税効果会計とは何か?必要性や手順、差異についての解説

更新日:2022年09月13日

税効果会計

企業会計における利益の計算方法と税務会計における所得の計算方法はそれぞれ異なるため、計算結果にずれが生じます。このずれを調整し、適度に分配することが「税効果会計」です。具体的には、当期純利益から法人税等を差し引き、会計上の利益として適切な税額が適用されるように、企業会計と税務会計を調整します。では、なぜ税効果会計は必要なのでしょうか。今回は、税効果会計の必要性について、税効果会計の手順や適用するメリット、注意点などとともに解説します。

税効果会計の導入の背景

1997年ごろまで税効果会計の適用は任意でした。当時、税効果会計を適用していない企業では、計上のタイミングの違いで生じた差異の影響で損益計算書の当期純利益が乱高下することが多発し、実際の業績を正しく反映できないことが問題となっていました。損益計算書に正しく業績を反映できなければ、投資家や金融機関に正しく財務状態を理解してもらえません。このような不具合を減らすために、税効果会計が導入されました。

税効果会計の必要性

税効果会計が必要とされている理由は、企業会計上の利益と法人税法上の所得の不一致が生じ、税引後の当期純利益が正しく算出されないことを防止するためです。企業会計上の利益は収益から費用を差し引いて算出され、法人税法上の所得は益金から損金を差し引いて算出されます。計算に用いる値が異なるため、計算結果は当然異なります。このときに利益と所得の乖離が大きくなってしまうと、当期純利益を算出する際に大きなずれが生じます。税効果会計は、算出方法の違いによる計算結果のずれを修正する方法です。税効果会計を導入することで、正確な当期純利益を反映できます。

税効果会計を適用するメリット

税効果会計を適用すれば、実際の業績を正しく表示できるようになるだけではなく、損益計算書による当期純利益が導入以前よりも見やすくなります。

さらに、税効果会計を適用することで純資産が増加するという効果もあります。なぜなら、税効果会計を適用すると多くのケースで繰延税金資産が発生するからです。純資産が増えると会社の評価が高くなり、投資家や金融機関から融資を受けやすくなるなど、多くのメリットがあります。

このように、税効果会計を導入すると、法人税申告書を閲覧できない企業外部の利害関係者にも正確な業績を提示でき、これにより多くのメリットを得られます。

税効果会計の対象となる企業

税効果会計は、全企業に導入が義務づけられているわけではなく、対象となる企業が定められています。税効果会計の対象となる企業は以下の通りです。

  • 上場企業
  • 会計監査人を設置している非上場企業
  • 金融商品取引法の適用を受ける非上場企業

以上の企業は税効果会計が義務付けられているため、導入が必須です。一方、非上場企業かつ会計監査人を設置していない中小企業は税効果会計の義務はなく、適用は任意とされています。現在の会計状況から、必要と判断した場合は導入するとよいでしょう。

参考:企業会計基準委員会「税効果会計に係る会計基準の適用指針

税効果会計の対象に含まれる税金

税効果会計には、対象に含まれる税金と含まれない税金が明確に分けられています。ここからは、対象となる税金と対象ではない税金をそれぞれご紹介します。

まず、税効果会計の対象に含まれる税金は以下の通りです。

  • 法人税
  • 均等割額を除く住民税
  • 利益を課税標準とする事業税(所得割)または地方法人特別税

一方で、税効果会計の対象に含まれない税金は以下の通りです。

  • 住民税均等割額
  • 収入を課税標準とする事業税
  • 外形標準課税の事業税(付加価値割や資本割)
  • 固定資産税
  • 事業所税
  • 過少申告課税や重加算税等の罰科金

このように、利益に関する金額を課税対象とする税金のみが税効果会計の対象となります。

税効果会計の2種類の方法

ここまで、税効果会計の必要性や対象となる企業、税金についてご紹介しました。では、税効果会計にはどのような方法があるのでしょうか。税効果会計の方法は、「資産負債法」と「繰延法」の2種類があります。ここからは、それぞれの概要について詳しく見ていきましょう。

①資産負債法

「資産負債法」とは、会計上の資産(または負債)の額と、課税所得計算上の資産(または負債)の額との間に生じた差異を解消する方法です。繰延税金資産、または繰延税金負債を計上することで解消します。 資産負債法では、会計上税法上の差異を、資産または負債の金額の違いに着目して計上します。このとき適用される税率は、差異を解消できる年度のものです。このように、資産負債法は会計上と税法上の差異を解消する年に、その年の税率に基づいて繰延税金資産あるいは繰延税金負債を計上する方法が資産負債方です。

②繰延法

「繰延法」とは、会計上の収益(または費用)と税務上の益金(または損金)の額との間に生じた差異を解消する方法です。差異が解消する年度まで、繰延税金資産または繰延税金負債を計上することで解消します。 資産負債法は資産と負債に着目することに対し、繰延法は収益と費用に着目します。また、税率は差異が生じた年度のものが採用されます。このように、会計と税法で生じた差異の収益と費用に着目し、差異が解消するまで繰延税金資産または繰延税金負債として決算期に毎回計上する方法が繰延法です。

参考:企業会計基準委員会「税効果会計に係る会計基準の適用指針

税効果会計の対象となる差異

企業会計と税務会計の計上するタイミングの違いで生じた差異には、「一時差異」と「永久差異」の2つがあります。税効果会計の対象となる差異は一時差異のみです。

一時差異のうち税効果会計の対象となる差異は以下の通りです。

  • 将来減算一時差異
  • 将来加算一時差異
  • 永久差異

ここからは、それぞれの差異について詳しく見ていきましょう。

将来減算一時差異

「将来減算一時差異」とは、一時差異のうち、当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を減額できる一時差異のことです。

将来減算一時差異に該当する一時差異としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 棚卸資産評価損の損金不算入額
  • 退職給付引当金
  • 貸倒引当金等の引当金の損金不算入額、減価償却費の償却限度超過額
  • 資産または負債の評価替えで生じた評価差損
  • 連結会社相互間の取引で生じた未実現利益を消去した際 など

将来加算一時差異

「将来加算一時差異」とは、一時差異のうち、当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を増額できる一時差異のことです。

将来加算一時差異に該当する一時差異としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 圧縮積立金
  • 特別償却準備金などの利益処分で計上された、租税特別措置法上の準備金
  • 資産または負債の評価替えで生じた評価差益
  • 連結会社相互間の債権及び債務の消去で貸倒引当金を減額した場合 など

永久差異

「永久差異」とは、将来においても解消されない差異です。税引前当期純利益の計算時に、費用または収益として計上されているが、課税所得の計算上は永久に損金または益金に算入されない経費を指します。永久差異に該当する項目は、将来減算一時差異や将来加算一時差異のように将来的に課税所得の計算で減算または加算できないため、一時差異には含まれません。前述のとおり、税効果会計に含まれるものは一時差異のみであるため、永久差異は税効果会計の対象ではありません。

永久差異としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 交際費等の損金不算入額
  • 受取配当金の益金不算入額
  • 損金不算入の罰科金 など

税効果会計の手順

税効果会計の基本的な手順は以下の通りです。

  1. 一時差異を算出する
  2. 繰延税金資産や繰延税金負債を算出する
  3. 法定実効税率を算出する
  4. 回収の可能性について検討する
  5. 税効果会計の仕訳処理する

ここからは、それぞれの手順について詳しく解説します。

①一時差異を算出する

まずは、会計上の利益と税法上の損益から一時差異を算出します。会計上と税法上の差異は、一時差異と永久差異のどちらでも生じます。しかし、前述のとおり税効果会計は将来的に加算または減算が見込まれる一時差異のみにしか適用がありません。そのため、まずは将来減算一時差異と将来加算一時差異の一時差異のみを算出して集計してください。

②遅延税金資産や繰延税金負債を算出する

次に、繰延税金資産や繰延税金負債を算出します。繰延税金資産とは将来減算一時差異のうち、将来の課税所得から減算される額を資産として計上する額を指します。繰延税金資産や繰延税金負債は、将来減算一時差異または将来加算一時差異それぞれに法定実効税率を乗じて算出しましょう。

③法定実効税率を算出する

次に、法定実効税率を算出します。

法定実効税率とは、法人税や事業税、住民税などの表面税率を用いて算出される税率のことです。法定実効税率は、具体的に以下の計算式で算出します。

▼法定実効税率の計算式

法定実効税率=法人税率×(1+住民税率)+(事業税率+事業税標準税率+地方法人特別税率)÷1+(事業税率+事業税標準税率+地方法人特別税率)

法定実効税率を算出できたら、②の繰延税金資産や繰延税金負債も算出してください。

④回収の可能性について検討する

次に、回収の可能性について検討します。回収の可能性は資産性と同義です。回収可能なものがあれば、将来的に見込まれる税金を減額できます。差異を解消する際に、十分な課税所得が発生するかの判断項目として以下の3点を確認すると良いでしょう。

  • 収益力に基づいた課税所得の十分性があるか
  • タックスプランニングはあるか
  • 将来加算一時差異の十分性はあるか

上記の3点を確認し、回収の可能性について慎重に検討しましょう。

⑤税効果会計の仕訳計上をする

最後に、税効果会計の仕訳計上をします。仕訳は将来減算一時差異と将来加算一時差異それぞれで行います。それぞれの仕訳例は以下の通りです。

将来減算一時差異の仕訳

借方 貸方
繰延税金資産(B/Sの資産) 40 法人税等調整額(P/Lの収益) 40

上の例の差異が解消された場合は、以下のように仕訳をします。

借方 貸方
法人税等調整額(P/Lの収益) 40 繰延税金資産(B/Sの資産) 40

※B/Sは「貸借対照表」、P/Lは「損益計算書」の略称です。

将来加算一時差異の仕訳

借方 貸方
投資有価証券 2,000
その他有価証券評価差額金 800
その他有価証券評価差額金 2,000
繰延税金負債 800

税効果会計を適用する際の注意点

税効果会計は適用することでさまざまなメリットがありますが、一方で適用において以下の注意点があることも覚えておきましょう。

  • 繰延税金資産
  • 繰延税金負債
  • 法人税等調整額

それぞれの注意点について詳しく見ていきましょう。

遅延税金資産

「繰延税金資産」とは、税金を前払いしている場合に計上する勘定科目です。繰延税金資産を計上する際には、借方に「繰延税金資産」、貸方に「法人税等調整額」の勘定科目を入れて仕訳します。ただし、繰延税金資産はあくまでも税金を前払いしていると考えられる場合にのみ計上するものです。また、税効果会計を適用しない場合は不要な処理であるため、税効果会計を適用して税金の前払いが考えられる場合は、忘れずに計上しましょう。

繰延税金負債

「繰延税金負債」とは、会計上の利益を税金計算上の益金と一致させる際に計上する勘定科目です。繰延税金負債を計上する機会は多くはないものの、固定資産の圧縮記帳に記録する圧縮積立金や、投資有価証券の評価益などを計上する際に必要な勘定科目です。差異が生じているタイミングで仕訳をする際の繰延税金負債は、貸方に記録します。一方で、差異が解消した場合の仕訳では、繰延税金負債を借方に記録して差異を解消します。

法人税等調整額

「法人税等調整額」は損益計算書の勘定科目の一つです。一時差異を解消するために計上します。法人税等調整額はプラスにもマイナスにもなることがあるため、法人税等調整額の加減算を通じて一時差異を解消できます。法人税等調整額を使った一時差異の解消方法は、繰延税金資産額から繰延税金負債額を期首に差し引いた後、増減額を法人税等調整額で加減する手順です。税効果会計において、損益計算書上の調整に必要不可欠であるため、法人税等調整額についても覚えておきましょう。

税効果会計まとめ

企業会計と税務会計にはほとんどのケースで差異が生じます。差異には将来的に加算または減算が見込める「一時差異」と、永久的に加減が見込めない「永久差異」の2種類があり、このうち一時差異は税効果会計を適用することで企業会計と税務会計上の差異の不一致を解消することができます。また、税効果会計の適用は、上場企業や会計監査人を設置している非上場企業は義務化されていますが、非上場企業の中小企業は任意です。義務化されている企業や義務化されてはいないものの税効果会計を適用したい企業は、税効果会計の手順や対象となる税金について把握し、正確に仕訳できるようにしましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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