繰延資産とは?固定資産との違いや償却期間も解説

更新日:2023年06月09日

繰延資産

繰延資産とは、すでに発生して支払いしている金額のうち、支出効果が数年間に及ぶ費用を指します。資産に計上しても財産的価値はない点が、流動資産や固定資産との違いです。本記事では、繰延資産の具体例や仕訳処理の方法などについて解説します。

目次

繰延資産とは支出効果が1年以上に及ぶ費用

繰延資産とは、すでに発生して支払いしている金額のうち、支出効果が数年間に及ぶ費用のことです。費用にもかかわらず、資産として計上する点が繰延資産の主な特徴として挙げられます。

ここから、繰延資産の具体的な要件や、流動資産・固定資産との違いについて確認していきましょう。

繰延資産の具体的な要件

企業会計上、繰延資産の要件として以下の点が挙げられます。

  • 支払いが完了している、もしくは支払い義務が確定している
  • 上記に対するサービス(役務)の提供を受けている
  • 上記の効果が将来(次期以降)にも及ぶ

つまり、サービスの提供を受けて支払いが完了していたとしても、効果が当期にしか及ばない費用は、繰延資産の対象外です。

繰延資産と流動資産・固定資産の違いとは

財産的価値の有無が繰延資産と流動資産・固定資産との違いです。流動資産は現預金や売掛金のように1年以内に現金化する資産で、固定資産は不動産のように基本的に現金化までに1年超かかる(1年超保有する)資産を指します。

流動資産や固定資産と異なり、繰延資産は売却して換金することができません。ただし、貸借対照表上はいずれの項目も「資産の部」に記載されます。

会計上の繰延資産と税法上の繰延資産がある

企業会計上の繰延資産以外にも、税法上の繰延資産が存在します。「会計上の繰延資産」は企業会計原則などの会計基準に従うのに対し、「税法上の繰延資産」は税法に定められているものです。

会計上の繰延資産と税法上の繰延資産では、対象となるものの範囲が異なります。税法上の繰延資産に該当しても、会計上の繰延資産にあたらない場合があるため、注意しましょう。

そのほか、償却期間や償却方法も両者で異なります。

会計上の繰延資産とは

会計上の繰延資産とは、会計基準に従って計上する繰延資産です。会計上の繰延資産とは何か具体的にイメージできるように、具体例5つと償却期間・償却限度額を説明します。

会計上の繰延資産の具体例5つ

以下の費用を支出したときは、会計上の繰延資産として資産計上できます。

  • 創立費
  • 開業費
  • 株式交付費
  • 社債発行費
  • 開発費

ここから、上記5つの概要を確認していきましょう。

1. 創立費

創立費とは、会社を設立(設立登記)するまでにかかった費用のことです。主に以下の項目が創立費に該当します。

  • 定款の作成・認証費用
  • 印鑑証明書の取得費用
  • 会社設立にあたって司法書士などの専門家に支払う報酬
  • 設立登記にあたって支払う登録免許税

そのほか、会社設立の打ち合わせで利用したカフェの代金なども創立費に含められることがあります。ただし、会社を設立してから発生する費用は創立費に該当しない点に注意しましょう。

2. 開業費

開業費とは、会社設立登記から営業開始までにかかった費用のことです。主に以下の項目が開業費に該当します。

  • 会社設立を案内する広告宣伝費
  • パソコンの購入費用
  • 会社設立後、営業開始までにかかる接待交際費

創立費と開業費の区分についてはさまざまな考え方がありますが、会社設立「以前」、もしくは「以降」が両者を分ける基準といえるでしょう。

3. 株式交付費

株式交付費とは、株式募集のために支出した費用のことです。従来は「新株発行費」で処理されていました。株式交付費に該当する具体例は以下のとおりです。

  • 株式募集のための広告宣伝費
  • 株式交付に伴う金融機関・証券会社の取扱手数料

なお、株式交付費の対象は、新株発行だけでなく自己株式の処分にかかる費用も含みます。自己株式の処分とは、会社法に基づき保有する自己株式を売却などすることです。

4. 社債発行費

社債発行費とは、社債発行のために支出した費用を指します。社債発行費に該当する具体例は以下のとおりです。

  • 社債募集のための広告宣伝費
  • 社債発行に伴う金融機関・証券会社の取扱手数料

株式交付費は対象が「株式」であるのに対し、社債発行費の対象は「社債」です。株式は発行者に返済義務がないのに対し、社債は期間満了時に返済しなければなりません。

5. 開発費

開発費とは、新技術の開発や市場開拓などに支出した費用のことです。主に以下の項目が開業費に該当します。

  • 技術開発のための設備投資
  • 市場開拓のための調査費用

なお、「研究開発費等に係る会計基準」の対象となる研究開発費は、開発費と異なる項目です。研究開発費は、繰延資産として計上できず、全額費用処理しなければなりません。

会計上の繰延資産の償却期間・償却限度額

会計上の繰延資産の償却期間を判断する際は、まず均等償却か任意償却かを選びます。均等償却を選択する場合、創立費、開業費、開発費は5年以内に、株式交付費は3年以内に、社債発行費は社債の償還期限内の償却が必要です。任意償却を選んだ場合には、いつ、どれだけの金額を償却しても構いません。

また、企業会計上の繰延資産の償却限度額は、帳簿上の残存価額です。

税法上の繰延資産とは

税法上の繰延資産とは、法人税法上で定められた繰延資産です。税法上の繰延資産とは何か具体的にイメージできるように、具体例5つと償却期間・償却限度額を説明します。

税法上の繰延資産の具体例5つ

以下の費用を支出したときは、税法上の繰延資産として資産計上できます。

  • 公共的施設のために支出する費用
  • 役務提供の権利金
  • 概要や例を説明
  • 建物などを賃借するための権利金
  • 広告宣伝のための費用
  • その他支出の効果が1年以上に及ぶものの費用

ここから、上記5つの概要を確認していきましょう。

公共的施設のために支出する費用

公共的施設のために支出する費用とは、設置や改良によって自社に恩恵がある公共施設に払う費用のことです。国税庁の法令解釈通達8-1-3に具体的な規定があります。

公共的施設の代表例は、ベンチや商店街のアーケード、所属する協会の会館などです。

役務提供の権利金

役務提供の権利金とは、経営などに必要な情報を得るための費用です。国税庁の法令解釈通達8-1-6に具体的な規定があります。役務提供の代表例はノウハウの頭金やフランチャイズの加盟料などです。

建物などを賃借するための権利金

建物などを賃借するための権利金とは、建物や電子計算機などの資産を貸借する際に支出する費用です。国税庁の法令解釈通達8-1-5に具体的な規定があります。建物などを賃借するための権利金の代表例は、借家の権利金や礼金などです。

広告宣伝のために資産を贈与したことの費用

広告宣伝のために資産を贈与したことの費用とは、自社製品やサービスを宣伝するにあたって資産を贈与した場合や、著しく低い対価で譲渡した場合における取得価額と譲渡対価の差額のことです。国税庁の法令解釈通達8-1-8に具体的な規定があります。

広告宣伝のために資産を贈与したことの費用の代表例は、自社の特約店に譲渡する看板や、加盟店に譲渡する陳列棚などです。

その他支出の効果が1年以上に及ぶものの費用

その他支出の効果が1年以上に及ぶものの費用とは、上記に掲げた項目以外に、自社の便益のために支出する費用のことです。国税庁の法令解釈通達8-1-9、8-1-10、8-1-11、8-1-12に具体的な規定があります。

その他支出の効果が1年以上に及ぶものの費用の代表例は、スキー場のゲレンデ整備費用や同業者団体への加入金などです。

参考:国税庁「法令解釈通達 第8章 繰延資産の償却 第1節 繰延資産の意義及び範囲等」

税法上の繰延資産の償却期間・償却限度額

償却期間は資産ごとに定められています。詳しくは、国税庁のホームページ「繰延資産の償却期間」にてご確認ください。

また、償却は該当する償却期間で均等償却をします。償却限度額は、以下の計算式で算出します。

  • 繰延資産の額 × 当期の月数 ÷ 償却期間の月数

繰延資産の会計処理

繰延資産の会計処理ができるように、勘定科目と仕訳について解説します。

繰延資産の勘定項目

会計上の繰延資産は、貸借対照表上そのまま「繰延資産」の勘定科目を用いることが一般的です。また、創立費や開業費など内容に合った科目を使うこともできます。一方、損益計算書に使う勘定科目は「繰延資産償却」(創立費償却や開業費償却など)です。

なお、税法上の繰延資産の場合、貸借対照表では「長期前払費用」、損益計算書では「長期前払費用償却(減価償却費)」を使います。

繰延資産の仕訳

繰延資産の仕訳は、任意償却(一時償却)を選択するか、均等償却を選択するかによって異なります。会社設立費を50万円支払い、「創立費」を計上するケースでそれぞれ確認していきましょう。

任意償却(一時償却)の場合

創立費を任意償却で一度に全額を償却する場合の仕訳は、以下のとおりです。

借方 貸方
創立費 500,000 現金 500,000

右側の「貸方」に支払った「現金」と金額(50万円)を記載します。続いて、左側の「借方」に「創立費」50万円を記載しましょう。全額償却する場合、これで完了です。

均等償却の場合

均等償却の場合、繰延資産としての計上と、毎年償却の仕訳が必要です。まず、任意償却の場合と同様に繰延資産として仕訳しましょう。

借方 貸方
創立費 500,000 現金 500,000

創立費を均等償却する場合、期間は5年間です。そのため、今回は毎年10万円ずつ償却します。

借方 貸方
創立費償却 100,000 創立費 100,000

左の「借方」に「創立費償却」を10万円計上します。また、すでに計上している50万円から10万円引くために、右の貸方に「創立費」を10万円記入しましょう。

繰延資産を活用する方法

会社設立してすぐに大きな売上を出すことは難しいです。そこで、創業費や開業費などを繰延資産として計上すれば、帳簿上の支出を抑えられます。

会計上の繰延資産償却は、期間内であればいつでもできるため、翌年からすぐに償却せず、黒字確保してから対応することも可能です。自社の状況に応じて、繰延資産を活用するとよいでしょう。

繰延資産まとめ

繰延資産は、すでに支払いしている金額や発生している金額のうち、支出効果が数年間に及ぶ費用を指します。会計上の繰延資産と、税法上の繰延資産がある点に注意しましょう。

会計上の繰延資産の具体例は、創業費や開業費などです。また、仕訳の際は、貸借対照表で「繰延資産」、損益計算書で「繰延資産償却」の勘定科目を使います。

会社を設立した直後で売り上げが少なく費用がかさむ場合は、繰延資産として資産計上することも検討しましょう。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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