参考)厚生労働省「労災補償」

福利厚生費と法定福利費の違いとは?

福利厚生費とは、福利厚生を目的にして全員に平等に支出された費用の総称であり、法定福利費も福利厚生費に含まれます。別の言い方をすると、法定福利費は福利厚生費のなかで、法によって会社に費用負担が義務付けられている費用だけを指します。

たとえば、住宅手当や交通費、家族手当、結婚・出産祝い金などは、従業員の福利厚生を目的として会社が支出する費用ですが、法によって会社に費用負担が義務付けられているわけではないため、法定福利費ではなく福利厚生費として処理します。

また、福利厚生費は人件費に含まれます。

参考)人件費とは

法定福利費を計算する方法

法定福利費を計算する方法は、保険の種類によって異なります。ここから、各法定福利費の計算式や、計算例を確認していきましょう。

健康保険料の計算式・計算例

健康保険料の計算式は、以下のとおりです。

健康保険料 = 標準報酬月額(標準賞与額) × 健康保険料率

標準報酬月額とは、被保険者が毎月事業主から受け取る給料などの報酬を月額で区切りのよい幅で区分した金額で、標準賞与額とは税引前の賞与総額から千円未満を切り捨てた金額のことです。健康保険の標準報酬月額は、第1級(5万8千円)から第50級(139万円)までの全50等級で区分されています。基本給だけでなく、役付手当・勤務地手当・家族手当・通勤手当・住宅手当なども、標準報酬の対象です。

参考)標準報酬月額とは

健康保険料率は、協会けんぽと各健康保険組合で異なります。また、協会けんぽのなかでも、年度や各都道府県で異なることがある点に注意が必要です。

今回は、2023年3月分(4月納付分)、協会けんぽ(東京都)で、計算例を確認していきましょう。従業員の報酬月額は、26万5千円と仮定します。

協会けんぽで発表している表を確認すると、報酬月額26万5千円の標準報酬は20等級26万円です。2023年3月分(4月納付分)の健康保険料率は10%のため、健康保険料額は2万6千円と計算できます(260,000円 × 10%)。事業主と被保険者が折半するため、会社側の負担額は1万3千円です。

なお、計算しなくても、協会けんぽの「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」でも、ひと目で保険料額を確認できます。

参考)全国健康保険協会「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)」

介護保険料の計算式・計算例

従業員が40歳以上の場合、介護保険料を払わなければなりません。介護保険料の計算式も、保険料率以外は健康保険料の場合と同じです。

介護保険料 = 標準報酬月額(標準賞与額) × 介護保険料率

健康保険料のケースと同様に、2023年3月分(4月納付分)の協会けんぽ(東京都)で、従業員の報酬月額26万5千円で計算してみましょう。

報酬月額26万5千円の標準報酬は20等級26万円です。また、2023年3月分(4月納付分)の介護保険料率は1.82%のため、健康保険料額は4,732円と計算できます(260,000円 × 1.82%)。事業主と被保険者で折半して負担するため、会社側が負担する金額は2,366円です。

なお、協会けんぽの表を確認すれば、健康保険料と介護保険料をまとめた金額もわかります(「介護保険第2号被保険者に該当する場合」に該当)。

参考)全国健康保険協会「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)」

厚生年金保険料の計算式・計算例

厚生年金保険料の計算式は、以下のとおりです。

厚生年金保険料 = 標準報酬月額(標準賞与額) × 厚生年金保険料率

厚生年金保険料の標準報酬月額は、1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分類されます。また、厚生年金保険料の標準賞与額とは、健康保険料と同様に、税引前の賞与総額から千円未満を切り捨てた金額のことです。

厚生年金保険の保険料率は、2004年より段階的に引き上げられてきましたが、2017年9月で終了して以降、18.3%で固定されています。

報酬月額が26万5千円の従業員の厚生年金保険における標準報酬は、17等級26万円です。そのため、厚生年金保険料額は47,580円と計算できます(260,000円 × 18.3%)。厚生年金保険料も、事業主と被保険者で折半して負担するため、会社側の負担額は23,790円です。

参考)日本年金機構「令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和5年度版)」

雇用保険料の計算式・計算例

雇用保険料の計算式は、以下のとおりです。

雇用保険料 = 1年間に従業員に支払う賃金総額 × 雇用保険料率

雇用保険料率や労働者負担額・事業主負担額は、事業の種類と年度で異なります。2023年度の場合、一般の事業における雇用保険料率は労働者負担分が0.6%、事業主負担分が0.95%で、合計1.55%です。

1年間に従業員に支払った賃金総額が500万円と仮定すると、雇用保険料は77,500円と計算できます(5,000,000円 × 1.55%)。そのうち会社側で負担する金額は、47,500円です(5,000,000円 × 0.95%)。

参考)厚生労働省「令和5年度雇用保険料率のご案内」

労災保険料の計算式・計算例

労災保険料の計算式は、以下のとおりです。

労災保険料 = 1年間に従業員に支払う賃金総額 × 労災保険料率

労災保険料率は、雇用保険料率以上に事業別で細かく分類されています。業種によってリスクが異なる点が、労災保険料率に大きな幅がある理由です。たとえば、金融業・保険業・不動産業は労災保険料率が2.5%であるのに対し、林業は60%と高めに設定されています。

小売業(労災保険料率3%)を営む会社で、1年間に従業員に支払った賃金総額が500万円と仮定すると、労災保険料は15万円と計算できます(5,000,000円 × 3%)。労災保険料は事業主が全額負担するため、会社側が納付する金額も15万円です。

なお、1年間で従業員に支払う賃金総額に、雇用保険料率と労災保険料率を足した数字をかければ、労働保険料を計算できます。

参考)厚生労働省「労災保険率表」

法定福利費を仕訳する方法

法定福利費を仕訳する方法や仕訳例を、従業員の給与から天引きする際と保険料を納付する際に分けて、解説します。従業員に給与を26万円支払い、そのうち2万6千円を健康保険料として納付しなければならないケースで確認していきましょう。

従業員の給与から天引きする際の仕訳例

納付すべき健康保険料が2万6千円のため、従業員はその半分の1万3千円を負担しなければなりません。そこで、会社側が従業員負担分を給与(26万円)から天引きします。

仕訳例は、以下のとおりです。

借方 貸方
給与 260,000円 普通預金 247,000円
預り金 13,000円

従業員に支払う「給与」26万円を借方、給与を支払う「普通預金」を貸方に計上しました。また、従業員が負担する金額を「預り金」として貸方に計上しました。

保険料を納付する際の仕訳例

給与から天引きした従業員負担分の健康保険料と、会社が負担する分の健康保険料を一緒に納付する際(合計2万6千円)の仕訳例は、以下のとおりです。いずれも、普通預金から出金すると仮定しています。

借方 貸方
法定福利費 13,000円 普通預金 26,000円
預り金 13,000円

会社が負担する分の金額(1万3千円)を「法定福利費」として借方に計上し、従業員負担分としてすでに天引きして「預り金」として計上していた分も今度は借方に計上します。また、普通預金から保険料を納付する分の金額を出金しているため、「普通預金」を貸方に計上しています。

建設業は見積書へ法定福利費の明示が必要

一般的に、建設業で下請企業が元請企業に対して見積書を提出する際に、法定福利費を内訳として明示しなければならないとされています。基本的に、従業員本人が負担する分は内訳表示に含めません。

従来、建設業ではトン単価や平米単価による見積が一般的で、法定福利費の扱いが不明瞭でした。内訳明示する習慣が広がれば、法定福利費がどのように扱われているかわかります。その結果、下請企業が社会保険の加入に必要な金額を確保できるようになるでしょう。

なお、法定福利費を内訳明示した見積書を作成することは法律上の義務ではありません。しかし、下請人が作成した見積書に法定福利費相当額が明示されているにもかかわらず、法定福利費相当額を一方的に削減した元請人は建設業法違反を問われる可能性があります。

参考)国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」

建設業で見積書を作成するまでの流れ

建設業で見積書を作成するまでの流れは、以下のとおりです。

  • 内訳を確認して労務費を計算
  • 労務費から法定福利費を算出
  • 見積書に法定福利費を明示

各手順ですべきことを、ここから解説します。

内訳を確認して労務費を計算

見積書の内訳が実情にあっているかなどを確認します。原則として、現場労働者の健康保険・介護保険・厚生年金保険・児童手当拠出金・雇用保険のうち、事業主負担分が内訳明示する法定福利費の範囲です。

続いて、工事ごとに労務費を算出します。主な労務費の計算式は以下のとおりです。

労務費 = 所要人工数 × 平均日額

労務費 = 工事価格 × 平均的な労務費比率

なお、労務費を計算する際に用いる計算式は、各団体によって異なることがあります。

労務費から法定福利費を算出

計算した労務費に所定の比率をかけることで、法定福利費を計算します。健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・児童手当拠出金・雇用保険料の事業主負担割合を労務費にかけて、法定福利費を計算しましょう。法定福利費の種類によって、事業主負担割合や保険料率が異なるため、注意が必要です。

たとえば、2023年の雇用保険料率(事業主負担)は1.15%のため、労務費が40万円であれば、内訳表示する法定福利費(雇用保険料)は4,600円と計算できます。

見積書に法定福利費を明示

計算した法定福利費を見積書に明示します。材料費・労務費・経費の下に、「法定福利費」を明示する欄を設けましょう。

参考)経費とは

以下のように、保険料の種類・保険料率・対象金額・法定福利費を記載することがポイントです。

保険料の種類 保険料率(事業主負担分) 対象金額(労務費) 法定福利費
雇用保険料 1.15% 400,000円 4,600円

各保険料を記載したら、合計額も記載します。

参考)国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」

法定福利費まとめ

法定福利費とは、会社が福利厚生のために支出する費用のうち、法令および政令によって会社に費用負担が義務付けられている部分のことです。健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・労災保険料のうち、会社負担分が該当します。

法定福利費を計算する際は、各法定福利費の保険料率や事業主負担割合を確認することがポイントです。毎年数値を確認し、正しく計算しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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