個別注記表とは~記載事項と中小企業が作成する際のポイントを解説~

更新日:2023年04月04日

個別注記表

個別注記表とは、決算書の内容を補足する文章です。会社の損益の状態や財産について、銀行や債権者、ステークホルダーが把握しやすくするために記載します。個別注記表の作成は、会社法によって義務付けられているため、必ず作成しなければなりません。ただし、書類として個別に作成する必要はなく、各計算書類に付随して記載する形式でも構いません。本記事では、個別注記表の概要や記載事項、作成するときのポイントについて解説します。決算書作成やチェックの際にお役立てください。

個別注記表の記載は必須?

新会社法(2006年施行)に基づいて定められている「会社」は、株式会社・合同会社・合名会社・合資会社・の4種類です。さらに、2006年までに設立された有限会社を加えた5種類が、個別注記表を記載する対象となります。ここでは、会社によって異なる個別注記表の扱いについて解説します。

株式会社では多くの記述が求められる

株式会社では、個別注記表を作成する際に多くの項目を記載する必要があります。なぜなら、会社の所有者(株主)と経営者が異なるケースが多く、経営状態を所有者に対して明確に伝える必要があるためです。株式会社は、会社法で定められる3種類に分類でき、形態ごとに注記事項が異なります。

▼会社法で定められる株式会社の種類

公開会社 株式譲渡に株主総会や取締役会の承認が必要な株式会社
非公開会社 株式譲渡に承認が必要ない株式会社
会計監査人設置会社 会計監査人の設置が必要な会社。資本金5億円以上、もしくは負債200億円以上の会社に設置の義務がある。

他4種類は個別注記表の記入項目が少ない

合同会社・合名会社・合資会社・有限会社でも個別注記表の記入は必要ですが、個別注記表の作成時に必ず記載しなければいけない項目は、株式会社よりも少なくなります。

なぜなら個別注記表は、会社の損益や財産の状態を外部へ提示することが目的となっているためです。上記の4種の会社形態の場合、所有者と経営者が同一のケースが多く、会社の状況を理解できていることが一般的とされています。
ただし、銀行から融資を受ける場合や、外部投資を受ける際は、詳細な記述があるほうが審査に通りやすくなる可能性があります。

個別注記表の記載事項は19項目

個別注記表の記載事項は、全部で19項目あります。

ここからは、どのような項目があるのか、具体的な内容について解説します。個別注記表を作成する際は、ぜひ参考にしてください。

1. 継続企業の前提に関する注記

「継続企業の前提に関する注記」は、企業の継続が困難な場合に、原因や対応策を注記する項目です。企業が無期限に事業を続けることを前提としているため、業績が芳しくない場合は説明をする責任があります。

2. 重要な会計方針に係る事項に関する注記

「重要な会計方針に係る事項に関する注記」では、以下の5つの事項について記載します。

①有価証券・棚卸資産の評価方法
②固定資産の減価償却の方法
③引当金の計上基準
④収益及び費用の計上基準
⑤前述以外の計算書類作成する際の、基本となる重要な事項

3. 会計方針の変更に関する注記

会計方針とは、財務諸表の作成において、どのような算定方法を用いているのかを開示する項目です。会計方針を変更した場合は、その内容や理由を注記する必要があります。

また、新たな会計方針を過去の会計処理に遡って適用した場合には、作成する事業年度の純資産額にいくら影響を与えるのか、金額も注記する必要があります。

4. 表示方法の変更に関する注記

表示方法とは、財務諸表の作成で計上された数値を、どのように開示するかを定める内容です。従来と表示方法が変わった場合は、変更内容と理由を注記します。

5. 会計上の見積りの変更に関する注記

会計上の見積りとは、財務諸表を作成する時点で不確定な数値を算定することです。

不確定であった金額が結果的に大きく異なった場合、過年度の財務諸表が当事業年度の財務諸表に影響を及ぼす可能性があるため、数値に変更が出た場合には、変更内容と影響した金額を注記する必要があります。

6. 誤謬の訂正に関する注記

誤謬(ごびゅう)とは、過去に作成した財務諸表において誤りや脱漏があることをいいます。誤った内容を修正した場合、過去の誤謬の内容、1株あたりの影響額、過去の会計処理に修正を適用した際の累積的に影響した額を注記する必要があります。

7. 貸借対照表に関する注記

「貸借対照表に関する注記」には、必要に応じて9つの事項について注記します。

①担保に供している建物や土地などの資産の内容と金額、債務の金額
②資産から直接控除した貸倒引当金の各項目と金額
③資産から直接控除した減価償却累計額の各項目と金額
④減損損失累計額を減価償却累計額と合わせて表示した場合、その旨
⑤保証債務の各内容と金額
⑥関連会社に対する金銭債権や金銭債務の項目と金額
⑦取締役や監査役などの役員に対する金銭債権や金銭債務の項目と金額
⑧親株式会社の株式を保有している場合、各表示区分別の金額
⑨土地を再評価した場合の方法、年月日、再評価した年度と再評価後の時価との差額

8. 損益計算書に関する注記

「損益計算書に関する注記」では、関係会社との取引高と、営業取引以外の取引による取引高の金額を記載します。会社の収益を分析して、経営判断をするために必要な項目となります。

9. 株主資本等変動計算書に関する注記

「株式資本等変動計算書に関する注記」では、必要に応じて5つの事項について注記します。

①事業年度の最終日時点での発行済株式の数
②事業年度の最終日時点での自己株式の数
③事業年度中の剰余金の配当
④事業年度の最終日時点での、株式引受権にかかわる株式の数
⑤事業年度の最終日時点での、新株予約権を目的とする株式の数

10. 税効果会計に関する注記

繰延税金資産および繰延税金負債が発生した場合には、その原因について注記します。

11. リースにより使用する固定資産に関する注記

リース取引のうち、所有権移転外ファイナンス・リース取引を採用している場合は、リース物件ごとに、期末日における4つの事項について注記します。

①取得原価相当額
②減価償却累計額相当額
③末経過リース料相当額
④その他、リース物件にかかわる重要な事項

12. 金融商品に関する注記

「金融商品に関する注記」では、金融商品の状況や時価を注記します。金融商品には、現金預金や金銭債権、有価証券などが含まれます。

13. 賃貸等不動産に関する注記

「賃貸等不動産に関する注記」では、家賃収入を目的として賃貸不動産を保有している場合に、賃貸等不動産の状況や時価について注記します。

賃貸等不動産は、棚卸資産に分類していない不動産を指します。製造や販売用の物件、経営管理に自ら使用している物件については含まれません。

14. 持分法損益等に関する注記

「持分法損益等に関する注記」では、関連企業に対する投資金額や損失、利益について注記します。ただし、注記が必要なのは、関連会社があり、開示対象特別目的会社がある場合に限られます。

開示対象の特別目的会社とは、投資家への利益の配分や資金調達、M&Aなど、資金の流動を目的とした会社のことです。

15. 関連当事者との取引に関する注記

「関連当事者との取引に関する注記」には、以下の当事者と取引した場合において、取引先の名称や取引内容、金額を注記します。

①親会社
②子会社
③兄弟会社
④関連会社、もしくは関連会社の親会社や子会社
⑤役員及びその近親者
⑥ 従業員のための企業年金

16. 一株当たり情報に関する注記

「一株当たり情報に関する注記」では、一株当たりの純資産額、純利益、純損失を注記します。

17. 重要な後発事象に関する注記

「重要な後発事象に関する注記」では、決算日以降に財産や損益にかかわる重要な事項が発生した場合に注記します。

18. 連結配当規制適用会社に関する注記

当事業年度の末日が最終事業年度の末日になるあとに、連結配当規定適用会社へと変わる旨を注記します。

19. その他の注記

上記の項目以外で、経営にかかわる会社の財産や、損益にかかわる事項がある場合には注記をします。例えば、企業結合や事業分離、退職給付に関する事項が挙げられます。

会社の形態ごとに必要な記載項目

注記事項は、株式会社の形態ごとに最低限必要な項目が異なり、会計監査人設置会社・公開会社・非公開会社で分けられます。

監査人設置が義務付けられる会社は比較的規模が大きいため、ここでは取り上げずに、公開会社と非公開会社に絞って必要な項目を一覧にまとめました。

中小企業は主に非公開会社に該当する傾向があるため、中小企業担当者は公開会社と必要項目を比較して、作成時の参考にしてください。

注記事項 公開会社 非公開会社
1. 継続企業の前提に関する注記 × ×
2. 重要な会計方針に係る事項に関する注記
3. 会計方針の変更に関する注記
4. 表示方法の変更に関する注記
5. 会計上の見積りの変更に関する注記 × ×
6. 誤謬の訂正に関する注記
7. 貸借対照表に関する注記 ×
8. 損益計算書に関する注記 ×
9. 株主資本等変動計算書に関する注記
10. 税効果会計に関する注記 ×
11. リースにより使用する固定資産に関する注記 ×
12. 金融商品に関する注記 ×
13. 賃貸等不動産に関する注記 ×
14. 持分法損益等に関する注記 × ×
15. 関連当事者との取引に関する注記 ×
16. 一株当たり情報に関する注記 ×
17. 重要な後発事象に関する注記 ×
18. 連結配当規制適用会社に関する注記 × ×
19. その他の注記

個別注記表の記載例・ひな型

個別注記表は、株式会社の決算書に必須となる項目のため、さまざまな企業のIR情報から確認できます。IR情報を公開している企業は、上場企業や大企業が多くなり、中小企業とは記載項目が異なるケースもありますが、記載方法の参考にできます。

企業のホームページの「IR情報」から、「四半期報告書」を開くと、各計算書に付随して掲載されています。ひな形を確認したい場合には、一般社団法人 日本経済団体連合会のホームページにひな形が掲載されています。

【参考】会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)「Ⅲ 計算書類」|一般社団法人 日本経済団体連合会

中小企業で個別注記表を作成するポイント

中小企業には、中小企業庁が定める、中小企業の実態に即した会計ルールの「中小会計要領」があります。これは、会計資料の作成において、人員や経費に関する中小企業の負担を減らすための措置です。

利用する場合は、個別注記表をルールに則って記載する必要があり、以下の文章を個別注記表の冒頭に必ず記載してください。

「この計算書類は、「中小企業の会計に関する基本要領」によって作成しています。」

中小会計要領を利用して、明確な決算書が提出できれば、資金調達をしやすくなる可能性があります。

【参考】中小会計要領について「中小会計要領を入手する」|中小企業庁

個別注記表を作成しない場合

個別注記表は、株式会社の決算書作成において作成が義務化されていますが、作成していない場合でも罰則は設けられていません。

とはいえ、個別注記表の記載がなく、決算書に不明瞭な点があれば、会社の信用が低下してしまう可能性もあります。銀行からの融資や投資家からの投資を受けにくくなる可能性があるため、個別注記表はできる限り作成することをおすすめします。

個別注記表まとめ

スタートアップ企業や中小企業であっても、株式会社である場合は個別注記表の作成が必須です。しかし、経理の人員が足りない、会計スキルが不足している場合は負担が大きくなることも考えられます。会計ソフト「フリーウェイ経理Lite」なら、個別注記表も無料で簡単に作成できます。

この記事の監修者

牛崎 遼 株式会社フリーウェイジャパン 取締役

2007年に同社に入社。財務・経理部門からスタートし、経営企画室、新規事業開発などを担当。2017年より、会計などに関する幅広い情報を発信する「会計ブログ」の運営責任者を継続している。これまでに自身で執筆または監修した記事は300本以上。

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