損益分岐点とは?計算式と改善方法について簡単に解説

更新日:2024年02月29日

損益分岐点とは

損益分岐点とは、赤字でも黒字でもなく「営業利益がゼロ」になる売上高のラインを指しており、家賃や人件費などの経費を売上高から引いた数値がゼロであることを示します。「BEP(Break Even Point)」や「損益分岐点売上高」とも呼ばれています。

売上が損益分岐点を下回っている場合には「赤字経営」、上回っている場合には「黒字経営」と判断することが可能です。そのため、損益分岐点は、最低限でも達成すべき売上の目標とも考えられます。

今回は、損益分岐点の計算方法、改善方法について詳しく解説します。

目次

損益分岐点の計算式

損益分岐点は、利益と経費がゼロになるときの売上高を指します。以下の計算式から算出できます。

損益分岐点=固定費÷(1-変動費÷売上高)

損益分岐点=固定費÷限界利益率

限界利益率とは、売上高から変動費を引いた限界利益を売上高で割った数字を指します。詳しくは後で解説します。

▼損益分岐点の計算例

家賃や通信費、人件費などの固定費が500万円、原材料費や水道光熱費などの変動費が200万円かかるとします。売上高が1,000万円になった場合の限界利益率は、0.8%です。これらの数値を計算式に当てはめると、以下のようになります。

  • 400万円÷(1-200万円÷1,000万円)=500万円
  • 400万円÷0.8%=500万円

損益分岐点は500万円となります。

費用の分類~固定費用と変動費~

損益分岐点の計算式でも用いられているとおり、費用には「固定費」と「変動費」という分け方があります。

固定費とは

固定費は、不変費とも呼び、売上にかかわることなく毎年・毎月決まった額がかかる費用のことです。事業を運営するうえで、製造数や販売数などにかかわらず、家賃や人件費は継続的に発生します。このように必ず発生する費用を固定費といいます。固定費には、以下のような費用が含まれます。

  • オフィスの家賃
  • 倉庫や工場の家賃
  • 経営に関わる従業員の人件費
  • リース料
  • インターネットや電話回線などの通信費
  • 加入している保険料
  • 借入金の利子
  • 広告宣伝費
  • 固定資産税 など

変動費とは

変動費は、可変費とも呼び、売上の増加や減少に比例して変動する費用のことです。

例えば、製造業において、製品の売れ行きがよくなれば、その分多くの製品を製造して販売するため、原材料や加工費が増加します。このように売上次第で変動する費用を変動費といいます。変動費には、以下のような費用が含まれます。
  • 原材料費
  • 加工費
  • 仕入原価
  • 水道光熱費
  • 外注費
  • 支払運賃
  • 販売手数料 など

参考)固定費と変動費の違いとは

限界利益率とは

限界利益率とは、損益分岐点売上高を計算する際に必要となる数値で、実際の売上が増減することで、どの程度限界利益が変動するのかを表します。限界利益率は次の計算式で算出できます。

限界利益率=限界利益÷売上高

限界利益率の計算に使用する「限界利益」とは、損益分岐点販売量を計算する際に必要となる数値で、実際の売上から変動費を引いた数値のことを意味します。限界利益は次の計算式から算出できます。

限界利益=売上-変動費

▼限界利益の計算例

売上が600万円、変動費を200万円とした場合の限界利益は、以下のとおりです。

  • 600万円-200万円=400万円

次に、限界利益を用いて限界利益率を求めます。

  • 400万円÷600万円=0.66

別のケース例として、実際の売上が900万円、変動費を200万円とした場合は以下のように算出できます。

  • 900万円-200万円=700万円
  • 700万円÷900万円=0.77

限界利益率が高い数値になるほど、経営状態がよいと判断できます。

参考)限界利益率とは

損益分岐点販売量の計算式

損益分岐点は、一般的には「損益分岐点売上高」を指しますが、そのほかにも「損益分岐点販売量」という概念があります。損益分岐点販売量とは、利益と経費が同じ額になり、損益がゼロになる販売数量のことです。以下の計算式で算出できます。

損益分岐点販売量=固定費÷(販売単価-1個あたりの変動費)

損益分岐点販売量=固定費÷1個あたりの限界利益率

▼損益分岐点販売量の計算例

仕入単価が1個500円の商品を1個1,000円で販売した場合、1個あたりの限界利益は500円です。そして、家賃や通信費、人件費を合わせた経費が500万円になる場合の損益分岐点販売量は、以下のように算出します。

  • 500万円÷(1,000円-500円)=10,000個
  • 500万円÷500円=10,000個

黒字にするには、10,000個以上の販売数量を目指す必要があります。

損益分岐点の改善方法

損益分岐点を改善するには、利益を得やすい環境をつくる必要があります。主な改善方法には、大きく「固定費や変動費を下げる」「売上を伸ばす」の2つがあります。

ここでは、これらの方法について解説します。

固定費を見直す

固定費は、売上に関係なく、一定額が毎年・毎月かかるため、売上が下がったときに経営を圧迫する原因となってしまいます。

固定費を見直して経費を削減できれば、損益分岐点を下げられます。まずは自社の固定費をリストアップして、削減できる箇所を見つけることがポイントです。

固定費を削減する方法として、以下が挙げられます。

  • オフィスを家賃の低い場所に移転させる
  • オフィスを縮小して家賃を下げる
  • オフィスでの節水や節電をする
  • インターネットのプロバイダを変更する
  • 各種保険のプランや金額を見直す など

変動費を見直す

変動費は売上に比例するため、売上が上がるほど高くなります。変動費を削減できた場合、得られる利益の幅が大きくなるため、損益分岐点の改善に有効な施策といえます。

ただし、ただ闇雲に変動費を下げればよいという訳ではありません。以下のような方法で安易に変動費を下げてしまうと、商品・サービスの品質低下を招く恐れがあるため注意が必要です。

  • 仕入単価を安くする
  • 材料を安いものに変える
  • 加工費を安くする など

定期的に材料費を見直すことは大切ですが、品質を低下させない範囲にとどめ、直接品質に影響が出ないように変動費を調整することがポイントです。品質に影響が出にくい項目には、以下のようなものが挙げられます。

  • 節水や節電をする
  • 不良在庫や過剰在庫を防ぐ
  • 宣伝方法を変える など

売上をのばす

固定費や変動費を下げることばかりに重点を置きがちですが、売上を伸ばすことで損益分岐点を下げることも、経営改善には効果的です。

さまざまなモノの値段が高騰している現状では、品質を落とさないで変動費を下げることには限界があります。また、水道光熱費が値上がりすると、節水・節電をしていても固定費を大幅に下げることは難しいでしょう。

売上を伸ばすには、以下のような方法が考えられます。

  • 商品・サービスの値上げ(品質向上・価値向上によるもの)
  • 新規顧客の獲得
  • リピーターの獲得 など

損益分岐点分析を繰り返す

損益分岐点は、赤字から黒字に分岐する数値や、商品の販売数がどの程度あれば黒字になるのかなど、さまざまな数値から経営状況を分析できます。

経営状態に合わせて事業計画やコストの見直しをするために、定期的に損益分岐点を計算して経営状況を把握することが重要です。

損益分岐点を活用した他の指標

収益性を判断する指標には、ほかにも「損益分岐点比率」「安全余裕率」ここからは、それぞれの意味や計算式について紹介します。

損益分岐点比率とは

損益分岐点比率とは、実際の売上高と損益分岐点売上高との差を意味しており、損益分岐点比率を算出すると、経営状態を把握できます。

例えば、損益分岐点比率が30%の場合には、損益分岐点売上高が実際の売上高の30%であるということです。

損益分岐点比率は、以下の計算によって算出できます。

損益分岐点比率=損益分岐点売上÷実際の売上×100(%)

▼例

実際の売上が600万円、損益分岐点売上を500万円とした場合の損益分岐点比率は以下のとおりです。

  • 500万円÷600万円×100(%)=83.3%

実際の売上が900万円、損益分岐点売上を500万円とした場合は以下のようになります。

  • 500万円÷900万円×100(%)=55.5%

このように、実際の売上が上がればその分損益分岐点比率は下がるため、低い数値であるほど経営状態がよいといえます。一般的には、80%を下回っていることが望ましいといわれており、100%を超えると赤字を意味します。

安全余裕率とは

安全余裕率とは、実際の売上と損益分岐点との差を表す比率です。売上が損益分岐点をどの程度上回っているのかを求められます。このとき、実際の売上は100%と考えます。計算式は、以下のとおりです。

安全余裕率=(実際の売上-損益分岐点売上)÷実際の売上×100(%)

実際の売上が600万円、損益分岐点売上を500万円とした場合の安全余裕率は、以下のとおりです。

  • (600万円-500万円)÷600万円×100(%)=16.6%

これは、今の売上から約16.6%売上が下がると赤字に転落することを意味します。次に、損益分岐点売上高500万円、実際の売上が900万円とした場合を見てみましょう。

  • (900万円-500万円)÷900万円×100(%)=44.4%

こちらのケースでは、今の売上から約44.4%まで売上が下がると赤字になることを意味しています。

このように、実際の売上が上がれば、その分安全余裕率も上がるため、数値が高いほど経営状態がよいといえます。

参考)安全余裕率と損益分岐点比率

損益分岐点を超えても安心はできない

企業が安定した事業を運営するには、経営状態を「黒字経営」にすることが必要です。そういった意味で、売上が損益分岐点を超えるのは重要なことですが、それだけでは安心できません。なぜなら、会社の倒産リスクが高まるのは財務の健全性が損なわれた時だからです。分かりやすく表現すると、支払いに充てるお金が不足したときに、会社は倒産します。黒字でもキャッシュが足りなくなり倒産することを「黒字倒産」と呼びますので、興味があれば参考記事を読んでみてください。

参考)黒字倒産とは

損益分岐点まとめ

損益分岐点は、赤字でも黒字でもなく、実際の売上と固定費・変動費を引いた数値がゼロの状態を指します。損益分岐点を知ることで、どの程度の売上を得れば黒字経営になるのかを把握できるようになり、事業計画や予算策定などに役立てられます。

また、経営状況を判断するにあたって、ほかにも損益分岐点販売量や損益分岐点売上高などのさまざまな指標があります。これらの指標を、必要経費の見積もりや予算調整などに活用してみてください。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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