預り金とは~仕訳、納付、含まれるものについて~

更新日:2024年01月19日

預り金

預り金とは、本来、役員・従業員・取引先などが負担する金銭を一時的に会社や個人事業者が預かっている金銭のことです。たとえば、給料から差し引いた住民税や源泉所得税などの税金、社会保険料が預り金に当たります。預り金は、流動負債に分類される勘定科目で、給料計算でよく使われます。本記事では、預り金の仕訳、預り金に分類されるものや間違えやすい科目、納付について解説します。

預り金の仕訳その1~給料・報酬に関する内容~

前章までは、預り金の概要や間違えやすい勘定科目、納付について触れてきました。預り金は、給料計算の際によく使われる勘定科目です。この章では、給料や報酬に関する仕訳例を解説します。

仕訳例① 給料を支払った場合

例:従業員の給料400,000円から源泉所得税20,000円と住民税15,000円を預かり、残りを現金で支給した場合

借方 貸方
給料 400,000円 預り金(源泉所得税等) 20,000円
預り金(住民税) 15,000円
現金 365,000円

給料を支給する際、従業員が負担する源泉所得税を差し引きます。従業員から預かった源泉所得税は、預り金として負債に該当するため、貸方に記入します。

仕訳例② 源泉所得税・住民税を納付する場合

例:従業員から預かった源泉所得税20,000円と住民税15,000円を、現金で税務署に納めた場合

借方 貸方
預り金(源泉所得税) 20,000円 現金 35,000円
預り金(住民税) 15,000円

負債である「預り金」が減少すると考えるため、仕訳では借方に記入します。

仕訳例③ 税理士に報酬を支払った場合

例:個人の税理士に、報酬200,000円で税務処理を依頼した場合、源泉所得税20,000円を預かり、残りを普通預金から振り込んだ

借方 貸方
支払報酬 200,000円 預り金(源泉所得税等) 20,000円
普通預金 180,000円

役員や従業員以外にも、個人の税理士・司法書士・弁護士などに報酬を支払った場合には、源泉所得税を差し引きます。

預り金の仕訳その2~外注費の支払い、営業保証金~

この章では、給料計算以外の預り金の仕訳例について、取引先に外注費を払った場合と、営業保証金を預かった場合の2つをご紹介します。

仕訳例① 取引先に外注費を支払った場合

例:個人のプログラマーにデザイン料200,000円で依頼した。源泉所得税20,000円を預かり、残りを普通預金から振り込んだ場合

借方 貸方
外注費 200,000円 預り金(源泉所得税等) 20,000円
普通預金 180,000円

外注先が個人の場合には、預り金として、源泉所得税を差し引きます。

仕訳例② 取引を開始するために営業保証金を預かった場合

例:新たに取引を開始するために、短期の営業保証金を100,000円を預かった場合

借方 貸方
普通預金 100,000円 預り金(営業保証金) 100,000円

保証金を預かった場合は、貸方に記帳して負債に計上します。

預り金には補助科目を設定すると便利

詳しくは後で解説しますが、預り金にはさまざまな取引が含まれます。また、預り金の支払い先や支払い時期は、それぞれ異なるのが現状です。そのため、預り金を管理しやすくするには、補助科目を設定することをオススメします。たとえば、貸借対照表に記載する際は、「預り金(源泉所得税)」としたり、貸方に「預り金」と表記し、摘要に「源泉所得税」と補助科目を追記したりします。実際に貸借対照表へ表記する方法は、前述の仕訳を参照してください。

預り金に含まれるもの

預り金に該当する項目には下記のようなものがあります。

  • 住民税
  • 源泉所得税
  • 社会保険料
  • 雇用保険料
  • 社員旅行積立金
  • 社宅家賃
  • 社内預金
  • 財形貯蓄の積立金
  • 預かり保証金
  • 営業保証金

住民税や源泉所得税などの税金および社会保険料や雇用保険料などは、税務署などに納付するために、給料からあらかじめ天引きされています。社内旅行のために積み立てる「社員旅行積立金」も、給料から天引きされる項目です。従業員や役員が給料から貯蓄する社内預金、財形貯蓄の積立金なども預り金です。また、「営業保証金」とは、これまで取引の実績がない取引先から預かる保証金のことで、短期の営業保証金も預り金に該当します。

預り金と間違えやすい勘定科目4つ

預り金には、よく似ていて間違えやすい勘定科目がいくつかあります。「貸方」「立替金」「前受金」「仮受金」などがあげられます。それぞれの勘定科目と預り金では、どのような違いがあるのかを見てみましょう。

①預り金と預け金の違い

「預け金」は、会社や個人事業者が役員・従業員・取引先などに一時的に預けている金銭のことです。 預け金は返還されるもので、貸借対照表の資産の部に含まれ、流動資産に区分されます。 。 たとえば、電子マネーをチャージしたお金、資金運用を委託する場合の資金などが預け金です。電子マネーはチャージした時点では、支払いは完了していないため、費用として処理できません。預け金として流動資産に仕訳します。「預り金」と「預け金」は名称もよく似ています。預り金と預け金は、対で考えられる勘定科目です。預り金が負債であることに対し、預け金は資産であり、流動資産に区分されます。預り金は、会社や個人事業者が他者から預かっている金銭に使う勘定科目です。一方、預け金は、会社や個人事業者が役員・従業員・取引先などの他者に預けている金銭という点で異なります。

②預り金と立替金の違い

「立替金」は、その名の通り、会社や個人事業者が立て替えた金銭のことです。役員・従業員・取引先が負担すべき代金を、他者に替わって会社や個人事業者が先に支払った場合に使う勘定科目です。 たとえば、従業員が出張中に利用した私的なタクシー代を立て替えた場合、取引先の交通費を立て替えた場合などは、立替金に該当します。預り金と立替金は、役員・従業員・取引先などが金銭を負担する点では同じです。預り金は負債に含まれることに対し、立替金は他者から返済される金銭のため、会社や個人事業者の「資産」に含まれます。立替金は、一時的に会社や個人事業者が支払った金銭のため、本来支払うべき従業員や取引先から返済される必要があります。

参考)立替金とは

③預り金と前受金の違い

前受金は、商品やサービスを提供する前に受け取る代金のことです。「手付金」や「内金」などとも呼ばれる前受金は、代金の一部のみが支払われている場合にも該当します。

前受金は、入金される際に、内容が明確な場合の仕訳に使われます。前受金を受け取った時点では、商品やサービスの提供が完了していないため、貸借対照表の負債の部に含まれる勘定科目です。たとえば、不動産を売買した際に手付金として受領した代金や、人気の商品を予約する際に一部支払われた代金が、前受金にあたります。

また、コンサルティングのような無形のサービスで、依頼されたプロジェクトが完了する前に受領した着手金や手付金も前受金です。取引が中止された場合には、会社や個人事業者は入金された代金を返金します。預り金は、商品やサービスの提供には関係なく、損益に影響しません。これに対し、前受け金は、商品やサービスの提供が完了したあとに、売上高に振り替えるという点が違います。

参考)前受金とは

④預り金と仮受金の違い

「仮受金」とは、入金時に取引の内容が不明であったり、金額が確定していなかった場合に使われます。仮受金は、一時的に処理するための勘定科目です。入金の内容や金額が分かった時点で正しい勘定科目に振り替えます。たとえば、取引先から30万円の入金があったが理由が不明な場合、契約者名ではない口座からサービス利用料と考えられる金額が送金されてきた場合などに、仮受金を使用します。仮受金として処理した後、内容を確認し、正しい勘定科目に振替えるとよいでしょう。預り金も仮受金も一時的に預かっている金銭に使われる項目であるという点では同じです。ただし、仮受金は確定されておらず、後に正しい勘定科目に変更される点で預り金とは異なります。

参考)仮受金とは

預り金の納付について

預り金には、住民税や源泉所得税などの税金、社会保険料が該当します。預り金は、すべてが納付の対象になるのでしょうか。この章では、預り金の納付について、正しい納付時期や、納付時期に遅れてしまった場合の対応などを解説します。

預り金は「納付」の対象になる?

前述の通り、預り金に該当する項目には、さまざまな種類があります。預り金のすべてが納付の対象になるわけではなく、納付の対象にならないものもあります。住民税・源泉所得税や社会保険料などは、公租公課(こうそこうか)と呼ばれ、納付対象として扱われます。会社や個人事業者は役員や従業員から預かったお金を忘れずに納付するようにしましょう。一方、社員旅行積立金や社内預金・財形貯蓄の積立金などは、会社や個人事業者の独自制度のため、納付の対象としては扱われません。

納付時期は決まっている?

住民税・源泉所得税や社会保険料などの納付時期は、明確に定められています。役員や従業員から徴収した住民税や源泉所得税は、会社や個人事業者が代行して税金を納める必要があります。それぞれ納付時期が異なるため、納付が遅れることのないよう、納付時期を確認することが大切です。

納付時期はいつ?

主な預り金の納付時期は以下の通りです。

住民税:給料を支払った月の翌月10日

納期の特例が承認されている場合は、6月から11月までに徴収した分: 12月10日、12月から翌年5月までに徴収した分:翌年の6月10日

源泉所得税:源泉徴収の対象となる給料を支払った月の翌月10日

納期の特例が承認されている場合、1月から6月までに支払った給料の分: 7月10日、7月から12月までに支払った給料の分:翌年1月20日

社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料):給料を支払った月の翌月月末

特例はありません。

住民税と源泉所得税には「納期の特例」があり、条件を満たしており、申請して承認されれば、納期を半年に1回にできます。

参考:国税庁「主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日」、日本年金機構「厚生年金保険料等の納付

納付が遅れてしまった場合は?

納付が遅れてしまった場合には、ペナルティとして延滞税や延滞金の納付が必要です。源泉所得税には、「不納付加算税」が発生します。健康保険料や厚生年金保険料では、督促状が送付され、督促状に記載された期日に間に合わない場合、延滞金が発生します。

参考:日本年金機構「延滞金について

預り金まとめ

預り金とは、会社や個人事業者が役員・従業員や取引先から、あらかじめ預かる金銭のことです。預り金には間違えやすい勘定科目もあります。それぞれの違いを理解し、適切な仕訳をすることが大切です。預り金の1つである住民税・源泉所得税や社会保険料などは、会社や個人事業者が納付を代行します。納付期限があり、遅れるとペナルティを払うものもあるため、納付が遅れないよう注意しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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